【料理エッセイ】アンドレさんからの手紙3 - 大根の葉チャーハンのレシピ
大学一年生の冬、食ゼミというものに参加した。これは学年を問わず自由に参加できる授業で、それぞれ、食に関して自由研究を行なって、発表すれば単位がもらえた。いわゆる楽単ってやつだった。
みんな、思い思いの内容に取り組んでいた。ある女の子は出汁を極めたいと全国各地から変わった食材を取り寄せて、シンプルな鍋で成分を比較検討、最強の旨味はなにか調査していた。結果、アゴ出汁が一番という想像通りの展開だったが、ちゃんと確かめたことに意義を感じた。
他にも、農薬を使わない奇跡のリンゴがどう奇跡なのか解析したり、世界の麺類にどのような共通性があるか日本在住外国人の方々に取材をしたり、みんな、個性豊かに課題を設定していた。
そんな中、わたしがテーマにしたのは食物アレルギー。自分自身、そばやナッツ、チョコレートなど、食べられないものが多かったので、最新の知見をまとめあげることにした。
せっかくならと日本を代表するアレルギー専門はお医者さんの話を聞こうと考えた。思いの丈をつづり、手紙を送ったところ、ありがたいことにご快諾頂いた。
で、担当の女性教授と一緒に病院を訪問した。とても勉強になった。
食物アレルギーにも種類があって、単に痒くなるだけの場合もあれば、呼吸困難をともなう激症型もあるそうだ。ソバなんかは深刻なことになりやすく、実際、わたしもアナフィラキシーショックを起こし、緊急入院したことがある。
たまにお年寄りなんかが、むかしはアレルギーなんてなかったと言うことがあるけど、それは単にアレルギーという言葉が普及していなかっただけの話。江戸時代の文献に、ソバを食べただけで突然死した男の話なんかが怪談として出てくるらしく、要するに症状としてはずっと存在していたそうだ。
二時間ほど、あれこれ教えてもらった。教授も知らないことがたくさんあったようで、付き添うことができてよかったと嬉しそうだった。
帰り道、教授が買い物に付き合ってよ、と言ってきた。なんでも、彼女の家では冬になると大量のおでんを作るのが恒例らしく、それはもう本当に大量なので、一人で買い出しするのは不可能というのだ。
「大根とたまごは仕込んであるの。追加の具材を足したら、すぐに完成。夕飯、ご馳走するからさ」
寒空の下、そんな話をされたらお腹がグーっとなって、二つ返事に引き受けた。スーパーに寄って、練り物をこれでもかっと集めまくった。
ちくわ、はんぺん、さつま揚げ。いか巻、えび巻、ごぼう巻。じゃこ天、ちくわぶ、すじ、生麩。得体の知れない、「すじ」という名の四角いなにかもゲットした。
で、教授のお宅にお呼ばれし、手羽先と昆布の出し汁になにもかもをぶち込んで、前日には仕上がっている大根、たまごとコトコト煮込み、できあがったものを一口食べれば、あまりの旨さに絶句した。
それまで、おでんと言えば、コンビニで売っているものしか縁がなく、それはそれで美味しかったが、あり得ない種類の食材が織りなす味覚のハーモニーとは天と地ほどの差があった。
聞けば、特別なことはなにもしていないんだとか。面倒といえば、大根の皮を剥いて、面取りし、下茹でをするぐらい。あとは適当に買ったきたものを油抜きして、手当たり次第、ぶっ込むだけ。
「あなたもやってみたらいいじゃないの」
教授は日本酒を出汁で割った最強の和風カクテルを堪能しつつ、そんな風に勧めてきた。
以来、我が家も冬になるとおでんを作るのが恒例となっている。
そして、先日、おでんを作ろとしていたところ、いつもお世話になっているアンドレさんからぴったりなレシピが届いた。
(アンドレさんの過去レシピは以下の通り)
ずばり、大根の葉のチャーハン。
おでんを作るときって、大根を丸々一本購入するし、その葉っぱを活用できれば一石二鳥、まったく最高ではないか。
大根の葉のチャーハン
材料:大根の葉、にんにく、ちりめんじゃこ、ご飯、オリーブオイル
①大根の葉を切り、ニンニクとオリーブオイルで炒める。
②ちりめんじゃこを加える。
③ご飯を加える。完成!!
で、できあがったものがこれである。
もちろん、同時におでんも完成している。
いつも、おでんのときって、主食をどうするか迷いがち。お米をお酒と醤油で炊き込んだ茶飯が定番だけど、野菜不足がやや気になる。してみれば、大根の葉のチャーハンはベストな選択かもしれない。
もちろん、味も間違いない。中級ユーラシア料理店をやってらっしゃったアンドレさんらしく、オリーブオイルとニンニクを使っているところが恐らくポイント。さっぱりだけど、コクがあり、淡白なおでんの魅力を邪魔しない。
これはいい料理を教えてもらった。来年も、再来年も、その先もずっと。教授の教えに従って、我が家は毎年、大量のおでんを作り続ける予定なので、大根の葉っぱチャーハンも定番に仲間入り。
とはいえ、一応、大学でいろいろ学んだはずなのに、最も記憶に残っている上、未だ、活用し続けている知識がおでんって、どうなんだろう。けっこう、学費を払ったんだけどなぁ……。
ただ、出汁で割った日本酒を飲めば、あっという間に幸せ心地。それはそれでありかもなぁって、のんきにハフハフッ、おでんをつついた。
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