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「おいしい」


夕どきに母が耳鼻科へ行きました。
耳の詰まりが気になるからと、出かけてゆきました。

私は台所で母を見送りました。

コンソメスープと、夏野菜のサラダを作りました。
まだ母の帰りはありません。
ひとりそそくさと食べることにいたしました。

「おいしい〜!」


我ながら腹も心も満たされる食事ができたと、私を褒めました。



私の食事が終わるころ、母が帰ってきました。
ぐったりとひどく疲れた様子でした。

母はぽつ、ぽつと、話し始めました。

耳の掃除と思いきや、原因はストレスだそうでした。
背中をまるくして俯く母の前へ夕飯を出しました。

そういえば、このところ元気の少なく涙もろい母を見ることが増えたっけ、と思いました。


「おいしい…」「おいしいね」


少し皺の増えた横顔が静かに、でも繰り返し呟きました。

他の何にも替え難い幸せが今ここにあると思いました。
私も大概泣き虫だとも思いました。

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