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へやのなか

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わたしが書いたものです
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#創作詩

出立

出立

もしもし、
どこかへお出かけですか
お荷物はそれだけですか

どこへゆくのですか
おひとりですか

やあやあ、
どこへという宛ては無いのです
だから持ってゆくべきものも知らないのです
ただ ここを離れたいと思ったそれだけで

短いかもしれないし
果てもなく長いかもしれません
ですからひとを連れゆくわけにはまいりません

それでは、
そろそろ さようなら

音

ああ 惹かれて止みません

空気が揺れて 泡立って
ぷくぷく しゅわしゅわ しとしと さらさら

とろり 溶けてゆきます
わたしも波になるのです

とろり 落ちてゆきます
まあるい丘を 伝ってゆきます

白い息

白い息

ハッと吐いた吐息が
白くなってまあるく空気に溶けた

きみはこれからどこへまでも旅をする
川を渡り山を越えどこへまでも行っておくれ

自由にほしを渡る空気よ
この原子たちよ
願わくばわたしの想いを連れてって

貴方のもとへ連れてって

泣き虫と文字書き

泣き虫と文字書き

メモ帳に滲むインク

それをぼんやり見つめるわたし

扇風機は規則正しく首を振り
時折ページを踊らせる

うたにもならなかった、言葉たち
何の振動も起こさない、言葉たち

それらに思いを馳せるのは
未練を寄せるのは

もうやめたほうが良いのかい

きっと日の目を見ることのない
いとしいわたしの言葉たち

つくりもの

つくりもの

書けども書けども描(えが)けども
どこまで行ってもつくりもの

つくりものがどこかへ飛んで
つくりものをだれかが食べて
ほんものになるんだなあ

パレード

人混みや車の音に紛れて 孤独と孤独が笑い合う
私たちだけ ここには

できるだけ触れていたい 二人は一人でいたい
私たちだけ ここには

喧騒をBGMにして
スーパーのレッドカーペットを歩いて
エスカレーターを降りて夢の中へ

いいえ 夢ではないわ
夢なんかではないわ
私たちだけ ここには

空気に浮気をしないで
ずっと背中に触れていて
私たち 私とあなただけのまち

鼓動の在処

鼓動の在処

ここに、
私の声を録音したものがある

その声は、
中学卒業の日に 思いを馳せて
大地震の記憶を辿っている

私はこれに時折、
自分自身で聴き入ってみる

目を閉じて、
シラと受け流す日もあれば
瞼をそっと持ち上げて受け止める日もある

ここに、
過去の私のかなしみがある

その声は、
間をおいてゆっくりと喋っている
震えていたりなどもする

私はこれに時折、
相槌を打って聴いてみる

両の眼(ま

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夜空

夜空

広がる視界は暗いけど
ときどき笑うみたいに眩しい

伸ばした手は冷たいけど
どこまででも届きそうな気がする

歩いて何分 何時間
まだまだ何年 何百年

レンズが受け止めた今この瞬間に
そこにはもういないのかもしれないけど
あやふやな光を永遠みたいに頼って

進んで何歩 何メートル
途方もなく何万キロ 何億キロ

むつかしいことは分からないけど
遠いおかげで近くなれるから

同じ月を迎えて
同じ星

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「おいしい」

「おいしい」

夕どきに母が耳鼻科へ行きました。
耳の詰まりが気になるからと、出かけてゆきました。

私は台所で母を見送りました。

コンソメスープと、夏野菜のサラダを作りました。
まだ母の帰りはありません。
ひとりそそくさと食べることにいたしました。

「おいしい〜!」

我ながら腹も心も満たされる食事ができたと、私を褒めました。

私の食事が終わるころ、母が帰ってきました。
ぐったりとひどく疲れた様子でした。

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万華鏡

万華鏡

ねえ 筒抜けだよ

「当たり前だろう 万華鏡なんだから」

万華鏡って、覗いたらどんな景色なの?

「そりゃあ数えきれないほど満開の華やかな景色さ」

へんなの こんなまっくらのこと 華やか、だなんて

「ハハ、そりゃ覗き方が悪いんだ 天に向けて光を入れてご覧」

テン

「お空のことだよ お日さんののぼってるこの広ーい所さ」

広ーくて、まっくらで、ヒカリがハイって、オヒサンのいる、テンね

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つめあと

あなたの知らぬところで

わたしは枕を濡らす

あなたの知らぬ間(あいだ)に

わたしの唇が弧を描く

あなたのいない土の上で

わたしは首をもたげる

あなたの残したつめあとが

わたしの喉をぎゅうっと絞る

あなたの残したつめあとを

わたしの指がそうっと辿る

あなたの残したつめあとは

ひどく冷たい ひどく優しい

SELF LOVE

SELF LOVE

勉学に励み 埃と誇りを高く積む

草花を摘み 嗅いで見つめて彩って

体を彩り 顎を上げてコツコツ鳴らす

音を生(な)らし 反吐も慈愛も空気に揺らす

己(おの)が両手で彼奴を… 憤り沸き立つ

大の字に身を投げ出して地に返り 無に帰す

家の扉をくぐり 家族の笑顔と飯の匂いで腹を満たす

肉を削ぎ筋を充し 線を描く

只管な手と筆は繊維をすべり 残したいものがある

誰も皆 ニンゲン
誰も皆 

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電話

電話

神妙な面持ちと 固く握られた拳
それから俯いて はい、はい、と頷くぼさぼさ頭

僕はそれをじっと見てる さっきからずっと見てる

僕には関係ないかもしれない
父さんにもじいちゃんにも関係ないかもしれない

でも

おめでとう

おめでとう

と、素直に言えない私を

どうか見て見ぬふりをして
どうか放っておいていて

どうか、話を聞いて 頷いて