(期間限定無料)【小説沙門清正_宗像周遊編③】沙門清正かくかたりき あるいは悪魔崇拝の話について

「ゲイが多重人格障害と悪魔崇拝であるとはおだやかではない言い方ですね」宗像の後輩である筑後が言った。「少し突飛なような話に聞こえます」
「悪魔崇拝をしている人間がいる、というのは、日本以外の国ではわりと当たり前の話ではあります」清正が筑後の方に目をやりながら答えた。「日本人にはなじみがないのは分かりますがね。日本では狐につかれる、という言い方が好まれますがね。西洋的な言い方をすれば、笹井のバカは代々悪魔崇拝をする家柄の人間ということです」

「その悪魔崇拝が笹井という君らの同僚であるゲイの漢文講師とどういう関係があるんだい」宗像の父の惟門が言った。

「みなさんのような現代の愛情あふれる一般家庭で育った方には想像もできないと思うのですが、」清正が言った。「簡単に言うと児童虐待です。教育加害や性的な虐待を含むね。悪魔崇拝をするには、悪魔をおろすための依り代がいります。笹井のような悪魔崇拝を代々やってきた家は代々一族のうちだれかがその依り代にならなければいけません」

「依り代っていうのは、何かね」惟門が言った。
「依り代というのは、一般的な言い方で皆さんが想像しやすいように言うのであればイタコですね。霊をおろす依り代、この場合は悪霊だったり、悪魔を召喚して、そのものの体に入れるのです」

「イタコとか、霊的素養というのは生まれつきのものだと思っていた。そのゲイの笹井が依り代になるのと、児童虐待といったいどういう関係になるのかね」
「順番が逆です。児童虐待によってゲイが生まれるのです。世の中には目には見えませんが、人々の残留思念や死者の怨念、悪霊で満ち溢れております。彼らは自己の主張を発現するために肉となる依り代が必要です。ところがその依り代となりうる人間の体というのは基本的に本人の魂が入っています。一つの体に一つの魂。しかし、まれに自身の体の魂をいったんおいておいて、別の霊を入れることのできる人間がいます。それがイタコだったり、霊能力者だったり、依り代だったりするものなのです」

「バカげている。それじゃまるでオカルト話だ」先ほどから眉をひそめて聴いていた宗像の後輩の筑後が言った。「清正さん。あなたは東大出身で立派な学歴をもっている。そんな人が霊とか悪魔とかバカバカしい疑似科学なんかを信じるんですか。今は内輪だからいい。しかし外で一般の人があなたの今言ったことを聞いたら、あなたのキャリアが終わりますよ。頭のいかれた人間として扱われる」
お前に言っているんじゃない。清正は思った。今回わざわざ俺が福岡のド田舎まで出てきたのは宗像と宗像の父親に会うためだ。一人ではもう限界がきている。時間もあまりない。幸い、宗像は柔道をやっていただけあって華美に溺れない質実剛健さが多少あり、単身化石発掘という目的で渡米しただけあって未知のものへの探究心もある。
宗像の父親である惟門もまた、母親を亡くしてから単身生活をしているが、宗像のスケールを一回り大きくしたような人物である。感染症がメディアなどで騒がれた際にも全く怪しいと感じて信じず、注射も拒絶し、現在は仕事を引退しているが、夜間警備員の仕事をして日々生活している。今の国に対する危機感は清正ほどあり、すでに新たな冷蔵庫を購入し、コメなどを備蓄していた。
「予備校講師にキャリアなんかありませんので、ご心配なく。科目も別になんでもよかったんですが、日本史の講師にしておくと、独りで国内回るのに便利でね。ビジネスホテルに泊まるときにフィールドワークできたといっておけばいいわけだから」清正は柔らかい物腰で相手の発言を否定した。「それにこの辺りの話はそんなにこの家の家主とその息子にとってはなじみがない話ではなさそうですよ。いずれにせよ、これらの能力は現代科学の制限の中では気を付けないと統合失調症と診断されます。自分の中の人格を統合できないということでね。しかし、私に言わせれば精神科なんてそれこそ宗教みたいなもんですから」
「『精神科医はきょうもやりたい放題』の内海聡先生も批判的な立場ですね。筑後は少しだまって清正先生の話を聞けよ」宗像が合いの手をいれた。
「ありがとうございます」清正は言った。「先天的でなく、後天的に霊能力に発現するためには、別の霊能力者との出会い、霊的世界の認識、そして修得のための自己訓練があってはじめてちょっとずつ覚えていくのが王道なんですが、別のやり方もあります。それは外道のやり方と言われ、人に教える時に想定されることではないのですが、、、」
「外道のやり方」
「そうです。急激なストレス、負荷を対象者にかける。生死にかかわるようなレベルのね。児童虐待なんかを受けた子供、特に性的なものを受けたものがよく多重人格障害になるとう話を聞くでしょう」
「ビリーミリガン」惟門がベストセラーのタイトルをいった。

「そうです。あれも24人の多重人格ができましたよね。あれは人格、と言うのを霊と考えるとわかりやすい。虐待を受けると心が死にますね。早く終わってくれと思う。その間は肉体はあれど、肉体から魂を離したがるのです。そのすきに周りにいる霊がはいってきやすい。ひどいものになると居座るわけですね。悪魔・悪霊・狐の受け皿の完成です。悪魔崇拝の家はそれを自分たちに繁栄を与える神だと認識している。実際は神とは名ばかりで、代償行為との等価交換を要求し、決して幸せにはならないようになっているんですが、、世間的には成功にみえるようなお金だったり、トロフィーワイフだったり、あるいはその他財産だったりを手に入れるのですが、その分等価交換で大切なものを失うようになっているんですよ。わりにあわないとかんじるほどのね。まじないで得た繁栄というのはまやかしです。ひどい家だと一族中にその代償として支払うものを決めて、そこに-のものを集中させる。昔は殺して捧げたりしてましたからね。今ではどうなのかな、表には当然でないでしょうが。上級悪魔崇拝の家になるとこれが大々的になるわけです。ペドフィリア、ヒューマントラッフィッキング、すべてこれが関与してますよ。時には養子縁組制度を利用しながらね」清正はすっかり冷めたコーヒーを飲みながら言った。かおりのある飲み物はいい。低級霊が離れていくから。

「笹井はそういう家なんでしょう。私にはたびたび匂わせてきますからね。神っていうのは地味なものを好むんです。この世界の全体性が神ですからね。ですから本来霊能力がある、というのはこの世界と親和性があるもののことを言うんです。例えば、私の知り合いの女の子とかでも霊能力者がいますが、おっとりした子でメイクもナチュラルメイク、小動物やあかちゃんから好まれるようなタイプです。ですが、勘は異常に鋭い。相手の考えていることが手にとるようにわかってしまう。それはシャーロックホームズやロバートラングトンのように合理的な推察を経るタイプもいるんですが、ビジョンとして見えてしまうようですね」シャーロックホームズやロバートラングトン、そして沙門清正だ、と内心で思いながら清正は説明した。「その一方で人工的なきらびやかさは神とは対極にある。悪魔とは部分であり、それがゆえに自己のみに執着がある。めだちたがりやということです。見て下さい」清正は匿名掲示板の「朝予備web」の漢文講師笹井のページをスマートフォンで開いてみせた。そこには

英国紳士風のスマートで上品なオーラ
伊豆より現れた先生
とても博識で魔法レベルは77

との表記がある。

「この漢文講師の笹井が自分で書いたといわれる表記がどうかしたんですか」宗像がたずねた。
「悪魔は自己顕示欲が強いために自分が特別なものであることをそれとなくほのめかします。特別なものっていっても学歴詐称のゲイで、悪魔の器というだけなんですが」清正が答えた。「まずこの『英国紳士』との描写、これはかの国とつながりがあることを示しています。あの国の王室と貴族はイルミナティの頂点の一つですからね」
「頂点の一つ?」
「何系統かあるということです。まあ、それはおいおいお話することもあるでしょう。次にこの『伊豆より現れた』の描写」
「意味不明でしたね。これは中二病なんじゃないですか」
「これは四国に伊豆田神社という神社があります」清正はスマートフォンであるHPを皆に見せた。そこには神社の沿革が書いている。

谷重遠(秦山)の『土佐国式社考』は次の通り
「伊都多神社 伊豆多坂の西鳴川谷高知山にあり、玉石二枚を以って神体となる。里人伝える当社は ふるく坂本川の高知山にあり、ここに何れの代に徒すか知らず、重遠請う、高知の字姑らく里人の語 に従う、河内と相近し、正説いまだ知らず、渡会氏いわく伊豆国伊古奈比■命神社、出雲国飯石神社、 出雲国風土記にいう、飯石郷伊毘志郡幣命天降り座す、けだし稲霊大御食都姫命、万物の始め人これ 天とする所なり」(原漢文)

伝説と谷秦山の土佐国式社考によって大体の事情を考察することができるが、これらを裏付ける ものとして地名がある。坂本川高知山というのは、現在の神益(こうます)の山であろうと考えら れる。神益は神座(かみいます)で、すなわち神の鎮座するところという意味である。 伊豆田神社は、千五百年~二千年ほど前、伊豆の国より加茂族の今の 下の加江地方に移ったと仮定して、そのとき、氏神の伊豆国賀茂郡白浜村(静岡県下田市)鎮座の 式内大社伊古奈比■命神社(いこなひめのみことじんじゃ)を勧請されたものではないかと考えられます。

「このことがいいたかったのでしょう。彼は、俺は賀茂氏だぞ。あと、谷秦山の名前も出したかったんでしょうね」清正はクスクス笑いながら言った。「まあ、鼻たれのガキのような自己顕示欲。薄っぺらい責任感。こんなレベルの連中がエタガラスを名乗り、国の根幹を担っている、と僭称しているのですから困った国です。77はあっちの人間が好んで使う数字かな。それもおいおい」

to be continued



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