【短編小説 部屋とファンファーレと未来予言】

【小説 部屋とファンファーレと未来予言】

俺は敬礼をする衛兵たちに軽く目で会釈をすると、その個室の中に入っていた。

中には、図体の大きな男が一人、その場の暗さにはそぐわない明るい色のチノパンにポロ・ラルフローレンのシャツを着て、座っていた。さわやかな服装の色合いに対して、男の顔は角刈りで古い顔をしていた。180cmを越える日本人にしては大男だが、そのからだは女のような丸みを帯びており、何の苦労もなく、そして何の試練にも向き合わず、ただ親のいわれるままに、周りの上席のいわれるままに生きてきた男の人生を表していた。きっとこの手の何の能力も持たないお上級国民様たちが、その知能と同様低い精神性と見識をもって、政界や財界、果ては医療業界に至るまで寄生虫の様にはびこり、宿主たるこの国をここまでの絶望に陥らせたのであろう。

「ああ、お前か。待っていたよ」男は落ち着いた様子でこちらに視線を向けた。「お前が来ることは分かっていた。俺はそういうの何となく分かるんだ。人の意識がこちらに向かっているかどうか、その人間が俺に対して持つものは好意か悪意か。そういうものを総合的に考えると自然と先のことが読めるようになってくるんだよ。いざなぎ流のね、そういう家系なんだ。」

俺は机の上に置いてあったガラス製の灰皿を手でわしづかみにすると、右側からそいつの顔を殴りつけた。ゴンという、鈍い音がし、そいつの口からは白いもの、おそらく歯であろうが、が二、三個転げ落ちて行った。歯がころがる、乾いた音が部屋に響き渡った。

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