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人生が100秒だったら: 13秒目

銀の星


6歳の誕生日に父から1冊のノートをもらった。
「お前はお話をつくるのが好きだから、お話をつくる人になるといい。ここにお話を書きなさい。」そして父は「お話をつくる人」は小説家というのだと教えてくれた。

子供用には見えない深い緑色の装丁に鼻を近づけると、その頃夢中だったアラビアンナイトやトム・ソーヤーなんかの匂いがした。

 ただし、私のノートの1ページ目はまっ白。真ん中を開いてもまっ白。どこを開いてもまっ白。

 うむ。

 私はそのノートに「銀の星」という名前をつけた。我ながらいかしたスタートだ。

 背筋を伸ばして椅子に腰かけ、綺麗に削った鉛筆を並べ、気持を集中させ大きくひと息。ノートの1ページ目を静かにめくれば、握った鉛筆の先をつたって、物語は私の中からサラサラサラ。よどむところなく、ツラツラツラと白いノートに流れ出てくる。

はずだった。

 目を閉じて、思い浮かべた。私の本「銀の星」のまっ白なページに雄大な物語がツルツルと蔦が絡まるようにどこまでも広がっていく、その様を。

 ふう。

もう40年以上、あのノートはみつかっていない。
父が亡くなってもうすぐ1年になる。
ノートの中のお話は今どのあたりだろうか。
私の星は今どの銀河系にいるのだろうか。

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