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リップマン著「世論」①「人は見てから定義しないで、定義してから見る」

国際NGO「国境なき記者団」(本部パリ)が3日、2024年の「報道の自由度ランキング」を発表しました。
調査対象180カ国・地域の中で日本は70位(前年68位)でした。🥺


何とハンガリーやコンゴ共和国よりランクが下です。

日本の状況について「伝統の重みや経済的利益、政治的圧力、男女の不平等が、反権力としてのジャーナリストの役割を頻繁に妨げている」と批判しています。
特に記者クラブ制度が閉鎖的でフリーのジャーナリストや外国人記者を差別しているとしています。


報道とは何か?メディアの役割は何か?

を問いかけた古典的名著にW.リップマンの「世論」があります。



ウォルター・リップマンはアメリカのジャーナリスト。
第一次世界大戦に情報将校として従軍し、対ドイツの心理作戦に参加しました。
自らプロパガンダのための宣伝ビラを作成し、宣伝戦の技術を学びます。

「戦争の最初の犠牲者は真実である」という警句が流布した第一次世界大戦の経験から1922年に書かれた著書が「世論」です。

「世論」と呼ばれるものが実は人間と環境の間に存在するイメージから作り上げられたものであるというそのメカニズムを明らかにした本です。その内容を紹介します。


外界と頭の中で描く世界

私たちは、自分たちが勝手に実像だと信じているにすぎないものをことごとく環境そのものであるかのように扱っています。
あるがままを事実として受けとめるのではなく、自分たちが事実だと想定しているものを事実としているのです。


たとえば戦争中は味方の将軍への英雄崇拝がおこる一方敵方の指導者は悪魔として扱われます。
しかし、英雄も悪魔も作られたイメージで実像とは無縁のものです。

どんな人でも自分の経験したことのない出来事については自分の思い描いているそのイメージが喚起する感情しかもつことはできません。



それぞれの人間は直接に得た確かな知識に基づいてではなくて、自分で作り上げたイメージ、もしくは与えられたイメージに基づいて物事を行っているのです。

人とその人を取り巻く状況の間に一種の疑似環境が入り込んでいるのです。

なぜこのような虚構が存在するかというと、真の環境はあまりに大きく、あまりに複雑で、あまりに移ろいやすいために直接知ることができないからです。
人間は見ることも、触れることも、嗅ぐことも、聞くことも、記憶することもできない世界の大きな部分を知力によって知ることができるようになりました。
しだいに人間は、自分の手の届かない世界についての信頼に足るイメージを、頭の中に勝手につくるようになったのです。

行為の現場、その現場について人間が思い描くイメージ、そのイメージに対する人間の反応がおのずから行為の現場に作用するという事実。



環境とイメージと行動。



「世論」の分析のためにはこの3者の関係を認めなければなりません。

疑似環境から受ける刺激に動かされる、そんな現実の環境に影響を及ぼす人間たちについて考察しなければなりません。



執筆者、ゆこりん

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