(期間限定無料)【短編小説 部屋とファンファーレと未来予言】

【小説 部屋とファンファーレと未来予言】

俺は敬礼をする衛兵たちに軽く目で会釈をすると、その個室の中に入っていた。

中には、図体の大きな男が一人、その場の暗さにはそぐわない明るい色のチノパンにポロ・ラルフローレンのシャツを着て、座っていた。さわやかな服装の色合いに対して、男の顔は角刈りで古い顔をしていた。180cmを越える日本人にしては大男だが、そのからだは女のような丸みを帯びており、何の苦労もなく、そして何の試練にも向き合わず、ただ親のいわれるままに、周りの上席のいわれるままに生きてきた男の人生を表していた。きっとこの手の何の能力も持たないお上級国民様たちが、その知能と同様低い精神性と見識をもって、政界や財界、果ては医療業界に至るまで寄生虫の様にはびこり、宿主たるこの国をここまでの絶望に陥らせたのであろう。

「ああ、お前か。待っていたよ」男は落ち着いた様子でこちらに視線を向けた。「お前が来ることは分かっていた。俺はそういうの何となく分かるんだ。人の意識がこちらに向かっているかどうか、その人間が俺に対して持つものは好意か悪意か。そういうものを総合的に考えると自然と先のことが読めるようになってくるんだよ。いざなぎ流のね、そういう家系なんだ。」

俺は机の上に置いてあったガラス製の灰皿を手でわしづかみにすると、右側からそいつの顔を殴りつけた。ゴンという、鈍い音がし、そいつの口からは白いもの、おそらく歯であろうが、が二、三個転げ落ちて行った。歯がころがる、乾いた音が部屋に響き渡った。

「上谷。そういうボンボンのくだらない自己演出はいらない。許されているお前との面会時間はそれほど長くはないんだ。あと、俺を慣れ慣れしくもお前呼ばわりするのはやめてもらおうか。同じ会社の同期入社だったのはもう20年も前の話だぜ。」俺はうめき声を上げて悶絶するその男の前の椅子に座り、穏やかに言った。「40過ぎたおっさんの自己演出には聞くに堪えない。次に俺の癇に障ったら、その時は、歯じゃ済ませない。そこにあるボールペンでお前の目玉をくくり出すからな。イルミナティの末端としてきたお前にはちょうどいいだろう。」

男はうめき声をあげながら、言葉にならない言葉を発していたが、俺には聞き取れなかった。人間の耳と言うものは、聞く必要のないことを聞き取らないようにできているのだろう。

「いい加減うるさいからその女みたいな鳴き声をやめろ」俺は男に伝えた。この後に及んで自身の身体的な痛みでそこまで騒げるのだから、大したものだ。この「失われた30年」と言われた時代に続く、「国家消失の10年」と言われる時代の中、この寄生虫どもが外国勢力に協力し、媚びへつらいながら、自家繁栄に国家の資源や金を使う中、一般大衆は塗炭の苦しみの中に長らくあり続けているのだ。この男の歯や目の所在がどうして問題になるだろうか。

「髙杉が、今回の件をやったのか。俺たち、八咫烏や李家・両班の子孫たちをさらって、拷問にかけて殺していたのは、お前だったんだな。。。」男がうめき声の中からようやく意味のなりそうな言葉をつなげた。

 俺は持っていたボールペンを男の右手の甲に突き刺した。もし本当に今回の一連の動きが自分がやったことだったらどれだけよかっただろう。だが、革命軍の中ですでに穏健派とみられている俺の人気は去っている。当初、腐敗した国家に対して、選挙などを通して社会改革を求めいていた勢力たちは、政府による徹底した弾圧と、拡大していく国民負担率の結果、急激に過激化した。もはや漸進主義の時代、現行の政治・経済システムに学歴エリートたちががマイナーチェンジを加えて、どうにか対応するという時代はとうに過ぎたのだ。時代はカイカクよりも革命をもとめ、相互理解よりも血を求めていた。しかし、この旧時代の腐敗した特権階級の政府の象徴たるこの男の程度の悪い頭ではそのことは分からないだろう。

「確かに俺は、お前を八咫烏をつかって監視し、徹底して身動きとれないようにした。女に目がないお前にハニートラップもかけようとしたし、テレビの電波を使って、お前を侮辱するような論調を作り出したりもした。いわゆるガスライティングだな。お前をとことん苦しめて、追い込んでやろうとしていたんだ。。。俺はお前が憎かったから。。」上谷は自分の話に酔っているのか、それとも痛みを和らげようと脳内に出ているホルモンのバランスのせいなのか、涙を流しはじめながら言った。「俺とお前は水と油なんだ。お前は常にこの国の指導者に逆らい、貧乏人どもの人気どりをしたがる西郷隆盛の真正の子孫で、俺は谷干城の子孫だから。。。俺たちはお互いに殺し合わなければいけないし、憎しみ合わないといけない。お前が調べた通り、谷家というのは神官の家系で、バアルを崇拝しているんだ。バアルは強欲だから生贄が必要。。。あとはお前も知っての通りさ。白々しい愛国心を以て人気どりをする俳優や、俺たちが作った小児性愛の斡旋ビジネスのネットワークを調べ始めた薄っぺらい正義心をふりかざす庶民のジャーナリスト、俺たちが管理する広告代理店に食わせてもらいながらやたらと口答えをする小賢しい東大出身の片親の女、皆殺してやった。俺たちのような渡来人の家がそのような儀式を連綿とつなげていくことでこの国は守られてきたんだよ。お前なら、真の愛国心と物事の本質を見通すことができる目をもつお前なら、薄っぺらな人道主義に惑わされず、その価値と偉業が分かるだろう。」

こいつがチェーンのステーキハウスや牛丼屋の店長や店員などの人員を動かして、その倉庫などの施設を利用し、女子供をさらい海外に人身売買として流していたことはすでに他の連革命のメンバーの中心的な存在に聞いて、俺は知っていた。それらが金銭的な利益をもとめるためのものだけでなく、「日本は元々未開で人間全体の原罪の象徴たる国であり、悪魔の国である」ということを主張する、相互に便宜をはかりあう複数のトライ系カルト宗教団体による、生贄の儀式のためでもあることもすでに調べがついている。

「お前は、霊感に優れ、呪いたい人間を歯痛にする能力に長けている。お前の元は大神とか名乗っている三輪山の蛇に仕えている連中だろう」俺は、二年前の歯痛の痛みを思い出していった。山内容堂のように俺もこいつに歯痛で殺されていたかもしれない。その痛みを思い出して、俺は腹がたったのでもう一度ボールペンで上谷の手を突き刺した。
 
俺は、こいつに組織的にやられた嫌がらせを一つずつ丹念に思い返しながら、上谷の手にボールペンを突き刺し続けた。たまにはこんな気晴らしをするのも許されるだろう。なにせ俺はボランティアのようなものでこの革命の端緒をきっているのだ。この革命というか、渡来人狩りによって、俺が得られる利得も精神的な充足も何もない。ボールペンが刺さるたびに上谷は気持ちの悪いうめき声をあげた。

「あと、あの離島にいる、自称西郷隆盛の子孫は、、、あれは偽物だな。お前の家の人間に背乗りさせたんだろう。血統のつながりを感じない。お前は西郷隆盛の血統が、自分たち渡来人の反対勢力の中心軸にならないように封じ込めたつもりだったんだろう。俺が本当に許せないのはその、西郷隆盛の家を背乗りによって汚したことだけだ。あとのことは、お前の俺への仕打ちとかはどうでもいい。お前がモルジブだのケイマン諸島だの言って、資産隠し、税金のがれを大々的にやってたり、俺の友人の嫁さんに手だしたりしたことは本当にどうでもいいんだ。そんなの旧華族の穢れどもは鹿鳴館の時代から、みんなやっていることだろう。その度に上級国民を殺してたら割に合わない。。。いちいち個人的な恨みで人をころしてられない。だが、お前は俺の祖先を侮辱した」

「そうだ。全部俺がやった。ネットでお前にたびたび絡んできた連中も全部俺がやらせていた。お前の家にチンピラを侵入させらしたのも俺さ。ハハハ」上谷は急に体を震わせて、金切声のような高い声で笑い出した。また憑依されたのだろう。悪魔崇拝の家は簡単に悪魔に憑依される。虐待を幼少期に加えることで、第二人格を創り出しそこに憑依させるようにするのだ。しかし、生贄がなければ呼べるのは大した悪魔ではないだろう。低級霊が取りついているだけだ。

「俺はお前が憎かった。庶民の癖に東大に入り、俺たち上級国民が争うべき枠をとる。おれは小さいころから特別優秀な家庭教師を使っているのに、お前みたいな貧乏人の庶民が受験制度上の齟齬とは言え、俺よりよい結果を出すとは許せない。俺たちの家が新鮮な文明をこの国にもたらしたんだ。それがなければお前ら日本人なんてただの猿さ。ハハハ」

 俺は除霊も面倒くさくなって、また灰皿を、今度は谷の左の頬にたたきつけた。歯らしきものがまた何本か飛んで行った。個人的な恨みは持つべきではないが歯痛の分くらいはいいだろう。

「痛みは正気にもどすだろう。上谷よ。個人的な話なんて俺はどうでもいいんだ。お前ら知能障害の上級国民の薄っぺらい悩みも俺たち庶民にとってはどうでもいい。お前の知能では理解も難しいかもしれないが、話は個人の恨みとかなんて超えたところに来ているんだよ。重要なのは、今、この日本が外国に実際に軍をもって攻め込まれているという事実なんだ。お前ら、上級国民を血統だけで、上に据えて国家の運営をやらせてみたこのバブル後の何十年、日本は失い続けたんだよ。その知恵おくれの学習障害のイルミナティの上級国民のおかげで。お前はその責任をとって、早晩、革命軍にギロチンにかけれれて死ぬんだよ。その結論に変更はない。お前の自己演出も、自己開示もその決定した死という結果については全く影響を及ぼさないんだ。大切なのは楽に死ぬか、苦しんで死ぬかなんだよ」

俺は言った。このちえおくれの悔恨の話など聞いてもしょうがない。要は子供たちを誘拐してとらえている倉庫の場所と儀式の場所を全部はけ、ということだ。おれたちにはさらわれて、悪魔崇拝の生贄にさらされる子供たちをトライ系の上級国民から救う仕事が残っている。低級霊など相手にしている暇はない。

「ひ~~。許してくれ。お前の口利きでどうにかなるだろう。俺は知らないんだ。管理はもっと下の、伊藤博文やら大久保利通やらの子孫たちの家がやっているから。情報を守るためには相互に情報開示レベルを守らねばならない。すべての情報が俺の手元に入ってくるわけではないんだ」上谷は言った。おそらく、向こう側からは上谷はただの軽くて馬鹿な神輿くらいに思っているのだろう。その実務系を司る家の方が家格は下でも実力は遥かに上であり、これからはそいつらを狩っていかなければならない。こいつにいつまでもかかわっている暇はない。

「俺にそんな力はないよ」すでに革命軍の中で俺の人望は去っている。その理由は俺自身が一番よく知っている。

「谷よ。俺はもう疲れているんだ。昔の俺は、長い間、事の詳細について、なんとなくわかっていながら、何もしなかった。それどころか、要所要所で、もはや切るべき政府に一縷の望みをかけ、優秀な官僚が実務班の中いるってことで完全に壊れた政治システムを生かした改革を主張し、高校時代の落ちこぼれの知人が行った大学の、ゴミみたいな広告研究会やお遊びサークルにも一分の理があるのではないかと自分をだましてきて、そして世の中も惑わせてしまったんだ。俺の弱さであり、おれの罪だよ。俺は人間の善意を信じすぎた。そしてそのことが、性善説に立つという俺たち人間に課せられた洗脳こそが、この国を今滅ぼそうとしている。そして、その放置されたお前らみたいな悪魔の世界運営によって、現生文明や、この地球までも危険にさらしている。。。俺はもう疲れたんだよ。」俺は血まみれになった灰皿を投げ捨てながら言った。

「おれは今までこの国の危機を見過ごしてきた罪人さ。でも上谷、そんな惰弱で愚かな俺でも先祖である西郷隆盛を侮辱したところだけは許せなかった。義憤のみでは煮え切らなかった俺が私憤においては行動に至る。俺も結局はそんな程度だが、挑発してくれて今は感謝しているよ。結果オーライというところだろう。それに国民の心から西郷隆盛を失えばこの国は亡びる、、徳富蘇峰の予言もある。お前らが支配しているトライ系の出版社を使って西郷隆盛を侮辱し続けてきた結果だな。俺はその挑発にのってやったよ」

 俺は話ながら怒りを思い出し、上谷の目にボールペンを突きつけくりぬいた。最初は右をそして次は左を。

「両目とった。お前はもう片目のイルミナティでない。数日後、おまえの処刑がされる。後のことは気にするな。安らかに眠れ。谷干城の子孫よ。」俺は言った。

「ひ~~。待て、俺のこどもはどうなる。子供たちは?」谷は床を転げながら言った。

「俺にはわからん。五分刻みにされるか、一想いに殺されるか。それは俺には何も決められないんだよ。だが、背乗りをしっかり作ってお前の家は残してやるよ。全然関係ないこどもをお前の死んだお前の戸籍にいれて育ててやる」

バタン。俺は部屋から去った。

「上谷は場所をはいたか。」
俺の旧友である革命軍総裁が立ち去ろうとする俺に話しかけてくる。

「いやあいつは知らなかった。目までくりぬいてやったんだけどな。俺個人の話で言えば少しは気が晴れたよ。いずれにせよありがとう。便宜を図ってもらって。助かったよ」

「お礼を言うなら今後のこと、お前にも手伝ってもらいたい。」男は言った。「あいつらがせめてくる。お前も手伝え。お前は戦うべきだ」

「俺にはもう何もできない」

「お前はまた帰ってくる」

俺は立ち去った。

「レッセフェール(すべての背乗りと穢れに死を)」

古いビルの中からは今回の革命の合言葉になった言葉がこだましていた。


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