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Warby Parker(ワービーパーカー) IPO解説

【無料で全部読めます】これまでにAffirmLemonadenCinoPoshmarkCoinbaseCourseraMarqetaRobinhoodDuolingoのIPOの目論見書の分析をnoteで配信してきました。

IPO/グロース株の個別投資検討の際に、「会社が見せたくない部分」まで記載された目論見書を読む事は基本的な情報収集方法のひとつですが、英文300ページ以上にもなる目論見書を隈なく読むことが難しい方もいらっしゃるかと思います。こちらのシリーズは日米でのIPOの実務経験を持つ私が、皆さんに代わって目論見書を読み込み基礎的で重要な部分をまとめたもので、米国のスタートアップのトレンドを把握されたい日本のベンチャー/VCの方にもオススメです。また、このシリーズは創業者のバックグラウンドやビジネスモデルに重点を置いて分析していますので、タイムマシン経営を考えている起業家の方や、今旬の米国のスタートアップがどのようにして成長しているかを理解されたい方にも役に立つと思います。

(また有望なSPAC上場企業を見つけることを目的として、BAKKTGrabのSPAC上場の分析も公開しています。)

今回はメガネのD2CのWarby Parker(ワービーパーカー)のS-1(目論見書)を分析します。

今回有料設定ですが、無料公開部分で全て読めるようになっています。もし宜しければ300円サポートいただけると励みになります!

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今後も注目の米国IPO株やグロース株の解説を追加していきます。ツイッターの方では米国テック企業の投資に役立つテクノロジー関連の記事や考察もご覧になれますので、フォローいただけばと思います。また、分析して欲しいIPO株がありましたらお知らせください!可能な限りリクエストに応えていきたいと思います。

それでは会社概要から見ていきましょう。

会社概要

社名:Warby Parker Inc. 
創業者:Neil Blumenthal、Dave Gillboa
設立:2008年
本社:ニューヨーク(ニューヨーク州)
正社員:約1,746名(パートタイム従業員は1,013名)
業務内容:メガネのD2C

IPOの概要

上場日:2021年9月29日
ティッカー:WRBY
アドバイザー:ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、アレン&カンパニー
売出し株式数:7,774万株
売出し価格:$95-145
時価総額:$2.9bn

今回はダイレクトリスティングでのIPOで証券会社のアンダーライティングはなく、ファイナンシャルアドバイザーとしてゴールドマン、モルスタ、アレン&カンパニーが起用されています。

創業者:米国トップスクールのMBA生4人で起業

Neil Blumenthal

共同創業者でありCEOのNeil(ネイル)はボストンの名門大学であるタフツ大学で国際政治と歴史を学び、米国のトップスクールのウォートンでMBAを取得しました。彼はウォートンで経営学を学ぶ前に、VisionSpringという貧困層向けにメガネを作る会社で経験を積んでいました。

また、ネイルは来月上場する、サステイナブルなフットウェアを販売するAllbirdsのボードメンバーも勤めています。

Dave Gillboa

共同創業者で Co-CEOのDave(デイブ)はUCバークレーでバイオエンジニアを学び、ベイン&カンパニーでコンサルタントとしてキャリアをスタートし、今回の IPOのアドバイザーにもなっている投資銀行のアレン&カンパニーのバンカーに転職した後にウォートン(ペンシルベニア)でMBAを取得しています。

ウォートンの学生4人で起業
ネイルとデイブの他にウォートンの学生だった2人を合わせた4人で、ウォートンの起業プログラムを使って創業されたのがワービーパーカーの始まりです。

デイブが2008年に東南アジアへの旅行から帰り、ウォートンに通うために必要だった iPhoneとメガネを買った際に、疑問に思ったそうです。なぜ800年も前のテクノロジーが未だに使われているメガネの価格が、iPhoneの価格よりも高いのか?彼はクラスメイトだった他の3人と議論を交わし、何故オンラインでメガネが売られていないのか、という疑問とともにビジネスチャンスを見出しました。ただ、ネイル以外の3人はメガネのことは何も知らず、VisionSpringで経験のあったネイルから業界の基礎を学んだそうです。

4人の議論は、自分たちの欲しいメガネを自らデザインし、ブランドにして、中間販売者を介さずに直接消費者に届けてはどうか?というビジネスアイデアに発展し、自分たちのアパートでワービーパーカーを起業しました。会社の創業は2010年なので、2008年の構想から2年経ってビジネスがスタートされたということになります。

11年の軌跡:累計顧客数は約660万人

2010年に最初のオーダーが入り、翌年からサングラスを展開しました。創業から3年後の2013年に最初の店舗を出店し、2016年にオンライン販売のアプリをローンチしました。2018年にブルーライトフィルター機能のついてレンズを販売を開始し、2020年末に累計顧客数が約660万人に到達しています。

現在のトラクション:売上$487mm(前年比33%成長)

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11年経った今ワービーパーカーはグロスマージンで60%の利益を出し、年間$487mの売上(前年比33%成長)を上げるまでに成長しました。また、現在は全米に145の店舗を持ち、オンライン販売と店舗の両方でアイウェアを販売しています。

簡易財務分析

ワービーパーカーの粗利率は2018年が60%、2019年が60%、2020年は59%でした。60%前後の粗利益は製造業としては高い水準です

また、2020年のSG&Aが高くなっていますが、マーケティングコストをかけた影響だと思われます。また、営業利益はマイナスで、赤字になっています。

ワービーパーカーの基本ビジネス:D2Cモデル

ワービーパーカーが設立された2008年は、アパレル業界では店舗型販売が主流で、オンラインで販売をしていたブランドは多くありませんでした。しかし、オンライン販売を導入することによってコスト削減が出来ると考えた同社は早くからD2Cモデルを導入してきました。(同社のメガネの価格は$95〜と低価格)。

同社は今では145の店舗を持ち、オンラインと店舗販売の両方で顧客にとっての購入しやすさを届ける戦略をとっています。

メガネの販売がメイン
2020年の売上のうち、メガネの販売が95%、コンタクトの販売が2%、視力検査が1%を占めていて、ワービーパーカーはメガネの販売ほぼ一本でここまで成長してきたことがわかります

また、D2Cというとオンライン販売のイメージがつきますが、ワービーパーカーが定義するD2Cモデルは「中間業者を排除した販売」で、実際の販売はオンライン上と店舗の両方で行われています。ウェブ上、アプリ上、店舗のチャネルから顧客が好きなタッチポイントでメガネをシームレスに購入できるようになっていることがワービーパーカーの提供する価値のひとつです。

(オンライン販売と店舗販売の比率は後ほどご紹介します。)

米国のメガネ市場は$21bn

サングラスなどを含む、米国のアイウェアの市場は$35billion(約3.5兆円)と巨大市場です。そのうちメガネが$21bn(約2.1兆円)を占めています。また下記のような調査結果が出ていて、ワービーパーカーは今後もメガネ関連の市場は安定的に伸びていくと予想しています。

- メガネのユーザーは2年から2.5年で買い換える
- 2020年に米国の大人の76%が何らかの形で視力矯正をした
- PC、タブレット、スマートフォンの普及で人々がスクリーンを注視する時間が増えている(人々の目はより悪くなっている=買い替え需要)
- メガネのオンライン販売は全体の販売額の8%程度(伸びしろがある)

また、メガネ市場は以下の理由でイノベーション(いわゆるDX)が進んでいないと分析されています。

- 主要なメガネ屋が届けるカスターマーエクスペリエンスの質が低い(店舗に足を運び、鍵付きのショーケースを眺め、沢山の種類の中から自分に合ったメガネを探す必要がある)
- ライセンスを持った中間業者が入ることで価格が高騰する(健康保険はメガネのコストの一部のみカバーされる)
- 少ない数の大手プレイヤーが寡占状態を作り上げ、消費者に選択権を与えていない(全米にメガネの販売店舗は41,000以上あるが、少ない数の会社によって運営されていることに消費者は気づいていない)

ワービーパーカーが提供する価値

レガシーで硬直したメガネ業界で、ワービーパーカーは顧客に以下の価値を届けることで成長してきたようです。

- 良質なカスタマーエクスペリエンスを消費者に届けることで高いブランドロイヤリティを実現
- 中間業者を排除したD2Cモデルによる販売をいち早く導入し、ブランドのミッション、バリュー、スタイルを直接消費者に届けてきた
- D2Cモデルの導入によりデータ分析に基づいた意思決定
- テクノロジーの導入による連続したイノベーション(2016年:オンライン販売のアプリ、2017年:社内に研究所設立、遠隔医療アプリ、2018年:ブルーライトレンズ販売、2019年:バーチャル試着など)

販売チャネルの推移:直近は60%がオンライン販売

オンライン販売のチャネルはウェブ経由の販売若しくはモバイルアプリ経由となっています。2019年にはオンライン販売は35%でしたが、2020年のコロナウイルスの拡大の影響を受け、60%まで拡大しています。また、上の図には入っていませんが2021年の上半期のオンライン販売は50%となっていて、ロックダウンやソーシャルディスタンスの影響が強かった2020年に比べ、少し下がっています。

店舗数推移

コロナウイルスの感染拡大があった2020年に新たに10店舗をオープンしていました。同年に3つの店舗を閉鎖し、2021年は19店舗を新たにオープンしています。

テキサス州ダラスの店舗

(めちゃめちゃかっこいいですね!)

フロリダ州マイアミの店舗

(店内もスタイリッシュです。)

高いリテンションレート:4年間でほぼ100%再購入

ワービーパーカーのビジネスのポイントの一つは顧客がリピートしてメガネを買いにくるところです。新しく獲得した顧客が1年以内に再度購入する確率は22-25%となっていますが、より長い期間の2年間でみると約半分の顧客がリピートしていて、4年間でみると97-98%と約100%の確率で顧客が帰ってくるということになります

これはロングタームの成長性を考える上で重要であり、すごいことです。新規の顧客を毎年獲得していけば、それらの顧客は2年間で半分、4年間でほぼ100%顧客がリピートします。このリピート率はすでに驚異的な数字ですが、ワービーパーカーは新規の顧客獲得と全顧客が帰って来るまでに4年かかっているリピート期間を短くすることで更に成長を加速することができます。

CACとオーダーの価格

カスタマー獲得コスト(CAC)は2020年に1.5倍程度に上昇していますが、コロナ禍でより価格の高いコンタクト、視力検査などのプロダクトのメディアの露出を増やしたためです。

平均オーダー価格(AOV)も年々上昇しています。価格帯の高いレンズやブルーライトフィルター機能がついたレンズの導入で戦略的に平均オーダー価格を上げきました

一般的なリスクファクター

次にいつものようにリスクファクターを見ていきましょう。

ワービーパーカーは基本的には製造業であるため、調達素材の不足によるコストの上昇や配送費の上昇などが挙げられていました。今まで見てきたテック企業にはないリスクファクターです。

またメガネ業界の競争環境が熾烈であるため、競争力を失うことで今までの成長ができないリスクやコロナの影響が長引くリスクなど割と簡単に思い浮かぶものが多い印象です。

また、ワービーパーカーの製品を作る業者は数が限られていて、梱包の業者に至っては一社のみを使っているそうです。梱包を一社のみに頼っている状況は少しリスクが高いなと感じます。何らかの原因でこの梱包業者が使えなくなってしまうと、製品はできているが出荷できない状態になってしまい、他の業者を直ぐに探さなければいけない状態になってしまいます。

既存の投資家

Tiger Global、T. Rowe PriceなどのトップティアのPEファンドに加え、著名なVCであるGeneral CatalystやD1 Capital Partners、 Durable Capitalが5%以上の株式を保有しています。

ポイント(感想)

ワービーパーカーはレガシーなメガネ業界で、中間業者を排除し、低価格でスタイリッシュなメガネを質の高いカスタマーサービスで提供し、高い顧客リテンションを保ってきた企業と言えます。目論見書の中では米国のメガネ業界がどの程度成長するのかの記載が見当たりませんでしたが、米国のアイウェアの市場は$35billionと既に大きいというポイントに加え、業界が寡占状態になっているため、質の高い顧客サービスが提供されていないという現状に鑑みると、ワービーパーカーの成長余地はまだまだありそうです。よって長期的には、まだまだ成長する事業だと個人的には思います。

投資は個人の判断でお願いします。本分析は株式の購入を勧めるものではなく、ビジネスの分析を趣旨としています。


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