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崩壊

緩慢な崩壊の音を聴いている。それらは小川のささやきのように、いつも私達の鼓膜をか細く震わせている。心地よい記憶が喪失していくような、柔らかなうねりの中で、さやさやと、さやさやさやとそよいでいるのだ。

空は、終わったね。
海も、終わったよ。
大地は?

ささやきには誰も答えないでいる。鈍色の太陽が優しく包む。風が遠ざかりながら、救いの名前を置き去りにしてゆく。

崩壊の音はいずれそれだけで世界を覆い尽くすだろう。そのときには薄汚れた海も、ひび割れた天蓋も、灰色の大地も、全てが優しく奪われていくだろう。聴く耳を全て失ってもなお、その音はずっと奏でられていくだろう。

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