チェーザレボルジアあるいは優雅なる冷酷(著:塩野七生)【読書紹介という手段のために目的を選ばなさ過ぎて自滅した男の物語(誰なんだ?)】
以前に別記事でちょろっと紹介したと思うのですが。
80年代に一世を風靡した塩野七生先生のブレイク作のひとつですね。
司馬遼太郎と塩野七生は、一時期は教養として読んでないとインテリを名乗れない、そんなくらいに被読頻度の多そうな本でした。
「ローマ人の物語」とか長すぎてお勧めするのは厳しいものがあるので、
やはり初期の一冊で完結している作品を紹介した方がいいのかな?
と思います。
で、塩野七生さんの文学は、マキャベリズムやリアリズムに対して肯定的な紹介をしているので、
割とそういう大人のやばさ、
みたいなのを高く称賛する感じの話となっています。
さてチェーザレボルジアとは誰か? なんですが。
という引用がどこかにあるくらいなので、
イタリア版の織田信長だと思ってください。
ただ信長と比べると、覇道の極初期の方で挫折してしまった・・・
たとえて言うと美濃獲得の直後に信長が死んでしまったら、みたいな感じです。
(日本だと徳川家康のおじいさん松平清康がこんな感じなんだよね)
なので歴史にはちっとも足跡がありません。
マイナーな人物なので調べるのにも苦労します。
それでも取り上げられるのは、ボルジア家というのが悪の代名詞と言われるくらいエグイ謀略を繰り広げてきたから。
ボルジアの毒薬、という言葉があるくらいです。
また妹を政略結婚の道具として使い、あげく嫁ぎ先を滅ぼす、ということでも信長と似ています。
信長は一回しかやったことないのですが、
チェーザレはこれを何回も繰り返し、妹ルクレツィアはそのたびに夫を兄に殺されるという悲劇の人生を生きた人でもあります。
同時代人であるマキャベリは、この人を絶賛していました。
マキャベリの君主論は、チェーザレをモデルとして書いてあるようなところがあります。
要は「目的のためなら手段は問わない」というのがチェーザレの人物像なわけなんですね。
一点言っておくと、マキャベリ君主論は、
群雄割拠する戦国時代でのリアリズムです。
リアリズムはいつの時代でも、その時代の国際社会に適応したリアリズムが形成されるので、
現代社会で同じことをやると隣国の大統領や、昔の同盟国の総統みたいになってしまい逆にリアリズムから遠ざかる場合があるので、ご留意ください。
ただリアリズムそのものをマキャベリズムと呼ぶ場合があるので、その場合はその時代の国際社会に適応していれば、そう呼ばれる場合があります。
例えば敗戦後の日本は、軍事を捨て、経済にステータス全振りしていた時期がありましたが、あれもあの時代では、ある種のマキャベリズムと呼ばれることがあると思います。
アメリカなどは「ソ連の次は日本だ」とまで苛立っていましたからね。
ふしぎなことにそのあと、日本はバブル崩壊でこけて、気がつけば中国様が強くなりすぎて、アメリカの敵意は日本から遠ざかるようになりました。
これもマキャベリズム?!・・・・・はは、まさかね。
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さて、ここまで前置きです。
長かった・・・こんな長い前置きはいまだかつて書いたことないぞ。
ではやっと中身の紹介です。
まず、チェーザレの父親はローマ教皇アレッサンドロ6世です。
この時点ですでにヤバいのですが・・・
ローマカトリックでは聖職者は基本童貞でないといけません。
性体験がある人が教皇になるなどもってのほか。
それなのに息子がいる?!?
ヤバいぞこれ。
もうこの時点でボルジア家がヤバいということが、なんとなく分かりますね。
要するに社会のルールをおとなしく守るような連中ではないということです。
チェーザレは親の七光りで枢機卿という高位聖職者になりますが、
この道は自分に合ってないなと思ったらしく、
還俗して軍人の君主を目指します。
そして親の金で集めた軍隊を使って、イタリアの長靴のふくらはぎちょっと上の部分、ロマーニャ地方を征服して一国一城の主となります。
(称号はヴァレンティーノ公爵)
そこでの統治は、厳しいけれど割と善政で、住民にとっては悪い政治ではなかったようです。
信長も楽市楽座などといった民間活性政策をやっていますね。
ただ政敵は容赦なく暗殺したりします。
今となっては、この方面でも隣国の大統領の方が有名になってしまいましたが。
マキャベリはこのチェーザレの国に、フィレンツェから大使として派遣されてくるのですが、逆に一目ぼれしてしまいます。
変な意味ではなく、理想の政治家という意味で、ですぞ。
一見すると暴虐に見えるが、
その行動はすべて合理的に計算され尽くしており、
行動が無目的な様相を呈した事は一度もなく、
常に最終的な目標から逆算された戦術を採用している。
その最終的な目標とは・・・
反乱軍を殲滅したときにチェーザレが吐くセリフです。
この時代のイタリアは1000年に及ぶ長い分裂の時代。
イタリアという言葉は地理的な名称以上の意味を持たなかったのでした。
現在で言うとユーラシアくらいの意味でしょうか。
チェーザレの最終目標は、実にそこなんですね。
要するにキングダムなんですよ。
少年の将軍とかいないけど。
ですが没落は急激でした。
信長は本能寺で劫火に焼かれましたが、
チェーザレの場合は、病気でした。
身動きもままならない厳しい闘病が始まります。
その間に、若い新興の勢力にとっては指導者の卓越した指導が必要なイベントが、大量に発生しました。
指導者が健在であれば、どうにかなったのでしょう。
それどころか、更なる飛躍の1ページになったのかもしれない。
しかし実際には、そのすべてに若い英明な指導者は対応できませんでした。
闘病中だったからです。
気の弱りか、ミスも重なります。
最悪の政敵が次のローマ教皇になります。
しかも彼が教皇になるのに、チェーザレも支援してしまったのです。
見返りを求めてのことですが、かつての仇敵をそこまで信用して良かったのでしょうか?
当然ながら仇敵は目的を達成した途端に、逆にチェーザレを排除することを考えたのです。
これまでチェーザレを敵視していた勢力が、ついに団結して軍を差し向け、領国を奪いに来ますが、
やはりチェーザレは陣頭指揮できません。
そこまで回復していない。
結局は、手に入れた領国をすべて手放して、一人の軍人に落ちぶれたのでした。
ですがまだ死んではいません。
生きていれば再起は叶う。
まだチェーザレは若く、
しかし、再起を目指した一戦目のスペインの戦場で、チェーザレは名もなき兵に討ち取られ、戦死します。
これが、塩野七生によって語られた、チェーザレボルジアの物語です。
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塩野七生先生が、マキャベリズム、もといリアリズムに対して、
どれだけ好感を抱いているか。
ここでちょっとまた別の本を紹介したいと思います。
「男の肖像」という本で、ユリウスカエサルの話を出しています。
先生はカエサルも大好物なんですね。
先生に言わせると、カエサルとクレオパトラは、
性別を超えて仕事の話ができる大人の恋愛で、
アントニウスはただの愛人枠なんだそうです。
更に言うと以下の「カエサルから出した手紙」は先生の妄想で、史実ではないのですが。
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