不知恋舟

不知恋舟

記事一覧

ルートB

 明日地球が終わるとしても、花は美しく咲くのだった。夕暮れの桜並木の連なる駅前の道を走ってくるスーツ姿のお前を、特に何の感慨もなく見つめていた。 「ごめん、待っ…

不知恋舟
2年前
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星の子ら②

第二章 期末テスト  期末テストまで一週間。俺は毎朝ソラくんといっしょに、時計の鐘が鳴るずっと前に学校に行って、寮に戻ってきてからも、消灯の鐘が鳴るギリギリで勉強…

不知恋舟
2年前
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星の子ら①

第一章 くらげ  「大樹の時計」は俺たちにとって絶対で、世界の全てだった。一時間おきに鳴る、ごぉん、という重苦しい鐘の音が、時刻を告げて、それを合図に俺たちは生活…

不知恋舟
3年前
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最近親心を知った、オタク

「推し」という言葉が広く使われるようになって、意外と日は浅いのではないでしょうか。 高校二年生の頃、好きだった俳優さんのことを「推しがさ〜」と言っていたら友人に…

不知恋舟
3年前
3

ここから先は未知の道のり

1992年、春の天皇賞。 ではなくて。私の近況の話です。 私の所属している愁文会というサークルでは、二週間に一度、字数2000~5000くらいの小説を、決まったお題で書いて、…

不知恋舟
3年前
2

人間の顔を切り刻むこと

一年ほど前のあの日、あのラジオで、彼は「目標は現状維持」「老後はティファニーブルーの海に囲まれて生きたい」と語った。 聞き手のDJは「素敵な夢ですね」と相槌を打っ…

不知恋舟
3年前
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不燃で不毛な私たち

宇佐美りんさんの『推し、燃ゆ』が芥川賞を獲ってからしばらくして、作中の主人公が推しが燃えて「無事?」と連絡を受けたように、「これ今年の受賞作だって」と知り合いや…

不知恋舟
3年前
6

ORDER

 彼はいつも私を殴る。腹、腕、顔、人の目に付く部位であろうとお構いなしに、アザができるまで。 「ごめんなさい……ごめんなさい……」  そうして一頻り暴力をふるっ…

不知恋舟
3年前
6

動物愛護日記

九月一日 昼 今日のねこちゃんもかわいい。よく走り回って、よく声が出て、とてもかわいい。ずっとねこちゃんだけを見ていたい。 九月一日 夜 少し喉が枯れているみたい…

不知恋舟
4年前
1

「僕の彼女は人間ではない」

 僕の彼女は人間ではない。プールの後の古典の授業中に、窓辺でうつらうつらとする横顔があまりに綺麗で、僕から告白したのだ。付き合ってください、と校舎裏でありきたり…

不知恋舟
4年前
9

サザンクロス

「即死だったみたいだ」  病院に駆けつけた俺に、お前の兄さんはそう言った。 「痛くも苦しくもなかっただろうと、先生が」  そう言うと彼は笑った。その隣でお前の母さ…

不知恋舟
4年前
3

mono

 僕の先生は、僕よりずっと長生きをする。同じような外形をしているのに、先生は僕のおよそ五倍の寿命を持つ種族だという。 「先生、おはようございます」 「おはよう」 …

不知恋舟
4年前
1

ルートB

 明日地球が終わるとしても、花は美しく咲くのだった。夕暮れの桜並木の連なる駅前の道を走ってくるスーツ姿のお前を、特に何の感慨もなく見つめていた。
「ごめん、待った?」
「いや別に。てか待ち合わせしてへんし」
「もう、そんなこといわないで」
 連れ立って歩く速度は、数年ぶりでもぴったり同じ拍を刻んでいる。お前の左手薬指にはきらきら輝く指輪が嵌まっている。
 明朝、地球は終わる。SDGsだとか地球温暖

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星の子ら②

第二章 期末テスト
 期末テストまで一週間。俺は毎朝ソラくんといっしょに、時計の鐘が鳴るずっと前に学校に行って、寮に戻ってきてからも、消灯の鐘が鳴るギリギリで勉強し続けていた。
 それでも、絶対に芥くんより先には学校に着いたことがない。誰よりも勉強しないと俺は追いつけないというのに、芥くんには絶対に勝てる気がしない。
 毎朝教室のドアを開けると、最前列真ん中の席に、姿勢良く座ってノートを開いた芥く

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星の子ら①

第一章 くらげ
 「大樹の時計」は俺たちにとって絶対で、世界の全てだった。一時間おきに鳴る、ごぉん、という重苦しい鐘の音が、時刻を告げて、それを合図に俺たちは生活していた。九時の鐘は始業の合図。十二時はお昼ご飯。十六時で授業はおしまい。そのあとは寮に戻って、夕ご飯を食べて、のんびりして眠る。故郷である「星の街」にいた頃とは、比べ物にならない良い暮らしをさせてもらっている。白くてすべすべした、綺麗な

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最近親心を知った、オタク

最近親心を知った、オタク

「推し」という言葉が広く使われるようになって、意外と日は浅いのではないでしょうか。

高校二年生の頃、好きだった俳優さんのことを「推しがさ〜」と言っていたら友人に「三次元に推しっていう?」と怪訝な顔をされた記憶があります。

そんな「推し」ですが、定義はいまだ定まらないところがあると言うか、そもそも定義するものでもない気がしますね。
私にも複数推しと言える存在がいますが、そのうちのひとりは人間では

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ここから先は未知の道のり

ここから先は未知の道のり

1992年、春の天皇賞。

ではなくて。私の近況の話です。
私の所属している愁文会というサークルでは、二週間に一度、字数2000~5000くらいの小説を、決まったお題で書いて、感想を言い合うという活動をしています。

個人的にだいたい3000~5000くらいが得意な文字数なので、頭を悩ませつつも毎回なかなか良い作品が書けていると思います(ほんとかな)(気になる方はTwitterのモーメントで読んで

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人間の顔を切り刻むこと

人間の顔を切り刻むこと

一年ほど前のあの日、あのラジオで、彼は「目標は現状維持」「老後はティファニーブルーの海に囲まれて生きたい」と語った。
聞き手のDJは「素敵な夢ですね」と相槌を打った。
彼の夢を知っていた──と思っていた私は少なからず驚いていた。彼の夢は「一生俳優を続けること」だったはずだ。
自分で何を言ったのかすぐに忘れてしまうのは、彼の可愛らしい特徴であったが、私はその時確かに違和感を覚えていた。

こういうの

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不燃で不毛な私たち

不燃で不毛な私たち

宇佐美りんさんの『推し、燃ゆ』が芥川賞を獲ってからしばらくして、作中の主人公が推しが燃えて「無事?」と連絡を受けたように、「これ今年の受賞作だって」と知り合いや家族からいくつか連絡があった。みんな私の推しが燃えたことを知っていた。まあなんか、推しが燃えた直後の話題作がこれなんて、運命っぽいから読んでみるかと私はAmazonのお世話になった。

私の推しも燃えた……わけではない。厳密に言えば、実は。

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ORDER

 彼はいつも私を殴る。腹、腕、顔、人の目に付く部位であろうとお構いなしに、アザができるまで。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 そうして一頻り暴力をふるった後、二人で眠る時には泣きながら私を抱きしめる。それが性的なものに変化することはなく、おそらく今後もない。しかし私は彼の激情を知っている。

 私はそんな彼を愛している。

「あの、三枝言葉先生ですか……?」

 編集部との打ち合わせの

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動物愛護日記

九月一日 昼
今日のねこちゃんもかわいい。よく走り回って、よく声が出て、とてもかわいい。ずっとねこちゃんだけを見ていたい。

九月一日 夜
少し喉が枯れているみたいだ。心配。病院に連れて行ってあげないと。

九月二日 夜
調子が戻ってきたみたい。今日もとてもかわいい。毎日毎日、どんどんかわいくなっていく。

九月三日 昼
ねこちゃんは少し失敗してしまった。うまく受け身が取れなかったのか、派手に転ん

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「僕の彼女は人間ではない」

 僕の彼女は人間ではない。プールの後の古典の授業中に、窓辺でうつらうつらとする横顔があまりに綺麗で、僕から告白したのだ。付き合ってください、と校舎裏でありきたりな告白をした。数々の男子が惨敗したと言う噂とは裏腹に、彼女はあっさりと「別にいいけれど」と言い、そしてこう続けた。
「私、人間じゃないのだけど、それでも良い?」
 彼女が言うには、太古の昔、それこそ神話の時代にどこかで植物の遺伝子が混ざって

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サザンクロス

「即死だったみたいだ」
 病院に駆けつけた俺に、お前の兄さんはそう言った。
「痛くも苦しくもなかっただろうと、先生が」
 そう言うと彼は笑った。その隣でお前の母さんが、俺に向かって泣きながら笑って見せた。
「ありがとうね、来てくれて」
 俺は小さく頷いた。一番の親友だから、という理由で連絡をくれた彼らに俺は感謝していた。
 苦しまずに亡くなったという、その顔を見下ろす。それはとても安らかで美しかっ

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mono

 僕の先生は、僕よりずっと長生きをする。同じような外形をしているのに、先生は僕のおよそ五倍の寿命を持つ種族だという。
「先生、おはようございます」
「おはよう」
 僕は今日も先生とふたりきりの教室へ登校する。教室どころか、この収容区にはもう僕たち二人しかいない。実際には、先生は外からやってきた『特任教授』というやつだから、本当の意味で収容されているのは僕だけだ。僕以外の生徒はもう、とっくに寿命で死

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