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詩『向日葵の晩餐会』


side A:『召し上がれ』

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ひかりをたくさん呑みこむ向日葵は、太陽に手招きされていた。追いかけて、追いかけて、黄色いはなびらが回転する。陽射しを嚥下えんかしていった喉が熱い。どく、どく、揺れる夏の鼓動。静脈と動脈が描く地図、羅針盤、磁石に導かれて。向日葵畑に浮き沈みする麦わら帽子。ひろい海を航行する船のようだ。あたたかい温度を着地点に注射する。きいろいつぼみよ、両手を広げて、背伸びせよ。梅雨明け宣言。楽園を耕しにゆこうよ。廃墟であった日々を地下に埋めながら、肥料にして、陽気な季節が地上を取り囲みはじめる。魂の穴に太陽を詰めこんでゆけ。ひらいてゆくはなびらは、みずのかなしみを振り払おうとしている。梅雨のなごりの朝露を弾いて御覧。柔い肌が、瞼が、灼けそうだ。夏空を溶かした炭酸水をとくとく注ぐ。嗚呼、わたしのなかに浸水する。散り散りになったバスの路線図をかき集めて、皺を伸ばして、修復しながらバスの発車を待っている。 

side B:『いただきます』

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*空砲*季節の文頭が急かされている*早く、早く、発声して*早く、早く、投影して*鳥よ*若草色の伝言を届けて頂戴*雨上がりに視界が拓けてゆくように*じわじわ汗ばんでくるブラウス*腕のしたに湖が湧く*穴が開きそうなボートを漕ぎ出そう*孔を確認するように*湖にボートを浮かべる*つめたさの残る指先*暑い気温に溶けそうだ*かなしみとたのしみで編んだ麦わら帽子が*風にそよいでいる*るらら*あなたにリクエストしたスピッ⚫のうた*流れてゆく歌声をなぞる*迷子の野犬みたいな目をしたあなたを*放っておくことができずに拾った*亡くなった母犬の母乳を飲むように*ミルクを啄んだ*見失われた鳥のセピア色の写真を*硝子の灰皿で燃やしてゆく*薄氷を踏むようなふたりの暮らしからは*どこからか水が漏れているかもしれない*鳥の剥製で蓋をして*硝子玉の義眼の輝きと翳り具合は*どこかあなたの眼の深さに似ている*いくら手を伸ばしても触れられないの*

side C:『ご馳走さまでした』

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時間がどんどん経過していって、わたし、の重力だけが置き去りにされている。自らをも脅かす毒を内包した球根が両足の行く手を阻んでいる。網のような地下の根を泳ぎ切れない。あなたは同じ空間にいても、違ったタイムラインを生きている。しずかな部屋に長針と短針が降り頻る。残響が球根に纏わりつく。砂漠のなみだを吸い上げた。長い間、忘れていた道程にちいさな向日葵がほころぶ。ひかりを蓄えた種よ、球根に負けるな。目にみえない闘いが地下で勃発している。芳しい香水のような匂いを放つはなびらのはばたき。飛んでゆけ、橙色の風船を破る銃声がまた聴こえた。実弾は入っていない。音のみのファンファーレ。うつくしい威嚇。煌めきがばさばさ、と飛び散る。バスの発車音が誕生日に鳴って、躰の輪郭のみが凝固して出発した。車窓から、あなた、にも、わたし、にも、向日葵の花びらが咲き乱れて、さようならを告げていた。

*日本現代詩人会詩投稿第30期(2023年7月~9月)の入選に選ばれました!ありがとうございます!

photo:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、nanairoより)
photo2:unsplash
design:未来の味蕾
word&poem:未来の味蕾


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