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小説『私たちは何処へ往くのだろうか?』第一話

大阪府大阪市中央区大手前。かつて天下を手中に収めた豊臣秀吉が居所としていた錦城・大阪城が目前にそびえる。

そのほど近くの合同庁舎に、厚生労働省関西厚生局のオフィスがある。一番広い会議室の中、麻薬取締部・通称マトリに所属する警官や刑事の面々が、一堂に集結していた。整然と並ぶ捜査員たち。その中に一人、凛とした表情の女性がいた。白い肌、切れ長の目、きつく結んだ黒髪のポニーテール。育ちの良さを感じる、容姿端麗さである。

「桜木怜奈」

上司と思わしき男が、彼女の名前を呼んだ。

「…はい。」

「君には今回の作戦の中でも一番重大な役割を担ってもらう。君の行動が、全てを左右するのだ。心して、捜査に取り掛かるように。失敗は、許されない。」

「…心しております。犯人検挙のために、全力を尽くします」

「頼んだぞ。総員、直ちに横浜へ向かえ!敬礼‼」

全員の一糸乱れぬ敬礼。
程なくして取締官たちは大阪を出発した。
怪物を倒す、最後の戦いのために。


・・・・・・・・・


横浜はその日、朝から雨が続いていた。

ホテルの窓から見えるランドマークタワーは、上層部が白く霞んでいた。厚いグレー色の空から、とめどなく雫が落ちてくる。久しぶりの東京(まあ正確には横浜なんだけど)なのにと、肩を落とした。レナは部屋でシャワーを浴びて、髪を乾かしメイクを施した。

白いワンピースに身を包み、レナはホテルを出た。雨の中、傘を差して、大通りを歩いていく。パトカーが走り抜けていくその音に、レナは少しびくっとした。職業病かこういう時にはどの都道府県に居ても身構えてしまう。

レナが向かったのは、横浜の市街地の南、高台にある港の見える丘公園だった。雨のせいもあるのか、人影はまばらである。展望台に立つと、みなとみらいの高層ビル群が遠くに見える。こんなときでも横浜の景色は美しいなと、レナは心の中でつぶやいた。

展望台を背に、再び公園の中を散策しようと
足を踏み出したその時。

歩き出そうとしたまさにその方向から、いきなり女の人が全速力で走ってきた。その格好に、レナは驚いた。とても大きなシルエットのウエディングドレス。裾は持ち上げて走っているが、どこかで水たまりにでも浸かってしまったのかずぶ濡れになっている。

「えっ⁉えっ⁉なにこの状況⁉」

私が動揺していると、彼女はいきなり
私にこう訴えかけてきた。

「お願いです、助けてください」

「え、助けてって、どういうこと?」



-つづく-



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