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小説『私たちは何処へ往くのだろうか?』第二話

「ごめんなさい事情は後で説明するので助けてください!!」

彼女はレナに必死に訴えかけてくる。しきりに後ろを気にする彼女。追っ手がいるのか?レナは反射的に彼女の手を取って、公園の茂みに引きずり込んだ。そのまま身を伏せる。直後、追っ手と思われる黒服たちが、隠れていることに気付くことなく明後日の方向に走り去っていった。

しばらくして、茂みから出てくる。二人は雑草が服に張り付いているのを手で払いながらも、お互いに動揺を隠せずにいる。
「…ありがとうございます、急にこんなことに巻き込んで…」
「いえ…そんなことより、いったい何が?」
「あの、実は横浜から逃げたいんです。手助けしていただけませんか?」

何だろうか、この映画のような展開。

「…とにかく、詳しいことを聞かせて。あと、その格好じゃ逃げ切れないわ。ひとまずここから移動しましょう」
「…手伝っていただけるんですか!ありがとうございます!」
「まあ手伝うしか選択肢はないみたいだしね」

とにかくまずは事情を聞かなければ。レナは彼女と共に急ぎホテルに戻った。部屋から自分の私腹を持ち出し、汚れたウエディングドレスを脱がす。スポーツタイプのパーカーとタイトなジーンズ。全身黒色。ついさっき花嫁衣裳を身にまとっていた女性とはおおよそ思えない格好である。

「すいません、こんなことまで…」
「気にしないで。で、なんで横浜から逃げようと?」
「まあ、だいぶ複雑な事情なんですけど…」
「雨の中ウエディングドレスを着たまま走って逃げてる時点で複雑なのは分かってるわよ」

レナの個人的解釈を交えた話によると、彼女は横浜に本社を構える大企業のいわゆる「社長令嬢」らしい。彼女が大学生の時にIT企業のエリート会社員と知り合い、恋人関係にあったが、父親の仕事の都合で半ば強制的に縁談話を進められ、あれよあれよという間に結婚式にまで持ち込まれてしまったらしい。

その結婚式がまさに今日行われるはずだったのだが、そこは用意周到な二人。エリート会社員は式場に勇猛果敢に突入した。場をめちゃくちゃにして挙句二人で逃亡したという。しかしその途中、エリート会社員とはぐれてしまい、追っ手をかわそうとして公園に入り、レナと出くわし、今に至る。

「…この令和の時代にまだそんな昭和初期みたいなビジネス結婚させるとか、貴方の親は石器時代の化石か何か?」
「バカな親なもので…」
「バカね。で、そのエリート野郎はいまどこにいるの?」
「いま連絡をしていて…最終的には、成田からニューヨーク行きの飛行機に乗って逃げるはずだったんです。ほら、ここにチケットも」

彼女はどういう訳か、パーカーに手を突っ込んでチケットを取り出した。どうやらブラジャーの中に航空券を仕込んでいたらしい。

「そんな用意するぐらいだったらもっと早く成田から高跳びしときなさいよ!なんでよりによって式当日に逃げるのよ!」
「それしかなかったんです!親も親で、見張りとかボディーガードをすごい数用意して、ずっと付きっきりだったから…振り切れるのは式の当日しかなかったんですよ…」

レナは頭がくらくらした。
「もういいわ。そのチケット見せて」
彼女はレナにチケットを渡した。
「今夜9時ちょうど発のJNA334便…まだ午前11時だからおつりが来るぐらい余裕ね。私が成田まで送るわ」
「えっ!?そんな、いいんですか!?」
「最初から狙ってたくせにしらじらしいわね。アラサー女なめんじゃないわよ。それぐらい察し付いてるっての」
「ありがとうございます!!感謝します!!」
「感謝は成田着いてから言いなさい」



-つづく-



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