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小説《魂の織りなす旅路》

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光たちからのメッセージ小説。魂とは?時間とは?自分とは?人生におけるタイミングや波、脳と魂の差異。少年は己の時間を止めた。目覚めた胎児が生まれ出づる。不毛の地に現れた僕は何者なの…
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2023年8月の記事一覧

*小説《魂の織りなす旅路》 章ごとの目次と解説

*小説《魂の織りなす旅路》 章ごとの目次と解説

〜 目次 〜

少年

不毛の地

洞窟

胎児・胎内

14才の少年

7年分の涙

老人・お父さん

差異



手紙

書道教室

時間

失明

暗闇

目覚め

境目に在る魂

苦難

動き始めた時間・赤ん坊

魂の解放

再会

〜 解説 〜

◉《魂の織りなす旅路》の成り立ち

◉タイミングを大切に

◉五感で読む

*小説《魂の織りなす旅路》 少年

*小説《魂の織りなす旅路》 少年

【少年】

 少年は自転車カゴに長靴を放り込むと、颯爽とペダルを漕ぎ始めた。このままどこまでも気の向くまま自転車を走らせよう。

 ぼくは自由になる。

 昨夜から今朝にかけて降っていた雨はやみ、その名残りがかすかにアスファルトを滲ませている。空は青く雲ひとつない。快晴だ。
 少年はペダルを踏む足に力を込めた。軽やかに回転する2本の足が、少年を既知の風景から未知のそれへと誘(いざな)ってくれるだろ

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*小説《魂の織りなす旅路》 不毛の地

*小説《魂の織りなす旅路》 不毛の地

【不毛の地】

 「ほれ、起きれ。ほれ、行くぞ。」

 重たい瞼を開けると、浅黒い皺くちゃの顔がこちらを覗き込んでいる。驚いた僕は身をよじり、咄嗟にこの見知らぬ男から離れようとした。

 「話はあとやね。もう出発しなきゃなんねぇ。ほれほれ、起きれ。」

 男が僕の腕をつかむ。腕を引っ張られた僕は、よろめきながら立ち上がった。何か言おうとしたものの、乾燥した上唇と下唇が張りついて上手く喋れない。

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*小説《魂の織りなす旅路》 洞窟

*小説《魂の織りなす旅路》 洞窟

【洞窟】

 陽が傾いてきたせいか、あんなにも痛かった陽射しは弱まり、急激に寒くなってきた。薄い布を一枚纏っているだけの僕は、ブルッと身震いする。

 「寒いかや? そらそうやねぇ。寒いに決まっとるやねぇ。でもほれ、あすこの山。あの崖下に着いたらあったかいやね。」

 歩き始めたときは小さな点でしかなかった岩が、今は巨大な山として目の前に聳えていた。緑に覆われた山頂は平らかに広がり、ここから見える

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*小説《魂の織りなす旅路》 胎児・胎内

*小説《魂の織りなす旅路》 胎児・胎内

【胎児】

 胎児は見えない夢をみる

 見えない母親の夢をみて

 見えない父親の夢をみる

 見えない母親に波長を合わせ

 見えない父親に波長を合わせる

 そうして 

 見えない羊水に身を浸し

 見えない羊水に身を溶かした胎児は

 始まりの者と一体になる

【胎内】

 私は私に境界線があることを知らなかった。

 無限に広がる胎内は、たくさんのさまざまな波動で満ちていて、私はこれら

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*小説《魂の織りなす旅路》 14才の少年

*小説《魂の織りなす旅路》 14才の少年

【14才の少年】

 少年の目はどこも見ていない。隣室で寝ていた両親が土砂に巻き込まれた日、少年の時間は動きを止めた。

 母親の遺影を持った少年の横に、父親の遺影を持った伯父が立つ。弔問客を前に挨拶する伯父の声は、少年の耳には届かない。少年は静寂に耳を傾け、暗闇に身を沈めていた。
 以来、少年は伯父の家から学校に通っている。励まし寄り添ってくれていた友人たちは、無口で無表情になった少年からひとり

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*小説《魂の織りなす旅路》 7年分の涙

*小説《魂の織りなす旅路》 7年分の涙

【7年分の涙】

 「こんにちは。」

 大学図書館の裏庭で本を読んでいた僕は、頭上から降ってきた突然の聞き慣れない声に驚き、体をビクリと痙攣させた。

 「驚かせてごめんね。あなた、いつもここで本を読んでいるでしょ? ずっと気になっていて。思い切って声かけちゃった。」

 本から目を外した僕は、彼女の人懐っこい笑顔にどぎまぎしながら、ぎこちなく答える。

 「ここは人気がなくて静かだから。」

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*小説《魂の織りなす旅路》 老人・お父さん

*小説《魂の織りなす旅路》 老人・お父さん

【老人】

 その老人は目が見えない。老人はソファーにもたれ掛かると静かに瞼を閉じ、追想に身を委ねた。

 「お父さん、あれに乗りたい!」

 赤い風船を持った娘が、父親の服の裾を引っ張った。父親は娘の手から風船を受け取り、空中ブランコ乗り場へと娘を送り出す。
 今日、娘は何度このブランコに乗るだろうか。父親は近くのベンチに腰をおろし、回転しながら舞い上がっていく娘を眺めた。満面の笑顔で手を振る娘

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《魂の織りなす旅路》の成り立ち

《魂の織りなす旅路》の成り立ち

こんにちは!光のひーちゃんだよ。

《魂の織りなす旅路》は
天界の光たちが書いた小説です!
NAKの脳のスペックで書かれたものだけど、
内容そのものは天界の光たちによるものです。

ひーちゃんもどんな内容になるのか
天界の光たちがどんな小説を書くのか
ぜぇんぜんわからないでいたから、
NAKが書き進めているときに
これはどんな展開になるんだろー?って
ものすごくワクワクしたよ!

NAKは次にどう

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連載小説 魂の織りなす旅路#55/境目に在る魂⑵

連載小説 魂の織りなす旅路#55/境目に在る魂⑵

【境目に在る魂⑵】

 あんたという魂? 僕は魂で、魂である僕にはあちらとこちらで2つの体があるということだろうか? 僕の心を読んだ男は、僕の体を指差しながら気楽な調子で答える。

 「その体はあんたという魂が見せているものさね。本来はそんなもん、ない、ない。」

 男は笑いながら左右に手を振った。

 「あんたは物質世界の影響を受けているんさね。人間の体に生まれた魂はやねぇ、脳という物質の影響を

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連載小説 魂の織りなす旅路#56/苦難

連載小説 魂の織りなす旅路#56/苦難

【苦難】

 境目に在る僕の波動は、深い愛と慈しみに満ちた始まりの者の波動にいつも共鳴している。境目に在る僕が始まりの者の波動とひとつになったとき、少年の内に在る僕は始まりの者の波動で満たされる。

 あるとき僕は、唐突に貫かれるような激しい痛みに襲われた。僕はのたうち回りもだえ苦しみながら、とうとう僕にもこのときが訪れたのだと悟った。
 境目には数え切れないほどの魂が在る。僕は、ここでもだえ苦し

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連載小説 魂の織りなす旅路#57/動き始めた時間

連載小説 魂の織りなす旅路#57/動き始めた時間

【動き始めた時間】

 青年になった彼の時間は止まったままで、僕は相変わらず彼の脳にしがみ続けている。

 最近彼は、大学図書館の裏庭で恋をした。彼女の柔らかな波動が彼の脳を心地よく愛撫する。

 「今日の風は柔らかいね。」

 「あの空の透けるような青が好き。」

 「今日は本の文字が楽しげに踊っているように見えるの。」

 「あの鳥の鳴き声は悲しげに聞こえるね。」

 彼女の言葉はいつも彼の五

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連載小説 魂の織りなす旅路#58/赤ん坊

連載小説 魂の織りなす旅路#58/赤ん坊

【赤ん坊】

 ようやく流れ始めた彼の時間は、あくまでも彼女の波動に共振した、彼女の時間とともにある時間だ。彼の自立した時間ではない。だから僕は、相変わらず彼の体の境界線の内に閉じ込められたままだったし、境目に在る僕もひとりきりのままだった。

 今僕は、再び彼の脳を揺さぶるであろう苦悩を思い描き、身震いしている。彼の脳が妻を助けて欲しいと、哀願するように祈り続けているのだ。
 彼の脳は妻の意思を

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連載小説 魂の織りなす旅路#59/魂の解放⑴

連載小説 魂の織りなす旅路#59/魂の解放⑴

【魂の解放⑴】

 このところ、娘が言っていた〈魂の解放〉という言葉が頭にこびりついて離れない。娘は魂で妻と会話をしていたと言う。しかし、言葉を介さない会話だなんて、僕には理解ができないし想像すらできない。
 娘は「これからよ」と軽い口調で言った。それは僕もいずれそれができるようになるということだろうか。しかし、妻はもういない。娘の話は、妻が生きていた頃の胎内での話なのだ。

 僕は縁側に向かうと

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