最近の記事

フィリアス・メネルグロス(元冒険者/魔術師、エルフ)の話

 あれはそう、150年ほども前のことだったかな。  南の方の海に浮かぶ島の、シアルーパという小さな国の王女が、遠い国に嫁入りをするというので、彼女を護衛する仕事を受けたんだよ。  ああ、そうだよ、テン、かわいいお嬢さん。お姫様さ。オリビアという名前の、それはそれは美しいひとだった。  小さな太陽のように明るい人だったよ。日に焼けた肌に、黒絹のようになめらかな髪とマリンブルーの瞳がよく似合っていたものだ。  その国は海運で栄えていてね。国と国を結んで、果物や香辛料、染料なんか

    • スローリア・キビルザラム(冒険者/元傭兵、ドワーフ)の話

       そう。前はね、北の方で傭兵やってたんだけどさ。  夏の間は、つってもほんの短いんだけど、中央で一旗揚げ損ねた間抜けがね、流れて来て厄介ごと起こしたりしてね。  まあ、人間なんかは寒さに弱いし、冬になるとどこぞに消えて無くなるんだけどね、今度はゴブリンだのオークだのが山から出てきて悪さするのよ。  そういうのをぶん殴って黙らせるお仕事してたわけ。  それが、あの年は珍しく熊が出たのよ。冬の遅くにね。  知ってる? クロツメグマ。  爪がこんな長くて、武器とか装飾に使われるんだ

      • 変愚蛮怒 最初のクエストに行く

        前回あなたはアンバライトのレンジャー(あるいはそれ以外)として辺境の地に誕生した。 もしまだキャラクターを作っていないなら、先にこちらを読んでみて欲しい。 移動するこれが変愚蛮怒の基本の画面だ。 あなたは今すぐモンスターを殺したいと思っているだろうが、その前にすこし操作の説明をしたいと思う。 変愚蛮怒は古いタイプのゲームなので、初心者であるあなたには優しくない。 しょうがないからあなたの方で歩み寄るしかない。 そういうゲームなのだ。 画面中央にある最先端の美麗なグラフィ

        • 変愚蛮怒 最初のキャラクターをつくる

          変愚蛮怒をインストールするとくに難しいことはない。 まずは下記のサイトからダウンロードだ。 Zipを解凍して、.exeをダブルクリックすれば遊べるようになっている。 この先一生付き合っていくアイコンだ。良く覚えよう。 Wikiもある。 変愚蛮怒の情報は大体ここに集まってるので、ひと通り見ておいて損はない。 起動する起動するとこのような画面になる。 あなたは最初の起動なので新規を選ぶ。 マウスは使えないひとつ重要なことを言っておく。 このゲームはすべての操作をキーボー

        フィリアス・メネルグロス(元冒険者/魔術師、エルフ)の話

        • スローリア・キビルザラム(冒険者/元傭兵、ドワーフ)の話

        • 変愚蛮怒 最初のクエストに行く

        • 変愚蛮怒 最初のキャラクターをつくる

          お題箱:きんのたま

           岩石食性の竜の一種に、ゴールドドラゴンというのがいる。  ドラゴンとは言うもの、羽もないし足もない。ワームの一種と言われたほうがまだ信じられるだろう。  骨格の名残だとか魔力組成だとかが竜種に近く、おそらく大昔に地面の下で生きると決めた変わった竜の子孫なんだろうということだ。  うろこは無く、全身がまばらな細長い毛に覆われていて、それによって微弱な魔力を感知でき、周囲の岩石から好みのものを探し出すらしい。  好みのもの、つまり金属だ。  特に金を好み、彼らが見つかるのは、当

          お題箱:きんのたま

          お題箱:5000兆回生きたねこ

           ねこシミュレーターの中のねこが5000兆回めの生を受けた。  一部のスパコンとグリッド・コンピューティングによって膨大なリソースが費やされ、ねこのシミュレーションを繰り返してきたねこシミュレーターも、計画の大半を終えようとしているらしい。  この5000兆回めの生を受けたねこは、偶然なのか開発者の意図なのか、一回めに生まれたねこと全く同じ柄のトラ白で、オスで、緑の目で、鼻はピンク色をしていた。  今回、彼の生まれた場所は古い住宅地の空き家の縁の下の中で、他にも4匹の兄弟が居

          お題箱:5000兆回生きたねこ

          お題箱:化石

           この惑星は、平均的な入植可能惑星に比べ、直径は多少大きく、自転は多少早く、公転周期は多少長い。  ひと季節が地球標準の3倍から4倍あるのだ。  とは言え、その「季節」もテラフォーミングの恩恵によるもので、人類が入植する前のこの星は、まさに氷河期の世界だったのだが。  しかし、この惑星はもともと温暖な気候だったようだ。  比較的新しい超大規模な噴火の痕跡が観測されており、氷河期への突入はそれが原因だったとされている。  山は氷に閉ざされ、野は雪に覆われ、海は凍り付き、ほとんど

          お題箱:化石

          お題箱:うんこ

           恒星間航行中にリサイクラーが壊れたというのは、最悪の事態のうちのひとつだ。  航宙士の資格を取って20年、こんなにも追い詰められたことはかつて無い。  機関士が一応直そうとは試みたが、あれはもうだめだ。外板がひしゃげて中の制御結晶体が粉々になっていた。  しかし、幸運なことに、2週間後には近くに居た工業船とランデブーできる。  この広い宇宙というものに確率を掛け合わせて考えれば、このような出会いは奇跡に近い。  今だけは神様を信じてもいい。スパナとレンチに乾杯だ。  リサイ

          お題箱:うんこ

          その3

           宿の食堂の窓からは、この町の中心を通る街道が見える。  朝食が終わって時間が経って、正午にはまだ早く食堂に他の客の姿はない。昨日この宿に泊まった旅人はすでに出て行き、今日この宿に泊まる旅人もまだ街道の上だろう。亭主はカウンターの中で、とろんとした眼の娘と共に料理の仕込みをしている。  リドゥは穏やかに宿の食堂の窓辺に座って、五〇〇年ぶりの町の気配を感じながら、商都レアエイムから仕入れているという南方群島産の茶葉を楽しんでいた。  窓から見えるのは遅い出立の旅人の姿だ。人間だ

          データの鳥

           昔、オンラインゲームの中で鳥を飼っていた。  僕の膝より上に頭が来るくらいの大きさの、ニワトリやアヒルのように飛べない鳥だった。  戦闘に連れていくこともできたし、交配したり、着飾らせたり、なんなら食べることもできた。  そういうシステムのチュートリアルのためにもらうデータで、プレイヤーのほとんどが持っていた鳥だった。  最初に彼をもらった頃の僕にとっては戦力としても上等で、物珍しさもあって、毎日世話をしていた。  僕は当時も変わらず、ある種の醒めたプレイヤーで、あまり装

          データの鳥

          企業クローン

           今の世の中、高い値がつくのは生きる権利であって命じゃない。  ぼくらは良い権利を持っていないので安く使われているわけだ。単純な話、高純度の金属は高いから、マシンガン・ドローンにかかるコストだってぼくらよりは高いのだろう。つまり食品加工の発展で生まれたぼくらクローン体が一番安い。そのせいで、ぼくらはチキンレッグと呼ばれている。  ぼくは何年か前にキグナス腕の外れで生まれ、その数時間後にラックマウントベッドで目覚めたときにはもう、ぼくはぼくが何者か知っていた。  ぼくは生まれる

          企業クローン

          変身

           それは、何とかいう宝石商の別荘にタタキに入って、ヤサに戻る途中のことだった。  最近こっちに愛人ができたとかで、サルみたいに顔を真っ赤にしてキバってるとこに押し込んだんだ。  アニキの仕入れてきた情報通り、現ナマが山ほどと、宝石もちょっとあった。詳しくは聞いてないが、どうせ脱税とか闇取引とかだったんだろう。アニキは機嫌よく笑ってて、俺も二人の手下もバカみたいに浮かれてた。  当然、夜中のことだったから、郊外の別荘地から街中に戻る道は俺たちのバンしか走ってなかった。なのに、突

          魔法少女

          「くそっ、やつだ! 魔法少女だ!」  薬の詰まったケースを片手にアニキが叫ぶ。俺がこの街に来て1年半になるが、あれの実物を見るのは初めてだ。  倉庫街の屋根の上に月を背にしてなお輝くように浮かぶ魔法少女は、片手に持ったおもちゃのような杖をこちらに突き付けて、少女らしい、夢と含蓄のある説教だか口上だかを垂れている。  やれ五階建てのビルを持ち上げただの、やれ軍艦二隻を沈めただのと噂ばかりが先行して、実態はまったくもって明らかにされていない存在。  急いで物陰に隠れた手下どもが

          魔法少女

          犬、星

           流れ星を拾いに出た夫が、犬と連れ立って帰ってきた。  夫の言うには、帰り道にその犬が腹を空かせていたので、集めた流れ星をいくらか与えたのだという。  それはほんとうに変な犬で、ぐるぐると唸るようなことはないし、肉のきれはしを欲しがることもしない。  ただただ褪めたような目と毛をして私たちのことをうかがっているのだ。  日中は律儀な動きで夫の横について、日々の仕事を手伝っているつもりでいるようだ。  あるいは、洗ったシャツを干す私の後ろにきっちりと座っていて、風で飛ばないよう

          犬、星

          ルーパの海

           そこはルーパと呼ばれる星だ。ルーパと言うのは現地の言葉を地球人類がなんとか発音できるようにしたもので、はるか昔の偉大な王の名前なのだという。陸地は惑星の総面積の二十パーセントに満たず、海棲生物から進化したと考えられている現地人たちは、主に捕獲したTACボートを輸出して生活していた。  もちろん、太古の昔からそうだったわけではない。そもそもTACボート、Tactical Boatというのは五百年かそこら前に射手座腕のどこかで発見された機械知性体の一種で、その丈夫な外郭と気密性

          ルーパの海

          恐怖と憤怒の発作

           この辺境では全てが貧しい。粗末な板葺きの小屋を寄せ集めたような村の中で、人々は全てのものを胡乱げな目で見ている。彼は別の村からやってきたよそ者で、流れの傭兵を自称する男だったからまさに胡乱そのもので、一部の商店主の他は極力彼に関わらないようにしていた。  そんな中、一人の男と、男の操る巨大な何かが村に現れた。男の方は岩を削りだしたかと思うような魁偉な風貌で、身の丈は十フィートに達しようかという巨躯であった。彼の乗騎は嘴と翼、羽毛を持っていたが、明らかに鳥ではないことは誰の

          恐怖と憤怒の発作