【料理エッセイ】ピェンローってなんだ?!
最近、エッセイを書くのにハマっていると方々で話している。noteで公開していると言ったら、ありがたいことに読んでくれて、いろいろコメントも頂ける。
そんな中、学生時代の後輩から、
「ピェンローの記事書いてくださいよ。ウケると思いますよ」
と、アドバイスをもらった。
「ああ。ピェンローね。よさそうだね」
つい、知ったかぶりをかましたけれど、マジで、なんのことを言っているのか、さっぱりわからなかった。ピェンロー? いったい何語?
でも、後輩は伝わったと思ったのだろう。テンション高く、
「いいですよね。ピェンロー。美味しいですよねぇ」
と、ウキウキ続けてきた。
え! ピェンローって食べ物なの?
わたしは素直に驚いた。てっきり、ゆるキャラとか、香港のアクション俳優とか、ルールが複雑なボードゲームとか、そういう系の名前を想像していた。
だけど、いまさら、質問はできない。
「そうだよねぇ。美味しいもんねぇ」
適当に合わせた。
そこから、後輩はたたみかけてきた。
「先輩、ぜひ記事にしてくださいよ。最近、寒くなってきているし、タイミングばっちりですよ」
ん?
「簡単に作れるし、それもいいと思うんですよねぇ」
ん? ん?
「あー。しゃべってたら食べたくなってきた。うち、今日の夜、ピェンローにします。スーパー寄って帰らなきゃ」
ん? ん? ん?
じゃあねと別れた後、疑問が次々湧いてきた。
どうやらピェンローは料理らしい。でも、ピータンみたいな冷菜でも、ルーロー飯みたいな丼でもなく、身体が温まるものっぽい。しかも、材料はその辺で集められそう。……って、実態が全然見えてこない!
電車に乗って、すぐさま「ピェンロー」でネット検索した。出てきたのはdancyuのこんな記事。
なんと、まさかの鍋だった!
はいはい。これは冬にぴったりだった。しかも、簡単だし、珍しい材料はひとつもないし、たしかに、いまからだって作れそうだった。
へー。こんな料理があったのかと感心しつつ、レシピを読んでいたら、想像以上にシンプルな内容で驚いた。なにせ、やるべきことは、
・白菜
・干し椎茸
・豚バラ(薄切り)
・鳥もも
・春雨
・ごま油
を煮込むだけ。その上、つけダレは鍋の汁に塩と一味を入れるのみ。たしかに、dancyuが「男の白菜鍋の決定版」と銘打つのも納得だった。
最寄駅に着いた頃にはお腹がぐーっと鳴っていた。これはもう実際に作ってみるしかなかった。
帰り道、途中のマイバスケットに入った。コンビニとスーパーの中間みたいな品揃えだけど、ピェンローに必要なものはすべてそろった。
で、完成。
一口食べた。
なんじゃこりゃ!
抜群に美味しかった。椎茸と肉の旨味が爆発していた。白菜の甘みが際立っていた。春雨がつるんっと気持ちよかった。
ふだんの鍋はたくさんの食材が一体化するところに魅力があるけど、ピェンローはそれぞれが個性を発揮していた。言わば、鍋界のザ・ビートルズ。最強だった。
調べれば、もともと『少年H』の妹尾河童が紹介し、有名になったレシピなんだとか。漢字で書くと扁炉。これは読めない。
中国南部からベトナム北部のチワン族の料理らしく、中国でもあまり知られていない。なんなら、中国の人も瀬尾河童の翻訳を通して、このレシピを知ることも多い。そんなトリビアがWikipediaに載っていた。本当なのかな?
ちなみにシメはお粥が人気。あえて卵を入れないのがポイント。出汁を百パーセントで味わえる。
いやはや、これは素敵なものを教えてもらった。満腹になったわたしはホクホクだった。
しかし、ひとつ、懸念点があった。干し椎茸に、鳥ももに、豚バラに、予算がけっこうかかるのだ。特に今回は急だったので、すべてを国産で揃えてしまった。見た目に反し、意外と高級。また食べたいけど、工夫をしなくちゃいけないなぁ。
それで、先日、業務用の商品を扱っているお店に行ってみた。100g300円以下の干し椎茸。100g100円しない鳥ももと豚バラ。どれも外国産で買い集めた。白菜も1/4サイズで60円の見切り品をゲットした。
マイバスケットのときと比べて、半額以下。これで美味しいなら最高じゃないかと意気揚々。帰宅次第、ピェンローを仕込み始めた。
ただ、世の中、そんなに甘くはなかった。出来上がった汁を味見して、わたしはすぐに首をひねった。
「……あれ、味がしない」
一瞬、コロナになったんじゃないかと不安になった。慌てて、冷蔵庫の中に入っている常備菜で味覚をチェックした。うん。ちゃんと味がする。
つまり、安い食材で作ったピェンロー鍋は信じられないほどの大失敗。びっくりするほどまずかった。
これはなんたることだろう。同じ作り方で、同じ調味料を使っているにもかかわらず、食材の良し悪しでこんなにはっきりとした差が出るなんて。長年、料理をしているけれど、こんなことは初めてだった。
改めて、食材の良し悪しは本当にあるのだなぁと思い知らされた。
と言っても、最初に作ったのだって、マイバスケットの商品なわけで、もし、これが専門店の最高級品だったなら、どんだけ凄いのだろうとワクワクした。
かつて、俳優時代の伊丹十三が『遠くへ行きたい』に出演し、究極の親子丼を作るため、食材求めて日本中を旅する「親子丼珍道中」という企画があった。
熊本でレイホウというお米を、有明海で海苔を、愛知で名古屋コーチンの肉と卵を、神奈川県丹沢奥地で三つ葉を、伊丹十三自ら、わざわざ現地まで取りに行く。そして、「自分の父親が親子丼を発明したんだ」と主張している映画監督・山本嘉次郎の家を訪れ、究極の親子丼を手作りするのだ。
なお、このVTRを演出したのは『傷だらけの天使』で有名な恩地日出夫監督。そのため、ドキュメンタリーとは思えない自由自在な映像表現が行われ、これをきっかけに伊丹十三は映画を撮ってみたくなったんだとか。
ああ。いずれ、わたしも究極のピェンロー鍋を作ってみたいなぁ。
そんなことを思いつつ、この記事を公開したら、後輩はわたしがピェンローを知ったかぶりしていたと気づくんだろうなぁ、とつまらないことをわたしは心配している。
ってことで、ぜひぜひ、ピェンロー鍋を試してみてください!
ただし、絶対にケチったらダメですよ!
ほんと、別物になっちゃうからね。
マシュマロやっています。
質問もエッセイのお題も大歓迎!
ぜひお送りください!
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