神様の悪送球 1
西加奈子さん作の「さくら」という本をやっと読み終えた。
綺麗事だけでは語れない、家族と恋愛の形が描かれている。
感想を書くのがすごく難しい話だと言っても過言ではない。
ネタバレが含まれているので、注意して読んでいただきたい。
この本はすでに映画化が豪華キャストで決まっている。
原作を読んだ後この映画予告を見ると、本当に大事なシーンがぎゅっと詰められている感じがする。
人気者の兄 一(はじめ)はかっこよさと少しの暗さを併せ持つ吉沢亮にぴったりな感じがしたし、
少し流されやすいけれど物事に丁寧に向き合って思考している主人公 僕(薫)は、北村匠海にぴったりだと思う。
妹のミキ(小松菜奈)と犬のサクラは、重要な登場人物だ。
本は薫目線で描かれているけれど、本当に大事なのはこの家族の中における兄、一に対するミキの思いととサクラの存在だ。
結論から言えば(予告を見ればわかる話だが)兄は死ぬ。兄が死んで家族はバラバラになる。それでもサクラが救ってくれる。
ミキは兄が好きである。本当に歪んだ愛を抱えている。
小さい頃からずっと。兄の恋人からの手紙を勝手に盗み、兄の目につかないように隠してしまうくらいには。
この本は何度でも読み返せる。登場人物1人1人の気持ちになりながら何度でも読めると思う。
クスッと笑ってしまうシーンがある。でもどこかで悲しい。本当に悲しいのだ。
綺麗事では表せないリアルがここには描かれている。
ここからはこれからこの本を読もうと思っている人には読むことを本当にオススメしない。
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神様の悪送球
兄の愛は偉大であった。どんな悪送球だって受け止めていてくれたのは兄という存在だった。
"あなたの愛は、僕を世界の高みに連れて行ってくれる。"(377ページ、引用)
最後にはこんな言葉が書かれていた。
神様は悪送球をしかけてくる、と思っていた家族だった。兄は交通事故で足の感覚と顔の表情の半分を失う。輝いていたかっこいい兄に向けられるのは、好奇の目になった。
兄はやがて死を選んだ。もう生きたくない、と。
でも最後に家族はサクラのおかげで気づくことができる。神様が悪送球を投げていたわけではなくて、ボールを投げていたのは僕らだったと気づくのだ。
毎日毎日、泣いたり、笑ったり、怒ったり、恋をしたり、恋を失ってまた泣いたり、その度に、神様って奴に、これは何なんだ、どうゆうことだって、ボールを投げ続けてきたんだ。どうしてくれるんだ、何でこんなにひどいんだ!
でも奴は、その度に、僕らのボールを受け止めた。
どんな超スピードだって、悪送球だって、悔しいけれど全部、ばっちり受け止めた。
そして、こう言ったんだ。
「おいおい、全部、同じボールだよ!」
ああ僕らには、変わらない日常があった。
「恥ずかしいけれど、それが愛だよ。」
365~366ページにかけて書かれているここの部分が大好きだ。
その日は大晦日。具合が悪いサクラを助けるために家族で車に乗り、病院を探し求める中で、家族みんなが泣いている。泣きながらスピード違反で警察にも追われている。
そんな中で届いてくるこの叫びが、どうしようもなくこの本を読んで良かった、と そう私に思わせてくれた。
このセリフにはなぜこんなに読点が多いのか、読んでみればすぐに分かるはずだ。
この本には色々な愛の形が詰まっている。人と人とが作り出す本当に様々な恋と愛が描かれている。
だからこそ、今日は ほぼほぼ引用で終わってしまったこの感想文にも、まだ続きがある。
心のど真ん中に突き刺さるようなこの本を、誰かにも読んでほしいから。