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みやまる・スポーツブックス・レビュー

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2019年8月の記事一覧

著者特有の「汗臭さ」と「スポーツ賛歌」が光る名著:本城雅人『騎手の誇り』

著者特有の「汗臭さ」と「スポーツ賛歌」が光る名著:本城雅人『騎手の誇り』



本城雅人といえば、野球(『ノーバディノウズ』など)やサッカー(『誉れ高き勇敢なブルーよ』など)など様々な競技で名作を書いてきた、赤瀬川隼や海老沢泰久らと並ぶスポーツライティング界を牽引する名手として言って差し支えないだろう。そして著者特有のハードボイルチックの「汗臭さ」が味わい深い。なので、競馬という、お金が直接関わってくる、ギャンブルという、より男っぽい競技の小説なら絶対面白いはずだと思って

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知られざる「ミケランジェロ」の真実:団野村『伊良部秀輝』

知られざる「ミケランジェロ」の真実:団野村『伊良部秀輝』

(初出:旧ブログ2019/8/19)

伊良部秀輝はどうしても野茂英雄と比べられ、野茂が「陽」だったのに対し、伊良部は「陰」というか「ヒール」役だった。ヤンキース移籍時のゴタゴタやツバ吐きなどのイメージが強く、「イラブよりノモ」という世間の流れは幼稚園児だった自分でもなんとなく覚えている。

帰国後も飲食店でのトラブルもあり(実際は伊良部は不起訴かつ被害者なのだが)、2011年の夏に自殺した際

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勝利至上主義からの解放されたサッカー天国・手原和憲『夕空のクライフイズム』

勝利至上主義からの解放されたサッカー天国・手原和憲『夕空のクライフイズム』



(初出:旧ブログ2019-02-12)

 良いタイトルだな~と思って手に取った。クライフと言えばオランダ、オランダと言えばオレンジ、夕焼け色。そして高校サッカーといえば練習は夕暮れ時である。自分も通っていた大学の隣にあった付属高校が高校サッカーの名門校だったので、よく明子姉ちゃんよろしく(野球マンガじゃねーか)、ビブス姿で一喜一憂するイレブンを見守っていた。

 本作の舞台は木登(きと)学園

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ネズミであり妖精であり星人であり龍(?)であり:木村元彦「誇り-ドラガン・ストイコビッチの軌跡-」

ネズミであり妖精であり星人であり龍(?)であり:木村元彦「誇り-ドラガン・ストイコビッチの軌跡-」



 昨年のW杯前ちょっと残念というか、やりきれない思いになったことがある。某サッカーサイトで「もし今、旧ユーゴ代表があったらどんなメンバー」かという企画があった。モドリッチをはじめそうそうたるメンバーが並んでいた。クロアチア代表だけであれだけ強いのだから、優勝できるかもしれない。しかし監督を見て心躍る妄想から、がくっと現実に引き戻されてしまった。「監督:ダヴィド・ハリルホジッチ」。確かにボスニア

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熱く、真っ直ぐな野球賛歌/平野陽明「ライオンズ、1958。」

熱く、真っ直ぐな野球賛歌/平野陽明「ライオンズ、1958。」



(初出:旧ブログ2019/01/17)

 我々埼玉西武ファンは福岡ライオンズに対して複雑な感情を持っている。近年まで野武士軍団の栄光も、黒い霧の暗部も全てひっくるめて蓋をしてきたことに対する引っかかっりと、福岡から埼玉に居を移してくれたからこそ、我々の元に若獅子たちがやってきてくれたという、「仇花」的な思いを感じている。特にここ最近ソフトバンクが埼玉西武をボコボコにしているのを見ると、「ご先

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ファームチーム、かく戦えり。/田口壮『プロ野球・二軍の謎』

ファームチーム、かく戦えり。/田口壮『プロ野球・二軍の謎』



(初出:旧ブログ2018/10/11)

 タイトルを読んで、「あ、これ面白そう」と思って買った本。著者はイチローと名コンビを組んだあの田口。章立てはこんな感じ。

はじめに
第一章:プロ野球の二軍はなにをしているのか
→リーグ構成、支配下枠などの基本データの紹介
第二章:日本の二軍とアメリカのマイナー
→日米でどこが違うかを野球文化含めた様々な視点で比較
第三章:二軍の試合が100倍楽しくな

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虚と実の狭間で戦うレスラーたちのサウダージ――樋口毅宏『太陽がいっぱい』

虚と実の狭間で戦うレスラーたちのサウダージ――樋口毅宏『太陽がいっぱい』



(初出:旧ブログ2017/10/15)

 プロレスというジャンルが有史以来対峙し続けているテーマがある。アングル(抗争などの筋書き)、ブック(試合進行の台本)の存在だ。確かにアメリカの大手プロレス団体WWEがブックの存在を認めたことはある。だがあれほどの肉体のショーが全て事前に打ち合わせた通りに運んでいるかといえぱ、違うだろう。レスラーの背中に他の競技のアスリートとは異なるサウダージを感じる

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ザ・サッカー

ザ・サッカー



(初出:旧ブログ2017/02/24)

 『屋上野球』という雑誌の創刊号で「野球を失った野球小説」という特集が組まれている。野球によって物語が進行していく”野球小説”に対して物語が野球という主題を見失い、いつの間にか野球以外のことについて語る小説も"野球小説"ではないか?というテーマの特集だ。例を挙げると『優雅で感傷的な日本野球』(高橋源一郎のインタビューも掲載されている)、『神様のいない日

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女騎手

女騎手



(初出:旧ブログ2017/01/15)

 騎手以外にも、馬主・調教師・厩務員といった選手以外の人々が競技を成り立たせているのは他のスポーツと同じだが、競馬はその中心に人智の及ばない動物がいることである。そして馬が中心にいることで「女騎手」は事件を複雑化させている競馬ミステリーである。

 女性ジョッキー、紺野夏海が優勝したレースで幼なじみの騎手岸本陽介が落馬し、調教師である、その父・圭司が重

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プロ野球大事典

プロ野球大事典



(初出:旧ブログ2016/11/15)

 10年近く前に読んだ本を再読。 591ページあるので読むのは楽じゃないけど、人に話したくなる小ネタがいっぱい。正確なルールやプロ野球史を紹介する真面目な辞書ではく、球界の名言・珍言・伝説・逸話・噂話・都市伝説を「あ」から辞書形式で紹介している一冊。なかには「ホンマでっか?」というような話も少なくないし、ちょっと著者の好み(長嶋茂雄を褒めすぎ?)や思想

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教養としてのプロレス

教養としてのプロレス



(初出:旧ブログ2016/11/05)

 プロレスに関してはほとんど門外漢で、自分とプロレスとの関わりといえば久米川でアントニオ猪木を見たこと(選挙応援)がある程度だが、不思議と仲のいい友達や尊敬する作家にプロレス好きが多い。プロレスの知識や歴史や観戦術を教えてくれる本かと思ったらちょっと違った。タイトルを自分の感想に即して言い換えるなら、『哲学・現代思想としてのプロレス的思考』という感じか

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逆境を笑え 野球小僧の壁に立ち向かう方法

逆境を笑え 野球小僧の壁に立ち向かう方法



(初出:旧ブログ2016/10/26)

 著者の名前を見て、「イチローのことがたくさん書いてあるんだろうな」と思った人は多いはず。川﨑の本なのに。本当にイチローのことが目一杯書かれているんだけどね。目次だけで『感動したイチローさんの一言』『イチローさんがいなくなった』『イチローとの出会い』『イチローが俺に火をつけた』とイチロー尽くし。最終章にあたる第7章の題は『WBCとイチローの衝撃』。もは

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監督

監督



(初出:旧ブログ2016/02/16 )
 『監督』がフィクションなのかノンフィクションなのか問われれば一応フィクションということになる。こんな一文が冒頭に入るけど。

 この物語はの登場人物および組織は全て架空であり、現存するいかなる実在人物および実在組織に似ていようとも、それはまったくの偶然である。
 この物語をもう一人の広岡達朗に捧ぐ――――

 『イチロー対古畑任三郎』ではないが、主役

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ベースボール労働移民 ---メジャーリーグから「野球不毛の地」まで

ベースボール労働移民 ---メジャーリーグから「野球不毛の地」まで



(初出:旧ブログ2016/02/04)

 帯に「WBCの見方も変わる!」と書いてあって、軽く読めるかな~と思って買ったら想像とちょっと違った。大学の授業で副読本として使う本って感じかな。ついついアスリート・スポーツ選手というカテゴリに押し込めがちだが、プロ野球選手がプロと名乗る以上労働者なのだ。野球という職を求めて世界を流浪する姿を、果てはイスラエルやジンバブエまで追う。

 1年で終わった

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