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映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』を観た話。

【注意】本記事には、劇場公開中の映画の結末などを含んだ #ネタバレ となる内容が書かれています。鑑賞予定の方はその点に注意していただき、お読みくださいますようお願いいたします。


男が直感と本能でしか動かない狩猟民族なら

女は大胆かつ緻密な戦略犯ってとこだろうか。


映画「先生、私の隣に座っていただけませんか?」。2021年9月10日から公開の日本映画。黒木華と柄本佑が夫婦役を演じる、サイコラブロマンス(瑞野独自の命名です)作品である。

主人公の早川佐和子(演:黒木華)は、漫画家。夫であり同じく漫画家の俊夫(演:柄本佑)と二人三脚で、雑誌で漫画を連載していた。その連載の最終回が脱稿した日、佐和子の元に「母親が事故でけがをした」と連絡が入る。佐和子は運転免許を持たず、田舎で暮らす母親を一人で看病するのは困難なことから俊夫と共にしばらく実家へと戻ることになる。

佐和子はしばらくしたのちに「不倫マンガ」を書きたいと思い立つが、その提案になぜか俊夫は大きく動揺する。その後書きあがった漫画のネームは、実にリアリティがあるストーリーで秀逸だった。たったひとつ、ネームの中に登場する人物が、あまりにも佐和子と俊夫、そしてその周りを囲む人物に似すぎているという問題を除いては・・・。


あらすじを書いたところでいきなし盛大な種明かしをするが、俊夫は佐和子の担当編集者である千佳(演:奈緒)と不倫関係にあり、その復讐に燃える佐和子は、自動車学校の教員である新谷(演:金子大地)との浮気に身を投じていくことになる・・・。
という、まあ、要するにゴリゴリの不倫ドラマだ。

しかし、私は冒頭でこの作品のことを「不倫ドラマ」とは言わずに、「サイコラブロマンス」とあえて表現を濁した。なぜなら、これは果たして現実なのか虚構なのか、物語の途中からまるでわからなくなってくるのだ。

佐和子のネーム上で、この不倫の事の顛末が描かれていくのだが、俊夫と千佳の決定的な現場は実写で描かれる。だが、佐和子と新谷のラブシーンの大半は「漫画の絵」として描かれる。つまり、これが「現実に起きている出来事」なのか「まったくの虚構」なのかは誰にもわからない。真実は、佐和子にしかわからないのだ。

で、もっと言えば、佐和子はこのネームに出てくる人物が自分たちをモチーフにしているとは一言も言ってない。なので、俊夫一度そのことを指摘したが、佐和子はごく冷静な表情をして「本当だったらどうするの?」「ってことはあなたも不倫してるの?」と、返り討ちに遭うのだ。


このサイコっぷりが。もう。えげつない。


佐和子、あまりに恐ろしい女である。普段は貞淑でおとなしく漫画のこと以外なにを考えてるかわからないところがあるのだが、その頭脳はとんでもなく冴えている。何しろ、もう全てバレている夫に対してかける揺さぶりにしてはあまりにも精巧すぎる。

普通の女なら決定的な現場を目撃した途端にすぐ問い詰めるだろうが、佐和子はそうじゃない。じわじわ火で炙って美味しくしてから時間をかけてダメ夫を調理するのだ。まさにサイコパス。

そして、俊夫もこの策略に
見事にハマり徐々に冷静さを欠いていく。

佐和子の教習中にコースまで乱入したり、教習車を尾行したり。その間にもどんどんネームは次の展開へ進んでいく。ネーム上ではさらに不倫が進展する。焦る俊夫。この畳み掛けのおかげで、俊夫と観客は正確なストーリー認識能力を失う。何が本当で何が嘘で、何がこの不倫の結末なのか。正直、話の後半からは登場人物を全員疑うことしか考えてなかった。


「男ってばかだよなぁ。だって疑い出したら後先考えず行動に移すし、自分のこと棚に上げて相手のこと責めだすしな」とか、自分が男であることを棚に上げて俊夫の慌てぶりに失笑ばかりしていた。というか、笑ってないと怖すぎて神経が持たない。

なので、自分が足をすくわれる側の人間であることを
忘れたい男性にはとてもお勧めできる。

へ?そんなことに映画を使うなって?いいじゃない。だって、映画はもともと2時間の現実逃避旅行なのだから。ね?まあでも、その旅行が終わったあとに果たしてあなたが笑ってられるかどうかは保証しませんけどね。


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というわけで、今回は映画「先生、私の隣に座っていただけませんか?」のレビューでした。

引き続き、読者の皆様から映画レビューのリクエストを受け付けております。この作品をレビューしてほしいというリクエストがありましたら、下のURLから「募集のお知らせ」に飛んでいただき、コメント欄の方に投稿をお願いいたします。瑞野が責任を持って、レビューさせていただきます。



おしまい。



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