『鳩の撃退法』 佐藤正午 作 #読書 #感想
上巻と下巻の2冊についてまとめて書く。映画は藤原竜也さん主演。
上巻あらすじ(Amazonより)
かつての売れっ子作家・津田伸一は、無店舗型性風俗店「女優倶楽部」の送迎ドライバーとして地方都市で暮らしている。街で古書店を営んでいた老人の訃報が届き、形見の鞄を受け取ったところ、中には数冊の絵本と古本のピーターパン、それに三千万円を超える現金が詰め込まれていた。
「あんたが使ったのは偽の一万円札だったんだよ」
転がりこんだ大金に歓喜したのも束の間、思いもよらぬ事実が判明する。偽札の動向には、一年前に家族三人が失踪した事件をはじめ、街で起きる騒ぎに必ず関わっているという裏社会の“あのひと"も目を光らせていた。
下巻あらすじ
「このままじゃおれたちはやばい、ラストに相当やばい場面が待っているかもしれない。おれたちというのは、床屋のまえだとおれ、それにもちろん津田さんの三人組のことだ。だけど厳密にやばいのはあんただよ。わからないか。夜汽車に乗って旅立つ時だよ」
社長からいきなり退職金を手渡された津田伸一に、いよいよ決断の機会が訪れる――。忽然と姿を消した家族、郵便局員の失踪、裏の世界の蠢き、疑惑つきの大金……、たった一日の邂逅が多くのひとの人生を、狂わせてゆく。
映画化が決まったからこの作品を手に取ってみた、という人は少なくないと思う。実際に私もその1人だ。映画は見ようと思っていないが。
さまざまな人の感想が書かれているサイトを見ても分かるように、まぁまぁ面白いのだがとにかく読みづらい。1つの文が長い。周りくどい。話が過去に行ったり現在に戻ったりする。作家である津田の無駄話が多く、いくつか文章をすっ飛ばしたところで話を見失うということもない。
出会った二人とピーターパン。ドーナツショップと偽札(=鳩)。一家の失踪。不倫。本通り裏のあのひとの恐ろしさ。
色々なエピソードが混ぜ込まれていて、徐々にパズルのピースが増えていく感じはあるのだが、本当に下巻の最後の最後にならないと謎は解き明かされない。
何なら後半は「全て本当の話なのか」も分からない。
津田という小説家の脳内創作なのかもしれない。(実際、そういう部分も混ざっている。そういう記述もある。)どこまでが実際に起きたことで、どこまでが虚構の世界なのか。線引きがよく分からなくなる。
映画と違って 小説では鳥飼という編集者(映画では土屋太鳳さん)はあまり出て来ず、そこまで重要な人物でもない。他にも映画と小説で違う部分はあるのかもしれないが、小説より映画の方がだいぶ見やすいんじゃないんだろうか?
登場人物が映像で表されている分、今何が起きているのか分かりやすいと思う。まどろっこしい語り手がいたとしても、映像があるのとないのとでは大きな違いだろう。
上巻151ページより
私たちが生きていくあいだに、私たちの上にきみょうなできごとがおこり、しかも、しばらくは、そのおこったことさえ気づかないことがあります。
下巻432ページより
なにをどの順番で書いていけばいいのか。
書かずにすませられることはなにで、ぜひとも書かなければならないのはなにか。
だがそもそも、ぜひとも書かなければならないことなどあるのか?
この津田という作家は、全ての事件に関わっている。というか全ての事件に関わってしまっている、というか事件を起こしてしまっている。
「元を辿れば結局自分が悪かったのでは?」というたまにあるやつである。
下巻最終ページより
この瞬間、重要な出来事が起きている。ピーターパンが行方をくらまそうとしている。だがそのことを僕は知らない。そのせいでいつか本通り裏と関わりを持つ日が来ることも、倉田健次郎の名前に怯える日が来ることも、社長と床屋のまえだの世話で上京し加奈子先輩と出会うことも、バーテンとして働きながらこれをMacbookで書いていることも。これが彼らの物語であり、同時に僕の物語であることも。
そしてこの瞬間、三羽の鳩は間違いなく飛び立ってしまっているのだ。
津田という回りくどい男のせいで。
津田というデリヘルドライバーをやりバーテンダーをやり小説家をやる男のせいで。