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書店はなぜ儲からないのか? 〜「リピーター不在」ビジネスからの脱却

書店は、色々と試行錯誤しているのに、
そもそも儲からないのはなぜなのか?

そんな質問を友人から投げかけられました。

非常に興味深いテーマです。

さまざまな理由が浮かぶと思いますが、
私の答えは明確です。


商品にリピーターが存在しないから
です。


(注:この記事は書店、出版のビジネス構造を分析するために書いています。
「書店は儲かるからやっているのではない。出版社の人間がそんなこともわからんのか」みたいな見当違いな批判はご勘弁くださいませ)

■本には「同一商品複数購入」が存在しない

同じ品を複数購入した経験がない
商品ジャンルを思い浮かべてみてください。

食品は、同時複数購入、複数回購入は当たり前です。洗剤やスポンジなど、家事関連商品も毎回同じものを買い続けている人も少なくないと思います。

アパレルも、ユニクロでTシャツをまとめて2枚購入した、という経験は珍しくないでしょう。


一般的に「同じ品を複数購入した経験がない」ジャンルといえば、
家具、車、装飾品、家電などではないでしょうか。

いずれも高単価商品です。


1,000円程度の低価格帯で、一般的に「同じ品を複数購入した経験がない」ジャンルは、極めて少ないのです。

本、DVDくらいではないでしょうか?

(気に入った本やDVDをプレゼント用に再び買った、
という経験がある方はいるかもしれませんが、日常的な行為でありません)


さらに、本は極めてターゲットが狭い商品です。

台所用洗剤を買いにスーパーにいけば、多くてもせいぜい5種類の競合商品から選びます。

英語習得のために本を買いにいっても、「文法」「英単語」「読解」「ヒヤリング」「スピーキング」「旅行用」「ビジネス用」…とジャンルは膨大にあり、その中でも競合商品は山程あります。


低価格帯なのに、リピーターが存在しない。かつ、ターゲットが極狭。

こんな商品を取り扱っているビジネスが儲かるわけはありません。

amazonのような「在庫に制限がない」&「ロングテール」前提なところが勝つのは当然なのです。


本来、CDも同様なのですが、
「握手券」「ライブチケット応募券」として、同一商品複数購入の要素を持ち込んだのが、
いわゆる「AKB商法」です。
いいわるいはさておき、うまいですね。

■「リピーター的」な層が一定数いる本のジャンル

では、本も同一商品複数購入の要素を持たせられないか?

「AKB商法」的なやり方は無しではないですが、
今どき、止めておいたほうがいいと思います。


でも、そもそも、
「同一商品複数購入の要素」的なものは
既に本においても存在してはいる
のです。

純粋な同一商品複数購入ではありませんが、
「リピーター的」な層が一定数、存在するジャンルです。

漫画と雑誌です。

■書店は「リピーター的」な層を失った

『鬼滅の刃』を、1巻から買い続け、20巻も発売日に買った、
という人の多くは、最終巻まで買い続けるでしょう。

リピーター的です。
(19巻と20巻は別商品で別個に固定費が発生しているので、純粋なリピーターではありません)

漫画ほどではないですが、
スポーツ誌『Number』を毎号買い続けている、
という人は少なからずいるでしょう。

これも、リピーター的です。

こうした層が一定数いるのが、漫画と雑誌なのです。

小説や実用書などでは、ほぼありません。

村上春樹さんのように、「新刊が出たら欠かさず買う」という「リピーター的」なファンを多数抱えている作家もいることはいますが、極めてまれです。

「村上春樹さんのように」とサラッと書きましたが、
村上春樹さんは日本の出版の歴史において、極めて稀有な存在です。


かつて、出版が儲かるビジネスだった頃、
その売上の多くを稼いでいたのが漫画と雑誌だった
ことが、まさに上述の見解の証拠でもあります。

漫画をデジタルで購入する人が増え、
雑誌の売上減少が著しい近年、
書店は「リピーター的」な層を失った
と言えます。


繰り返します。

低価格帯なのに、リピーターがいない。かつ、ターゲットが極狭。

こんな商品を取り扱っているビジネスが儲かるわけがありません。

■書店経営なんて止めておこう

書店、出版のビジネス構造を分析するのは以上になります。

ここからは雑談です。


この記事を読んで
「書店やってみたいって思ってたけど、こんな旨味のないビジネス、やりたくないわー」
と思った方、とっても正しいです。

間違っても書店経営など止めておきましょう。


ちなみに、私は、この記事を書いたことで改めて
「やっぱり、いつか自分で本屋やってみたいなあ」
と強く思いました。


そうです。

そんなふうに、自ら過ちをおかすアホがやる仕事、
それが現代の書店経営というものなのです。

とりわけ、この激動の2020年代において、これから書店を立ち上げようなんて、アホの極みです。


なんてすばらしい!!

大いなるアホの出現こそが、出版の未来を作っていくはずです。


…と書きながら、
最後に、ちょっと小賢しい話を付け加えます。

始めのほうに
「気に入った本やDVDをプレゼント用に再び買った、
という経験がある方はいるかもしれませんが、日常的な行為でありません」
と書きました。

私はここに「同一商品複数購入の要素」のヒントがあると考えています。


これまでの慣習にとらわれなければ、
書店を儲かるビジネスに変える方法は、結構あるんじゃないかな、
とも思いますよ。

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