お題箱:化石

 この惑星は、平均的な入植可能惑星に比べ、直径は多少大きく、自転は多少早く、公転周期は多少長い。
 ひと季節が地球標準の3倍から4倍あるのだ。
 とは言え、その「季節」もテラフォーミングの恩恵によるもので、人類が入植する前のこの星は、まさに氷河期の世界だったのだが。
 しかし、この惑星はもともと温暖な気候だったようだ。
 比較的新しい超大規模な噴火の痕跡が観測されており、氷河期への突入はそれが原因だったとされている。
 山は氷に閉ざされ、野は雪に覆われ、海は凍り付き、ほとんどすべての生物が死んだのだ。

 人類による惑星の大手術が一段落し、雪と氷の下から植物(あるいは、それらのニッチを占めるもの)が芽吹いてきた頃、調査隊により巨大な化石が発見された。
 それは、氷河期前は海底だったという地層と共に露出していた。
 あまり正確でない探査によると、全長500メートルの生き物の化石で、形はワームとかヘビのようなもののようだった。
 長細い胴体に、足のようなものは無い。頭部は明らかに肉食性の特徴を持っている。
 おそらく、過去のどこかの時点でも、この惑星の海の食物連鎖の頂点に立っていたのだろう。
 発見された場所は入植地から少し離れており、調査隊は滞在のための拠点を作って発掘を始めた。
 この化石が一つの生き物のものだとすれば(そしてそれは確実なのだが)、人類が様々な惑星で発見してきた様々な生物やその痕跡の中でも、最大のものであることに間違いは無いだろう。
 小さめのサイズのものや、特徴は違うがやはり巨大なもの。いろいろな化石が出てきた。
 そんな調査が何年も続く中、テラフォーミングにより氷が溶け、海が広がり、彼らが暮らしていたであろうこの星の海も、当時の姿を取り戻しつつあった。
 そして、事は起きた。

 今、この星は、宇宙中から珍しい物好きの生物学者や地質学者や考古学者や海洋学者やなんやかんやが集まって、お祭り騒ぎだ。
 命知らずの観光客たちも、深海探査艇に乗ってホエールウォッチングもどきを楽しもうとやってくる。
 まあ、生きた化石なんて珍しい話でもないし、人が集まれば経済も回る。ウミヘビ様々というわけだ。

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