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2023年詩

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2023年11月の記事一覧

189「詩」落ち葉

189「詩」落ち葉

不器用なんだ

落ち葉を履く
箒で丁寧に集め
袋にまとめる

やっと地面が見えてくる

風が吹く

地面はまた金色に戻る

こんなことを
いつも繰り返している

それでも
落ち葉を履く
集めた落ち葉を袋に詰める

風が吹く

時間が
袋に溜まる

いつもこんなことを
繰り返している

箒を持つ手の
気怠い痛みが
袋に溜まっていく

落ち葉が
絶え間なく落ちてくる

不器用な生き方を嘲笑うように

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188「詩」いる場所

188「詩」いる場所

何かが違う
今見えているこの場所は
私がいる場所ではない

何だろう
時間が飴細工のように
歪んでいるのが分かる

ここは私がいる場所ではない

私の時間が狂い始めたのは
いったいいつだったのだろう

あの日あの人は
ガードレールに座って
私を待っていた
睫毛の影が
深い心の傷を頬に写していた

隣で
その傷みを癒してあげたいと
一瞬思った

その一瞬が
私の時間を狂わせ始めたのだ

慎重に
心を

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187「詩」破片

187「詩」破片

鏡を思い切り床に叩きつける
粉々になった破片が
それぞれの角度で空を写している

腹が立った
訳もなく

散らばった破片を
思いつく空間という空間に
思い切り投げる

上手くいかないことばかり

一生懸命考えて
一生懸命にやってきたことを
思いもよらない角度から批判される

ただ傷つけるだけの批判に
何の意味もないはずだ

腹が立った
訳などない

鏡の破片が
刺さるのは自分自身だと知っている

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186「詩」影踏み

186「詩」影踏み

年老いた今
僅かばかりの収入のために働いている
その収入で細々と生きている

レジに立ち
理屈に合わない事で客に怒鳴られた日
泣きたい気持ちを抑えて家路につく

月明かりが色のない道に
長い自分の影を落としている
踏もうとして足を伸ばすと
伸ばした分
影が前に伸びて踏めない

影踏みの遊びを最後にしたのは
いつだったろうか
走るのが遅いわたしはいつも
いつも鬼だった

人影のない真っ直ぐに続く道の

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185「詩」暗闇

185「詩」暗闇

夜明け前
星のぶつかり合う響きが
折れた翼をいたわるように
暗闇に降り注いでいた

天使は翼の痛みに耐えながら
もっと酷い痛みに耐えている人々のために
祈っていた

一本の蝋燭にゆっくりと火を灯す

身を削りながら
辺りを照らす蝋燭が
ゆっくりと小さくなって
消えてしまう前に
辺りは明るくなるだろう

朝の光の中に
天使は消えていく
翼が折れたまま
祈りの途切れぬまま

184「詩」秋の清らかに

184「詩」秋の清らかに

背負ってるものが重すぎて
何もかも捨ててしまおうと思った
秋の清らかに澄んだ空気の中で

疲れた身体を横たえる
すぐに深い眠りについたらしい
ラジオから流れてくるフルートの音が
聞こえてくる

バッハだ

暗闇が見える
その中に一筋の光が射している
眩しくはない
ぼんやりした柔らかな明るさが
重荷の紐を解き
すっと中に入っていくのが
分かった

生まれ落ちたその瞬間から
人は平等ではない
生まれる

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183「詩」戻せない

こんがらかっていたんじゃない
ジグソーパズルが
ほんのちょっとズレてしまったんだ

あの時ほんの一言かけていたら
ジグソーパズルは角と角がピッタリ合って
描いた絵を完成していたかもしれない

あの時ほんの一言答えていたら
ジグソーパズルの絵は
次の物語を描いていたかもしれない

あの日
握手する手さえ差し出さず
電車に乗っていくあなたを見送った

その時
カチッと音がして
ジグソーパズルはほんの少

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182「詩」鳥になる

182「詩」鳥になる

タワーマンションのベランダに立って見ている
星くずのような夜の光が消えると
一日の始まりを祝福しているような朝日が
街をゆっくりと彩り始める

ここには千数百世帯が住んでいるんだよ。
と住人である友が言った
乗ってる車もさ、外国車がほとんどなんだ。
国内車でもレクサスクラスかな。

へえ、
そんな生活をおくる人々が
数千世帯もあるのね
と少し驚く

街は明るさを増していく
道路の車の流れも増えて

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181「詩」再会

181「詩」再会

遠い昔
古い下宿の一部屋に集まって夜が明けるまで仲間たちと語り合った
たわいのない毎日の出来事
これからやりたい事
世の中の事
本の事

あの時
未来は
溢れる可能性に
眩しい光のかたまりだった

40年の月日が流れた

もう一度会えた懐かしい友
あの時描いた未来に
今私たちは立っている
きみは描いていた未来に立っていた
私はというと
相変わらず作品作りに悩み苦しんでいる

一冊の詩集も残せず

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180「詩」秋

180「詩」秋

冬が巡ってくる前に
渡さなければならないお手紙があるのです
眠ってしまう前に
伝えておかなければならない事があるのです

春の間にたくさん貯めた
雪解け音
夏の間にたくさん集めた
入道雲の影
秋になって
たわわに実った稲の重み
そんな
たわいのない
いつもの話をいっぱい書いたお手紙を
渡したい人がいるのです

眠ってしまう前に
眠ってすべての記憶が
私から消えてしまう前に

179「詩」その方向へ

179「詩」その方向へ

一筋の光が射す方向を見ていた
その方向に歩いていくにはたくさんのモノを
捨てなけらばならないのが分かっていた

世の中にある物差しを真っ先に捨てた

雨露しのげる屋根と
空腹を満たすだけの食物
寒さをしのげる清潔な衣服
それさえあれば他に欲しいモノなどなかった

身を屈め
重く汚い仕事をし
その日の糧を得る
見下されても
気づかないふりをして
笑顔で応える

地位や財産やそんなものは
どうでも良か

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