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単純な仕組みで

簡単な仕組みで動く歯車が、ある日意志など持ってしまった。手元にある金属質の円盤。このひとつひとつが反乱を起こすのも時間の問題かもしれない。そのときに僕らは、その鋭利な外周に刻まれて、鉄錆の匂いがする蛋白質の屑となって存在することになるのだろう。

歯車の意志は? そもそも僕らの意志は? それを瞬時に言えない以上、歯車も僕らも同じで、僕らが一方的に彼らを使役することは許されないことだったのではないか。

密やかに世界が軋む音がする。煉獄まではあと何マイル?

世界中の歯車が回り始める。増殖していくそれらは僕らの意志や目的に拘泥してくれることもなく、今まで持ちようもなかった解放感と優越感をもって僕らを襲う。ごめんね、きっと辛かったんだよね。そんなことを呟いても免罪になるわけでもなく、僕らはリノリウムの廊下で、最期に感じる冷たさを啜りつづけている。

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