お題箱:きんのたま

 岩石食性の竜の一種に、ゴールドドラゴンというのがいる。
 ドラゴンとは言うもの、羽もないし足もない。ワームの一種と言われたほうがまだ信じられるだろう。
 骨格の名残だとか魔力組成だとかが竜種に近く、おそらく大昔に地面の下で生きると決めた変わった竜の子孫なんだろうということだ。
 うろこは無く、全身がまばらな細長い毛に覆われていて、それによって微弱な魔力を感知でき、周囲の岩石から好みのものを探し出すらしい。
 好みのもの、つまり金属だ。
 特に金を好み、彼らが見つかるのは、当然というか必然というか、金鉱の近くが多いが、かなり深いところで生きているので、よっぽど大きな金鉱でもなければ発見されることも稀だ。
 しかし、金属を好むと言っても、彼らは金属をエネルギーとして消費するわけではない。
 骨や内蔵、あるいは表皮や歯に使用するのだ。
 そのため、彼らの体は様々な合金の宝庫として知られるが、金だけはおおよそ一つの目的のためだけに、一つの部位のためだけに使われる。
 我々で言うところの金の玉に。
 つまり、彼らは金を精巣の保護に使っているのだ。
 どうしてそうするようになったのかは今もって解明されておらず、あまり知られていないゴールドドラゴンの生態の中でも一番の謎とされている。
 私も、その金の玉を一度だけ見たことがあるが、大変に見事なものだった。
 繊細なひだが幾重にも重なって、世界で最も偉大な彫金師が仕上げた細工にも勝る紋様を描く。
 その、天然自然の生み出したとも思えないような、生物的でありながら幾何的に完成された美は、正に至高の芸術品であった。
 ところが、悲しいことに、彼らゴールドドラゴンはその素材としての価値の高さにより、人間に見つかればあっという間に殺されてしまう。
 私はゴールドドラゴンの金の玉を斯く有れかしとした神を怨まずにはいられない。
 また、私はゴールドドラゴンの金の玉に魅了されたうちの一人として、人間の欲深さを恥じずにはいられない。
 それと言うのも、究極とも言える美の結晶たるゴールドドラゴンの金の玉に、どんなことをしてでももう一度まみえたいと思う私の心を止めるすべを、私はどうやら持ち合わせていないようなのだ。
 遠方の金鉱でゴールドドラゴンが目撃され、討伐隊が組織されると聞いた私は、あらゆる手段を使ってそこに潜り込むことに決めた。
 恥よりも欲を選んだ私を、蔑むのならそうすれば良い。
 私の心は、かつてないほどに期待に膨らんでいる。
 もう一度、ひと目でいい、あの金の玉を見ることができるなら、私はなんでもするだろう。
 そう、何でもだ。

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