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アウトサイド ヒーローズ:エピソード13-14(エピローグ)
ディテクティブ インサイド シティ
「ごちそうさまでした!」
真っ白いベッドの上でキシメン・ヌードルを勢いよくすすっていたアマネが、空になったボウルをテーブルに置いた。きびきびと歩き回りながら病室の片付けをしていたナースが、入院患者の声を聞いて振り返る。
「あら、もう食べちゃったんですか!」
「えへへ、昨日は一日点滴だけだったから、つい……」
アマネは恥ずかしそうに笑いながら、空の食
アウトサイド ヒーローズ:エピソード13-13
ディテクティブズ インサイド シティ
ナノマシンのヴェールに覆われた水球が、内側からの力で激しく波打つ。
「この……!」
マギセイラーは水球を抑え込もうと、両手に力をこめた。吹き飛ばされそうなほどの強烈な水圧に、両脚を踏ん張って耐える。
水の中ではミュータントが死に物狂いでもがき、ナノマシン防壁を内側から殴り続けていた。
「くそっ、動くなっ! もうっ!」
ミュータントは四肢と尻尾
アウトサイド ヒーローズ:エピソード13-12
ディテクティブズ インサイド シティ
「うおおお!」
男たちの太い叫び声が路地に響いた。雨に濡れたアスファルトが投光器の光を浴びてギラギラと輝く。 足元に揺れる光の帯を踏みつけて水しぶきをあげながら、プロテクターに絶縁装備を重ね着した“イレギュラーズ”の班員たちが一斉に駆け出した。
「がああああ、あああああ!」
包囲されていることに気づいた有鱗ミュータントが、怒り狂った声をあげる。振り
アウトサイド ヒーローズ;エピソード13-11
ディテクティブズ インサイド シティ
「……ウス」
カジロ班長の声に応えたのは、反対側のブロックで待機していた第2班のミワ班長だった。巨漢のミワは眼帯を外すと、路地の前に仁王立ちで陣取った。
トンネルのように細い道からカジロが躍り出ると、滑り込むように転がってミワの股ぐらを潜り抜ける。
「うっひゃああああああ! ……ぐえっ」
逆転を目指して本陣へと斬りこむヤキュー・サムラーイのごとく
アウトサイド ヒーローズ:エピソード13-10
ディテクティブズ インサイド シティ
「どうしたんだい、お昼ご飯はまだ……」
「しらばっくれんな!」
薄っぺらな模造タタミ・シートが敷かれた室内に上がり込むと、息子は激しくがなりたてた。
「探偵を使っただろう! テメエ何しやがんだ、このクソババア!」
若干呂律の怪しい悪態とともに吐き出される、酒臭い息。大柄な体がわずかに揺れている。昼間から相当呑んでいるようだった。
「すまなかった
アウトサイド ヒーローズ:エピソード13-9
ディテクティブズ インサイド シティ
「特効薬? “ミュータント風邪”の?」
キリシマは大仰な身振りで首をすくめながら、すっとぼけた調子で訊き返した。
「そんなものが、何の関係が……」
「この薬は、元々は野生のダガーリンクスを狩るためにつくられた鎮静剤だったそうです。ただ、オーサカではモンスターの被害が多くなかったので、倉庫に大量に保管されていた。一般に販売されることもなく……」
ア
アウトサイド ヒーローズ:エピソード13-8
ディテクティブズ インサイド シティ
児童公園の木立を揺らして舞い上がるとアパルトマンの屋根を飛ぶ、薄ピンク色の風。湿気を含み始めた晩春の空気を裂いて屋根の波を走っていき、路地裏に飛び込むと、つむじ風はピンク色の光の粒子となって消え去った。
「……ふう」
渦巻く風が消えた先、物陰の薄汚れたゴミ箱の上に立つのは、ぱりっとしたスーツに身を包んだ若い娘。ナゴヤ・セントラルの上級捜査官であること
アウトサイド ヒーローズ:エピソード13-7
ディテクティブズ インサイド シティ
「盾はいらん、プランA! 直接確保だ!」
PMC特殊部隊のリーダーが叫ぶと、ほころびかけた警ら隊の防壁をすり抜けて、黒い影たちが走る。
黒尽くめの傭兵集団は透明シールドの前に飛び出すと、一斉に大口径の銃を構えた。
「KShaaaaAAAarh!」
粘液に覆われたミュータントは血走った目で周囲を見回すと、鋭い声で叫ぶ。
「総員、距離取れ! 一斉に
アウトサイド ヒーローズ:エピソード13-6
ディテクティブズ インサイド シティ
昼下がりのカガミハラ・フォート・サイト第4地区、歓楽街の片隅に店を構えるミュータント・バー“止まり木”。スピーカーから音量を絞ってゆったりと流れる、旧文明期のラグタイム。
耳を澄ませると壁掛け時計の秒針が時を刻む音が聞こえてくるようだった。アンティーク調の店内には客の姿も、女給たちの姿もなかった……カウンター席に腰掛けるスーツ姿の女性と、向かい合って座る
アウトサイド ヒーローズ:エピソード13-5
ディテクティブズ インサイド シティ
“ミュータント風邪”の感染者が山あいの町で初めて確認されてから、1カ月が経とうとしていた。医師とナースたちによる治療が進められていたが、運び込まれてくる患者の数は増えるばかりだった。
「うん……しょ、うんしょ……」
カガミハラ・フォート・サイト、商業エリアの第2地区。大きな荷物を両手に抱え、肩からトートバッグを提げた四つ目の娘が、ふらつきながらゆっく
アウトサイド ヒーローズ:エピソード13-4
ディテクティブズ インサイド シティ
空にすっかり夜闇のカーテンが下ろされると、オレンジ色の残光は遠くの山際に輪郭線を描く。
山あいの城塞都市、カガミハラ・フォート・サイト。職場から開放された人々が目抜き通りに溢れだす。街灯が薄黄色の影を落とす中、スーツ姿の男が長く伸びる人影の群れをかき分けて歩き続けていた。
「ふう……ふう……!」
肩がぶつかり合う。相手が舌打ちをするが、キリシマは振
アウトサイド ヒーローズ:エピソード13-3
ディテクティブズ インサイド シティ
「『済まないアマネ、しばらくカガミハラには行けなくなった』」
長距離通話端末の受話器から響く、青年の声。
「『今週末には交代するって話だったけど……』」
後ろで騒いでいる子どもたちの声が漏れ聞こえてくる。アマネの帰りを待ちわびている……というよりも、しばらくナカツガワの町から外に出られないことが不満でたまらないようだった。
「『おい、アキ、リン、
アウトサイド ヒーローズ:エピソード13-2
ディテクティブズ インサイド シティ
昨夜はいい気分で仕事ができた。報告書だってうまい具合にまとまったし、“プレゼン”もうまい具合にできた。依頼人も納得してたし、このままいけば2割増くらいで報酬をふっかけても、文句は言われないだろう。だが……
義腕の探偵、キリシマは敷石のタイルを大股で踏みながら、カガミハラの大通りを歩いていく。昼下がりの陽射しを浴びながら肩を怒らせ、首を突き出して。
アウトサイド ヒーローズ:エピソード13-1
ディテクティブズ インサイド シティ
アンティーク風の調度が、オレンジ色の照明に浮かび上がる。酒場の奥に設けられた“VIPルーム”と呼ばれる個室で円いテーブルを挟んで、二つの人影が向かい合っていた。
テーブルの上に置かれたタブレットの画面が青い光を散らし、二人の顔を白く照らした。
「探偵さん、あのう、それで……どうでしたか、息子の様子は……?」
ふさふさとした毛並みに垂れ下がった長い耳