Nagi Ogawa

作家、批評家 / 1991年千葉県生まれ / noteだいぶ久しぶりに開きました。徐々…

Nagi Ogawa

作家、批評家 / 1991年千葉県生まれ / noteだいぶ久しぶりに開きました。徐々に充実させていきたいなと思います。 『日常的な延命 「死にたい」から考える』(ナナルイ)発売中です。よろしくお願いします! Amazonのリンク→https://t.co/p9rcldOCdU

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坂口恭平さん 100問100答 7日目

1 「宴」のことを思い出す。 物だけでなく、態度経済も作れて、人も呼べる坂口恭平が制作した「宴」である。 そこには建物が、火が、煙が、絵が、敷物が、楽器が、歌が、作物が、料理が、が、あった。聴覚を、嗅覚を、味覚を、視覚を、触覚を、を、感じた。「死にたい」から遠ざかろうと制作に励む人々で賑わっている。作品が市のなかを行ったり来たり。流れるように早口で喋る坂口さんがいた。彼がゆっくり語り始めた時には、土地の物語を紡ぐ先祖のことを共に想った。この「宴」は、あまりに人を生か

    • スーザン・ソンタグ的な反知性主義の働かせ方、または反・反解釈について

      質問文 スーザン・ソンタグ 16個目の質問「小説が迫る現実」での坂口さんの回答は、僕にとっての救いとなるものでした。というのも、僕は小説の世界でしばしば「正解」のように語られている感覚について、それに理解を示しながらもどこかで煮え切らない気持ちを持っていたからです。該当の箇所を一部引用させていただきます。 僕が具体的にどのように救われたかというと、ふわっと書くだけが全てではないというか、ああやっぱり「解釈」はしていいんだなと再認識したという点において、気が楽になったの

      • ティム・インゴルド、蜘蛛のメッシュワーク

        質問文 ティム・インゴルド 坂口さんは、人類学が獲得してきた知恵を自身の態度として内蔵しているのではないか、そのように思えたのでこの質問文を書いています。坂口さんをまた別の新たな角度から学ぶことの助けになるかもしれません、文章化してみます。 『はじめての人類学』を書いた文化人類学者の奥野克巳さんによれば、仮に人類学の絶対に外せない重要人物を選ぶのだとすれば、ブロニスワフ・マリノフスキ、クロード・レヴィ=ストロース、フランツ・ボワズ、ティム・インゴルドの4人になるそうです。

        • 南方熊楠から坂口恭平の思想を読む

          質問文 南方熊楠2 1. 坂口さんの回答を読ませていただいてから、改めて南方熊楠についての興味が強くなりました。もう少し勉強してから改めて坂口さんに質問文を送りたいと思い、その後少し時間がかかってしまいましたが出来上がったのが以下の文章になります。まずは熊楠を読む際の強度を上げないといけないと感じたため、今回は安藤礼二さんの『熊楠 生命と霊性』を参考にしながら考えています。 南方熊楠は、非生命と生命との差異、物質と精神との差異を乗り越え、森羅万象あらゆるものが発生してく

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        坂口恭平さん 100問100答 7日目

          坂口恭平100問100答 第23問 本づくり

          23. 本づくり こんなことをきいていいのかという感じですが、本が出来上がる前の一歩手前の部分、そこにどれだけ手間をかけているかについての興味を持っています。具体的には、どのように編集者や出版社に営業をかけているかということです。というのも、近年独立書店や一人出版社が増えた結果として、本を出版することのハードルはかなり下がったはずで、そんななかでも坂口さんはある程度大手の出版社と組み続けているという印象があります。単に人気実力作家であり、求められているからというわかりやすい

          坂口恭平100問100答 第23問 本づくり

          坂口恭平100問100答 第22問 批評機会

          22. 批評機会 坂口さんはしばしば、「批評がされない」とご自身について言及していますよね。でも実際には「ユリイカ」などでも特集をされていたり、評価も含めて、注目されていないわけではないように思えます。坂口さんの著作を評価する作家やアカデミシャンも多い。もちろん、批評の側が坂口さんの実践を全然拾えていない、追いついていないといった問題が背景にあるのでしょうが、坂口さんは批評のどのような点に限界だったり物足りなさを覚えていますか。なぜ批評が坂口さんに言及できないのだと考えます

          坂口恭平100問100答 第22問 批評機会

          坂口恭平100問100答 第21問 並走してくれる作家

          21. 並走してくれる作家 坂口さんにとって、自分の「死にたい」の感覚と並走してくれるような作家はいましたか。また、この文脈においてはどのような文学を読まれてきたのでしょうか。僕にとってはカフカがそうで、カフカが持つ答えを出さない感じというのが、自分が抱えてきたやり場のないモヤモヤ感と相まってときに読みやすくすらあったのですよね。また、ブローティガンは一度辛くなった際に自分のコミュニティ全てを捨てるつもりで遠くへ引っ越すのですが(まるで移住のように)、移住先での限界にも向か

          坂口恭平100問100答 第21問 並走してくれる作家

          坂口恭平100問100答 第20問 即興

          20. 即興 近年でいうと、『土になる』は原稿用紙30枚程度のボリュームを推敲なしでnoteに掲載する試みから生まれています。坂口さんも、漢字をひらがなに開く、開かないといったことも考えずに、ただ書き連ねていったのだと。しかもこれまでの訓練として結果的にそうなったとおっしゃっています。小説以外に目を向けても、坂口さんにとって「即興」というのが重要な意味を持っていることは明らかです。即興だと始まりと終わりが勝手に決められてしまうのでそこから生まれる作品もあるとみる立場、始まり

          坂口恭平100問100答 第20問 即興

          坂口恭平100問100答 第19問 風景

          19. 風景 『現実宿り』では、現実の時空が少しずつ歪んでいくような体験が描写されているかと思います。それは「雨宿り」の経験に重ねられる。軒先に逃げ込んだ瞬間、外の雨も、からだについた雨粒も、何か温度を持った別のもののように感じられてくる。そのようにして時空が変化する体験がたしかにあります。そしてそれについて考えることは視界を、風景を引き連れてくる。自分が感じている時間の風景と他者が感じている時間の風景、その2つがあったとして、描写の際にそれぞれに変化をつけるために意識され

          坂口恭平100問100答 第19問 風景

          坂口恭平100問100答 第18問 翻訳

          18. 翻訳 坂口さんは今後実際の翻訳のお仕事はされないのでしょうか。坂口さんの「憑依」的な現象について考えていると、坂口さんの翻訳はとても面白そうというか、読んでみたいと強く思いました。実際の、と前につけたのはすでに小説の形で翻訳は存在しているからです。坂口さんの言葉でたとえば『千のプラトー』が翻訳されていると考えることができる。そういった体験に対して、実際の翻訳はかなりの縛り、制限を坂口さんに課してしまうものなのかなとは思います。町田康さんが『口訳 古事記』を書いたよう

          坂口恭平100問100答 第18問 翻訳

          坂口恭平100問100答 第17問 日記

          17. 日記 今回自著の中でカフカに触れたことから、日記について考えるようになりました。カフカもかなりの量の日記を残していますが、坂口さんの場合はさらに膨大です。小説以外に日記や断片的なメモの中から重要な記述が見つかることもカフカの特徴なのですが、このあたりにも親和性があるかと思います。坂口さんにも(これでもまだ)本の形になっていない断片がたくさんありますよね。小説の枠組みで書きたいこと、日記の枠組みで書きたいこと、それぞれに違いがあることはもちろんだと思います。日記におい

          坂口恭平100問100答 第17問 日記

          坂口恭平100問100答 第16問 小説が迫る現実

          16. 小説が迫る現実 小説の魅力のひとつに、たとえそれが起こりえないようなことであっても、いちど書いてしまえば起こったことになるという小説内現実の効果があると思います。ガルシア=マルケスに接続のできる文脈です。ではそのような小説という土壌において何を書くのか。批評の場合、狙って何かを書きにいくと、その結果は現実よりも小さなものにまとまってしまうのではないかという感覚があります。社会の言葉を使っているのに、むしろ普遍性からも離れていくかのような感覚です(もちろん普遍的な説得

          坂口恭平100問100答 第16問 小説が迫る現実

          坂口恭平100問100答 第15問 小説が解決する問題

          15. 小説が解決する問題 この質問集の中でも僕が坂口さんの作品を社会の話と結びつけて話している箇所がありますが、決して坂口さんの小説がそれだけで収まるわけではないことにもここで触れておきたいと思います。社会的な問題は、あえて小説で解決しなくても良い。解決のための方法を小説の外側に多く持っている坂口さんが書く作品からは、そのような姿勢が感じられます。経済的な問題は解決できる。他も含めて様々な問題が解決していった先にそれでも残る問いとは何なのか、これこそが小説で追及されている

          坂口恭平100問100答 第15問 小説が解決する問題

          坂口恭平100問100答 第14問 予感

          14. 予感 坂口さんの「読み方」についてきいてみたいことがあります。意味を理解しながら読むのではなくて、次にくる展開を、感情を、「予感」しながら読んでいくという仕方です。僕にもなんとなくいっていることはわかるというか、実際に多少認識もしているのですが、これは立ち上げられている小説世界というか言論の場に対して、自分の身体や脳が先に予備動作を始めているといった感覚に近いものでしょうか。それぐらい自分が前のめりになっているというか、誰かの文章に対して「乗っかっている」かのような

          坂口恭平100問100答 第14問 予感

          坂口恭平100問100答 第13問 ドライヴ

          13. ドライヴ 坂口さんの小説や詩を除いた著作における文体には、ある特徴があります。それは読み手の感覚を「ドライヴ」していくというものです。小説や詩においてもまた別の「ドライヴ」はあるのですが、エッセイなどに現れるここで触れたい「ドライヴ」感というのは、文の「読みやすさ」に近い話です。それも、ただ読みやすいのではなくて、自然に次の文へ、そして次の話題へ、次の本へと促されていくような効果が付与されています。「死にたい」を抱えた読者にとって、この「ドライヴ」感、さらには文の規

          坂口恭平100問100答 第13問 ドライヴ

          坂口恭平100問100答 第12問 保坂和志

          12.保坂和志 「作為的にことばをまっすぐ吐く」ということについてお話をききたいなと思います。どれだけ細かく文章を組み立てていても、作為的になっていたとしても、読者からしたら直感で書かれているようにしか見えないような書き方があります。そして、書いている坂口さんからしても直感で書かれているようにしか見えないと、そう思い込めるくらいのレベルにまで自身を持っていっているからこそ生まれてくる結果があるとのことでした。これは小説における総合的な技術の積み重ねによって可能となってくるも

          坂口恭平100問100答 第12問 保坂和志