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僕がカオルちゃんと呼ばれたには訳がある

「僕の昭和スケッチ」イラストエッセイ156枚目

<「修学旅行」© 2022 もりおゆう 水彩/ガッシュ 禁無断転載>


僕は遠い昔にカオルちゃんと呼ばれた事がある。

僕の名前は「もりおゆう」だ。 
だから、名前のどこを取ってもカオルちゃんではないのだが、、、

それには、修学旅行にまつわるちょっと、いやかなり恥ずかしい思い出が関係している、、、(笑)

僕らの修学旅行は東京方面。
東京の街を周り、日光は中禅寺湖畔に泊まり(夜はお約束の枕投げを楽しみ)二泊目は箱根に泊まり(再び勿論枕投げ)、最終日は東海道本線で無事全員岐阜に戻った。
何も事故らしいものも起きず、楽しい旅行だった。

だが、その明くる朝、思いもかけない事態が僕を待っていた、、、

僕が登校しクラスに入ると、七、八人の女子達が声を合わせて僕をこう呼んだのだ。満面の笑顔で!

「カオルちゃん、おはよ〜〜〜〜!!!!」

間違いなく彼女達は僕に向かってそう言って、これ以上おかしいことはないとばかりに一斉に笑い転げた。

僕は、何のことなのかサッパリ分からず目を丸くして立ち止まった。
何しろ箸が転んでもおかしい年頃だ、、、(^。^)💧
、、、とは言え何がそんなにおかしいのだろう???
すると、女の子の内の一人が僕の前に歩み寄って、こう言った。

「カオルちゃん、修学旅行楽しかったね〜〜〜!」
と。

「は????  何、何のこと? 修学旅行? 楽しかったけど、、、、、、なんで俺、カオルちゃん???」
僕は、自分の顔を指差してそう言った。

すると、笑いを堪えながらもう一人の女子が僕の肩に手を置いてこう言った。

「だって、あんたさぁ、帰りの電車の中でず〜〜〜〜!!!!っと歌っとったがね(岐阜弁)、ほら、カオルちゃん!」

その瞬間、僕の頭の片隅に何かがよぎった、、、
そんな僕を尻目に彼女達は僕の前に横一列になって歌い始めた。

「♫カオルちゃん、おそくなってゴメンネ!〜
 ♫カオルちゃん、おそなってゴメンネ!〜
 花をさがしていたんだよ〜♫」

彼女達が歌ったのは、ご存知の方も多いかと思うが、美樹克彦の1967年のヒット曲「花はおそかった」だ。

歌を聴いた僕は彼女達が何をからかっているのかをドカンと理解した。もう穴があったら入りたいくらい恥ずかしかった。

実は、修学旅行の間中ずっとクラスメイトと過ごした僕は仲間と話すことにちょっと疲れた。そして、うまいことに列車の一番後方の席ががらんと空いているのが目に入り、そこに移動して一人で座ったのだった(下図参照)。

<多分こんな感じ>

そこまでは何の問題もないのだが、暫くすると僕は窓を開けて外に向かって大声で歌を歌い始めた。理由はよく分からない。とにかく僕は歌い始めた。周りには誰も座っていないし、列車の轟音にかき消されて誰にも聞こえはしないだろうと思っていた。そして、何というか、、、何故か歌い始めるとず〜〜〜っとその歌が口をついてしまうことってないだろうか、、、要するに僕はその後岐阜に着くまでず〜〜〜〜〜〜っと何かに取り憑かれたようにカオルちゃんを歌っていたのだ。

あろうことか、その僕のカオルちゃんはクラスメイトの耳にちゃんと届き、みんな大笑いしていたという訳なのだ。

「ゆう君、まだ歌っとる!」
「ずっと、カオルちゃん歌っとるよ(笑)」
なんて具合に、、きっと!

そんな訳で、彼女達は翌朝僕が来るのを待ち構え、声を揃えて歌ったのだ。

「♫カオルちゃん、 ズズズズン♫ おそくなってゴメンネ!〜 
 ♫カオルちゃん、 ズズズズン♫ おそくなってゴメンネ!〜 
 花をさがしていたんだよ〜♫」
と。

我ながら、何という体たらく、恥さらしなのだろう、、、!

中学生だから、クラスに勿論好きな女の子もいる訳で、要するに、、、
思春期の少年にとってこれは中々に恥ずかしい事で、、、、

僕はもうヤケクソになって、最後は彼女達と一緒に大声で歌い、大合唱になった。
🤣!

「♫カオルちゃん、 ズズズズン♫ おそくなってゴメンネ!〜 
 ♫カオルちゃん、 ズズズズン♫ おそくなってゴメンネ!〜 
 花をさがしていたんだよ〜♫」🤣

「♫君が好きだったクロッカスの花を
 僕はさがしていたんだよ〜♫」🤣

何度も何度も僕たちは大声でそのフレーズを歌い、歌声は木造校舎から秋空に響いていった。



だから、僕は今でも美樹克彦の「花はおそかった」が大嫌いなのだ。

*「花はおそかった」唄/美樹克彦 (株)日本クラウン 
作詞/星野哲郎(原詩はカオルではなく「かおる」のひらがな表記。この記事ではパロディ的にカタカナにしてある) 
作曲/米山正夫 

*この記事はnoteh編集部「今日の注目記事」に選ばれました.

*この記事はnote公式マガジン「今日の注目記事」にも選ばれました.

<©2022もりおゆう この絵と文は著作権によって守られています>
(©2022 Yu Morio This picture and text are protected by copyright.)


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