動物愛護日記

九月一日 昼
今日のねこちゃんもかわいい。よく走り回って、よく声が出て、とてもかわいい。ずっとねこちゃんだけを見ていたい。



九月一日 夜
少し喉が枯れているみたいだ。心配。病院に連れて行ってあげないと。



九月二日 夜
調子が戻ってきたみたい。今日もとてもかわいい。毎日毎日、どんどんかわいくなっていく。



九月三日 昼
ねこちゃんは少し失敗してしまった。うまく受け身が取れなかったのか、派手に転んでしまった。身体能力の高いねこちゃんには珍しい。



九月三日 夜
ガーゼを当てているねこちゃんも可愛かった。少しだけ恥ずかしそうだった。



九月四日
今日は会えない日だ。寂しい。でも画面越しに会うことができた。少し眠そうだったので「眠っても良いよ」というと、やっぱり少し恥ずかしそうだった。



九月五日 夜
今日はとても調子が良さそうだった!すごい。やっぱり私のねこちゃんは天才だ!



九月六日 昼
私のあげた洋服を着てくれていた。夜にでも写真を撮ろう!



九月六日 夜
夜は眠たいのか、ねこちゃんは素っ気ない。でも私のあげた洋服を着てくれていた。写真も撮れた!



九月七日 夜
かわいいねこちゃん。一番近いところから、泣き顔がはっきり見えた。綺麗な涙だった。



九月八日 昼
今夜でねこちゃんに会える日々はいったんお終い。イベントとかで会えたら良いけど、やっぱり私は板の上のねこちゃんが好きだなあ。目に焼き付けよう。



九月八日 夜
最高だった最高だった最高だった!今まで見た中で一番かわいいねこちゃん!これでしばらく会えなくても大丈夫。嘘、もっと会いたい。



九月十二日
ねこちゃんに会えるイベントが発表された。いっぱい入りたいから、お金を稼がなきゃね。



九月十五日
水商売をはじめることにした。ねこちゃんのご飯。ねこちゃんのお洋服。ねこちゃんの生活費。お金がたくさん必要。



九月十七日
ねこちゃん。会いたい。



九月二十五日
ねこちゃんのイベントの日。プレゼントをたくさん持って行った。たくさんCDを買ってあげたら、少し驚いた顔をして「無理しないでね」と言った。ねこちゃんのためなら、いくらでも無理するよ。



九月二十七日
一昨日買ってあげた限定モノのお洋服が、メルカリに出ている。ねこちゃんもお金に困っているのかな。



九月二十九日
同じCDが何枚も部屋にあると、掃除にきたお母さんに怒られた。でもこれも全部ねこちゃんのためだから。ねこちゃんのためなら私はなんでもする。大切な私のペット。



九月三十日
ねこちゃんは今頃ぐっすり眠っているかな。よく眠るねこちゃんのその寝具の一部は私のお金。私のお陰。



十月三日
ねこちゃんが私のお店に来た。後輩俳優を数人連れて、来た。私はよく似た人かと思ったけれど、世界で一番かわいいねこちゃんに、似ている人なんているわけない。
ねこちゃんは私に気づかなかった。いつも「来てくれてありがとう!」と嬉しそうに手を合わせて、上目遣いでこちらを見るのに。
人違いかな。でもそんなはずない。ねこちゃんはこんなところにこない。こんなかわいい人ねこちゃん以外ありえない。
私はとっさにアイスピックを掴んで、ねこちゃんの笑っているテーブルまで向かって行った。
周りの後輩たちは逃げて行って、逃げ遅れたねこちゃんを私は睨む。ねこちゃんはやっと「あっ」という顔をした。私のおかげで食えているくせに。私の顔を忘れるなんて。そのお金で女の子と遊びに来るなんて。
「ねえ飼い主に逆らうの?ねこのくせに」
振り下ろしたアイスピックは、ねこちゃんのこの世界で一番綺麗な顔をかすめただけで終わった。私は取り押さえられ、ねこちゃんは帰って行ってしまった。被害届なんか出さない。だってバレたら困ることしてるんだから。キャバクラで刺されましたなんて言ったら、いよいよねこちゃん捨てられちゃうよ。ねこちゃんは私たちの愛玩動物なんだから。一生懸命走って、笑って、かわいこぶってないといけないんだよ。



十月十日 昼
最前列にいる私を見て、ファンデーションで必死に隠した傷を思わず触ったねこちゃん。役者としてあまりに未熟なんじゃない?お店はクビになったけど、CDを全部売って、この後のチケットを転売すれば、まあなんとかなるかな。

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