見出し画像

遠い街

遠い渚のある街でした。彼らはいのちを食べていました。魂を売り肉体を買い、僅かな時間を息していました。
渚はいつもそよいでいました。たぷたぷ笑い、くぷりと眠り、砂浜を撫でて過ごしていました。
何にも意味はないことでした。空から闇が降り注ぎました。喇叭が響き、星まで震え、全ての者は並んでいました。
食べたいのちと生かしたいのち、さいころ一つで数えられても、彼らは何にも言いません。諦めすらも感じられずに、彼らは奈落に落ちていきます。ひゅうひゅうと風を切り裂き、暗闇に四肢を奪われ、元々なかった感情までも、ばらばらにされ消えていきます。
そのようなことについぞ気づかず、渚は光と戯れながら、誰も動かぬ海岸線を、静かに洗って清めるのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?