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おかえり、春

できるだけ、少ない口数で愛を伝えたい、そしてできるだけ、少ない優しさを僕にください、鈍くなった春が遠い、一度手放した言葉が巡り巡ってもう一度僕のもとへ帰ってくるのなら、君への生きていてほしいがいつからか僕への言葉になって、それがすごく気持ち悪くて胸がつかえる朝、耳元で海の音がして、自分が泣いていることに気づくのはいつになるんだろう、もう、このまま心ごと飛び出して、伝わるはずのなかった柔らかさまで泳いでゆきたい、世界が色を変える時、なにひとつ変わっていかないものは存在しないけれど、それでも目にした光景は、僕だけのものにしてしまいたいし、揺るがない想いがただひとつ、そこに在ればそれでいい、とか、そういう重さをたくさんたくさん抱えている、体温が流れていくのと同じように、時間も引き伸ばされているんだね、このまま空を飛んで時空も飛び越えてゆけるって、たしかにそう誰かが言っていた、ような、相対性理論でいえば僕らはみんな未来にも過去にも行けるのだから、じゃあいまのこの感情もいつかの誰かが見つけてくれるのかもしれないなって、そう期待していても許されるかな、自分のこともよく覚えていられないのだから、記憶が正確でなくてよかったねと思う、心の中が見えてしまわなくてよかった、悲しみが、悲しかったかもしれないになるから、痛みが、痛かったかもしれないになるから、曖昧な方が惹かれると言うし、不規則な方が気になるものだし、いつまで経っても君の気持ちがわからないから、なにを思っていても、不正解にはならないことだけがひかりで、それだけが全てで、まだ終わりそうにない日々を頭の中で奏で始める、伝えるための言葉は正しいけれど、伝えないための言葉だって同じくらい正しくあるべきで、きっとそこにしかない赤らみが、君の目前で途切れる過程で初めて意味を持つんだと思う、いまから手放す言葉が、ちゃんと生きていくから見てて、僕だってほんとうは、同じくらい抱きしめられたかったよって、これももう何度目になるんだろうね、季節の一周分、僕はなにか変われたのかな、また会えてよかった、で合っているのか分からないけれど、おかえり、春。

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