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(期間限定無料)【小説沙門清正 宗像周遊編⑤】悪魔崇拝者二人について
「板垣退助は自由民権運動の旗手でしょう。そして谷干城は学習院の創設者でもあられる。お二人とも近代日本の理性的な側面の象徴であるかのような方々だ」宗像の後輩である筑後が、歴史上の登場人物をまるで実際に知っているかのように弁護して言った。「清正さんでしたか?君のいう様に明治維新の闇とはとても思えない」
「歴史はつねに勝者によって記されます。一方が敗れ去ると、勝った側は歴史書を書き著す。自らの大義を主
【小説沙門清正 宗像周遊編④】沙門清正、宗像にて先祖を語る
「谷秦山がどうだっていうんですか」宗像の後輩である筑後が言った。両の眼が漆黒に塗り固められて清正に据え付けられていた。
「谷秦山を知っていますか。めずらしいですね。高校生のころ日本史選択肢でしたか」清正は特段どうということもないというように言った。筑後は視線を保ったまま、だまっていた。
「誰かね、その谷秦山というのは。それほど有名な人物かな」宗像の父である惟門がにこにことしながら口をはさんできた。
【小説沙門清正_宗像周遊編③】沙門清正かくかたりき あるいは悪魔崇拝の話について
「ゲイが多重人格障害と悪魔崇拝であるとはおだやかではない言い方ですね」宗像の後輩である筑後が言った。「少し突飛なような話に聞こえます」
「悪魔崇拝をしている人間がいる、というのは、日本以外の国ではわりと当たり前の話ではあります」清正が筑後の方に目をやりながら答えた。「日本人にはなじみがないのは分かりますがね。日本では狐につかれる、という言い方が好まれますがね。西洋的な言い方をすれば、笹井のバカは代
【小説沙門清正_宗像周遊編②】沙門清正、道の駅むなかたにて、アイスコーヒーで禊ぐ
「道の駅むなかた」は清正の職場の知人である宗像の実家の家の近くにある。清正は先ほど道の駅で購入したアイスコーヒーを飲みながら、近くを流れる釣川河口から玄界灘を眺めた。美しい海とその上にある広大な空の青を見ていると心が洗われるようである。
「無駄なものが何一つない」清正は思った。こうしていると醜い人間社会の垢が落ちるようでもある。清正は靴と靴下を脱ぎ、目の前の海に浸してみた。寄せては返す波の振動が足
【小説 沙門清正】沙門SEISHO 祇園とZIONをかく語る
川豆田 恵 事務の女性
笹伊 博文 漢文講師
浜田 英語講師
「そうするとやはりまた、あの川豆田の虚言癖ですか」清正は目の前の沖浦和光の書いた本を読むのを止めながら、隣の席の背の高い男に聞いた。
「そうです。川豆田の虚言です。僕はあんなしわだらけの女に言い寄るような性癖はありません。」男はしっかりと清正の方に柔和な顔を向けて答えた。姿勢がよいのは学生時代に柔道をやっていたからであろう。仕立ての良
(期間限定無料)【誰がために芸術はある 芸術批評_01】貧者の一橙(ひんじゃのいっとう)と天啓回帰 芥川の「蜜柑」を読んで
人権思想が浸透した一応法治国家の日本において、その守られるべき基本的人権が日常的に蹂躙されているものの一つは、朝夕とサラリーマンを苛む通勤列車であろう。生活のため、家族のためと自身に言い聞かせ、自らの身体と、その内奥にある夢や志、あるいは幾ばくかの慈愛を、満員の電車の中に圧搾していく作業は、まさに現代の抱える病巣そのものである。時代をこえて、かつて、天才芥川もこの虚無の巣の中にいた。
短編「蜜