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SF、読書のよろこびマガジン

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大人になってからSFの楽しみを知った人の記録。本が好き、ゲーム興味ないかたはここで。
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2020年11月の記事一覧

【読書日記】古本屋で買った「一号線を北上せよ」に、急に出てくるドナルド・トランプ

【読書日記】古本屋で買った「一号線を北上せよ」に、急に出てくるドナルド・トランプ

「一号線を北上せよ」

ベトナムでフォーを食べたくなって、食堂でとなりのおじさんが食べている肉入りフォーを指さす。店員やおじさんが笑顔で、これがうまいぞ、とすすめてくれて、数少ない知っている言葉で感謝を伝える。

それぐらいの、なんでもない食や出会いがていねいに書かれている。いっぽ踏み出せば、自分にもこれぐらいの出来事はあるんじゃないか、と思えるくらいの出来事が落ち着いた文章で記されている。

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【読書記録】「雨に呼ぶ声」ノーベル文学賞候補・余華の初長編。バラエティ番組の「落とし穴ドッキリ」を連想する。

【読書記録】「雨に呼ぶ声」ノーベル文学賞候補・余華の初長編。バラエティ番組の「落とし穴ドッキリ」を連想する。

!ストーリー重視の作品ではありませんが、内容にふれます!

天災は「菩薩を大事にしないからだ」と迷信で先導する祖父。
封建的で女と子供に厳しい父。
自分だけだと思っていた自慰。好きな子へのイタズラ。思春期の悩みを抱えた主人公。

中国の古い農村の、主人公、父、祖父。
三世代にわたる、老人、おじさん、子供。
それぞれの世代の「どうしようもない男たち」をどうしようもなく繰り返し描く。
特につらい!ひど

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アメリカ初の女性副大統領のスピーチで、ハヤカワSF「宇宙へ」(そらへ)を思い出す

アメリカ初の女性副大統領のスピーチで、ハヤカワSF「宇宙へ」(そらへ)を思い出す

アメリカ初の女性副大統領が「私が最後ではありません」とスピーチして、ハヤカワSFの「宇宙へ」(そらへ)の感想を書いていなかったことを思い出したのだった。話の内容にふれます。

60年代のアメリカに巨大隕石が落下。
このままでは地球環境が激変し、人間が住めない星になる。アメリカとソ連で争っている場合じゃない。地球を脱出することが求められ、宇宙開発にもっと本気で取り組むことが必要になった。。。と、宇宙

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90をこえて、桐野夏生の残酷な小説を読んだばあちゃん、その葬儀

90をこえて、桐野夏生の残酷な小説を読んだばあちゃん、その葬儀

花村萬月の小説には、老眼になって「たかが読書がおっくうになるんだよ」と若い主人公にぐちる男が出てくる。

浅田次郎のエッセイには、麻雀パイを見間違えてチョンボして、眼科で老眼を宣告されて落ち込む作者の姿がある。

渡辺謙が、日本の文字は小さすぎて見えなあああああい!とハズキルーペのCMで怒っていたのは、単に文字が小さいだけじゃなくて、まだ人生は長いのに、世間が自分を無視している感じ、これから一生、

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「卵をめぐる祖父の戦争」

「卵をめぐる祖父の戦争」

この本に書かれた場所も時代も、はっきりとはわからないけど、この心は知っている。
憎い男が、好きな女が、目の前にいるのに何もできない。
すぐ手の届くところにいるのに、動けない。

「卵をめぐる祖父の戦争」戦争でたべるものが無かった時代の、おじいちゃんの昔語り。それも、本当に卵をもとめる戦争だった。「たたかい」でも「あらそい」でもなく、これがひとりの少年から見た戦争のすべてだった。

主人公レフは、あ

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