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工藤 弥生
2017年2月13日 17:44
神様が忘れていった月や星、置き去りにして朝焼けを待つ。冷たい風が通り抜けていき、なけなしの体温を掠め取っていく。頭の中、脳細胞が示している世界に過ぎないのに、ここに自分の全てを委ねて、いつの日か後悔する日がきっと来るのだ。最果てですか?いいえ、私は風です。一秒ずつ削られていく寿命を誰も贖ってはくれない。手持ちのカードだけで歩いていく。切ったカードの補充はあてにできなくて。朝焼けは
2017年2月13日 20:08
何処かに行きたいと思っていても、その何処かなどどこにでもない土地でしかないことは分かっていて、しかしここではない何処かへの希求は容易に収まることはないのだ。さよならを私自身に言いたくて屋上の鍵壊してみたい無い土地にどのように行けるのか。そこまでの手段は? 方法は? そして意義は?そんな自分のなけなしの理性を握りつぶしても、指の間から漏れ出るそれは私を解放してくれなくて、そしてそのことを私
2017年2月14日 06:53
存在を薄めることで、誰の邪魔にもならないように好きに生きたいと考えたりしても、結局どこにもいけない自分を選択していることは変わりなくて。息が苦しい。お決まりのさみしさがある。魂がおひとりだからやむを得ないね。そんなことを考え、アンドロギュノスを夢想しながら歩いている。世界に何も刻みつけられないまま終わるのは、嫌だ。ガスの膜のような睡魔に触れられて、何か新しい扉を開くわけでなく、ひた
2017年2月14日 19:20
手放したものたちが棲む黄昏が爪立てるから胸が苦しい。明くる日も、その明くる日も過去からは逃げることができない。忘れてしまえば、楽になれるのか。解き放たれるときが、いつか来るのか。雲の羽毛に覆われた太陽は、私の苦痛を覗こうともせずに、微睡みの中、死に惹かれている。彼ならば生まれては死に、また生まれては死ぬ私のことを滑稽に思うだろうか。結局のところ星屑にすぎない。いずれ彼も同じ運命を辿
2017年2月15日 08:25
緩慢な崩壊の音を聴いている。それらは小川のささやきのように、いつも私達の鼓膜をか細く震わせている。心地よい記憶が喪失していくような、柔らかなうねりの中で、さやさやと、さやさやさやとそよいでいるのだ。空は、終わったね。海も、終わったよ。大地は?ささやきには誰も答えないでいる。鈍色の太陽が優しく包む。風が遠ざかりながら、救いの名前を置き去りにしてゆく。崩壊の音はいずれそれだけで世界を覆
2017年2月18日 18:30
どんなところにも異界への窓は開かれていて、周波数が合う人間がそれに気づくのを待ち構えている。さびしさや虚しさ、気づかなければ幸せな諸々の感情。それらが軋み、人間の閾値を超えたとき、彼らはその窓から身を投げるのだ。窓にも異界にもなんの責任はない。それらは単にそこにあるものとして存在しているのだから。その選択肢に気づき、選んでしまうのは限られた人間だ。その血肉を糧として今日も窓は澄み切っている。
2017年2月19日 21:48
遠い渚のある街でした。彼らはいのちを食べていました。魂を売り肉体を買い、僅かな時間を息していました。渚はいつもそよいでいました。たぷたぷ笑い、くぷりと眠り、砂浜を撫でて過ごしていました。何にも意味はないことでした。空から闇が降り注ぎました。喇叭が響き、星まで震え、全ての者は並んでいました。食べたいのちと生かしたいのち、さいころ一つで数えられても、彼らは何にも言いません。諦めすらも感じられずに
2017年2月12日 13:44
雪が降り、消してくれるよ。傷跡を覚えているのはもう君だけだ。そのことを君は、悲しいというのかい?傷跡ばかり誇らしく掲げていたって何も生まれないよ。何も生まれないものを大切に抱えて、新しい何かを掴む前から手放している。そのことがいいと僕には思えない。雪が、来たね。彼らは何も恐れない。白一面の世界に還元することが楽しいと思っている。差異も何も全て白にしてしまえば問題はない。ほら、君の瞳
2017年2月12日 21:34
悪夢でも夢のひとつに変わりなく、黒い歩兵が歩き続ける。街並みはいつも通り口を噤んで、次の密告者とその被害者の影を隠し通そうとしている。彼らが蠢きつづけているうちは、まだ世界は存在するらしい。「あなたは、だあれ?」「あなたは、なあに?」幼子の皮を被った狼が微笑みながら近づいてくる。私の影は私の足を石畳に止めて、その場から離してはくれないのに。目の前が白く眩む。その瞬間を彼らは逃してくれない
2017年2月10日 06:50
簡単な仕組みで動く歯車が、ある日意志など持ってしまった。手元にある金属質の円盤。このひとつひとつが反乱を起こすのも時間の問題かもしれない。そのときに僕らは、その鋭利な外周に刻まれて、鉄錆の匂いがする蛋白質の屑となって存在することになるのだろう。歯車の意志は? そもそも僕らの意志は? それを瞬時に言えない以上、歯車も僕らも同じで、僕らが一方的に彼らを使役することは許されないことだったのではないか