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Robinhood(ロビンフッド) IPO解説

これまでにAffirmLemonadenCinoPoshmarkCoinbaseCourseraMarqetaのIPOの目論見書の分析をnoteで配信してきました。また有望なSPAC上場企業を見つけることを目的として、BAKKTGrabのSPAC上場の分析もしています。

今回は2021年最も注目されているIPOのひとつであるRobinhood(ロビンフッド)のS-1(目論見書)を分析します。米国株クラのみなさんも入るか入らないかは別の話ですが、気になる銘柄ではないでしょうか。コロナ禍でユーザー数を伸ばし、色々な訴訟が起きているロビンフッドの今の状況をまとめる良いまとめになりました。ぜひコメントなどあればお願いします。

また、ちなみ今回のロビンフッドでIPO分析シリーズが10社目の分析となります。もしよろしければお祝いのメッセージやコメントお待ちしてます!! 

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それでは会社概要から見ていきましょう。

会社概要

社名:Robinhood Markets, Inc
創業者:Vladimir Tenev(CEO)、Baiju Bhatt(Chief Creative Officer)
設立:2013年
本社:メンロパーク(カリフォルニア州)
従業員:2,100名
業務内容:有価証券や仮想通貨のトレーディングアプリの提供

IPOの概要

上場日:未定
ティッカー:HOOD
主幹事証券:ゴールドマンサックス、JPモルガン
売出し価格:未定
時価総額:$40 billion(2021年2月時点)

価格レンジは発表されておらず、諸条件もまだ確定していない赤ペンの入ったS-1(Red Herring)となっています。諸条件はIPOの日が近づくにつれて発表されていくと思います。

みずほ証券がアンダーライター
主幹事とは別に株式を自社で売出すアンダーライターはバークレイズ、シティグループ、ウェルズファーゴと世界的な欧米の投資銀行が名を連ねる中、6番目に"Mizuho Securities USA"の名前が入っています。日系の証券会社が米国のピカピカIPO銘柄のアンダーライターになることは珍しいですが、本IPOも日系唯一みずほ証券が入りました。Mizuho Americaは2016年にRichard Gallivanというリーマンブラーザーズやバークレーズでテクノロジーセクターを担当していたシニアのバンカーを破格の給料で採用してから、今も次々と外資系の投資銀行から人を引き抜いて来ています。どのバンカーのコネクションかは不明ですが、全米で販売力のない日系の証券会社がアンダーライターに入れるケースは上場会社と証券会社が個人的な繋がりで案件をとってくるケースもあり、ロビンフッドほどのインパクトのある案件であれば、販売株数はスズメの涙程度であっても「ロビンフッドのアンダーライター担当した」ということが言えるようになるので、クレジットのみを取りにいくということはよくあります。みずほ証券にとっても本件はそのような案件だったんじゃないでしょうか。

創業者:スタンフォード出身の数学専攻の連続起業家(移民二世)が起業

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Vladimir(ブラッドミラー)
右側がCEO兼共同創業者のVladimir(ブラッドミラー)です。彼は数学をスタンフォード大学で専攻し、UCLAで大学院で同じく数学を学んだ経験があります。数学や物理を勉強した人が金融系のキャリアを築くことがありますが、彼もUCLAの博士課程に在学中にトレーディングやリサーチの会社を起業して、1社イグジットしている経験があります。ロビンフッドも、彼が博士課程に在籍しているときに創業共同創業者のBaiju Bhatt(バイジュ)と始めた会社で、事業がうまくいき、彼はUCLAの博士過程からははドロップアウトしています。

Baiju(バイジュ)
バイジュ(写真左)はブラッドミラーと同じくスタンフォード大学で、物理学と数学を学んでいます。彼もブラッドミラーと同じく連続起業家です。

二人とも移民の息子
また、ブラッドミラーとバイジュが共通している生い立ちがあります。彼らの両親がアメリカに移民として渡り、その二世としてアメリカで生まれた移民系のアメリカ人ということです。ブラッドミラーの両親はブルガリアから、バイジュの両親はインドから移民としてアメリカに渡りました。イーロンマスクも移民ですが、シリコンバレーでは移民ルーツの起業家が多く活躍していて、移民がシリコンバレーを支えているという考え方もあり、移民反対派の元大統領トランプはシリコンバレーの人々と相性が良くなかったという背景があります。(バイデン政権になってから一部の移民を抑制する施作は廃止となった。)

少し話が飛びましたが、二人は2013年に「誰もが金融市場の参加者として受け入れられるべき」という思いでロビンフッドを創業し、ミレニアル世代の支持を受けて成長していきます

簡易財務分析

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売上高成長
2019年と2020年の売上高は$278mmから$959mmと245%成長しています。高い成長率ですね。これは簡単に予測がつくと思いますが、コロナ禍で時間とお金を持て余したミレニアル世代の人々がロビンフッダーと化してトレーディングを始めた影響です。(コロナの影響で$1,200ドルが給付されたことも影響)ロビンフッドで株の売買を行う人をロビンフッダーと呼びますが、彼らは投資の初心者が多いです。全ユーザーの50%以上がロビンフッドで投資を始めた人というデータが発表されていることからもそのことが伺えます

コスト
売上の伸びが245%である一方で、Total Expensesの伸びが146%しか伸びていないのは良いポイントです。コストを抑えながら売上を爆伸びさせることができたということです。さらに詳しくコストの内訳をサクッとみると、売上が245%上昇している割にマーケティング費用前年比の150%程度しか上がっていないので、2020年はコロナのおかげてマーケティングにお金を費やさなくとも売上が伸びました(ラッキー)という状態です。

売上の内訳
売上の内訳を見てみましょう。

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2020年は売上のうち75%が「Transaction-based revenue」という売上です(後ほど説明します)。19%が金利の稼ぎ、残りの6%がその他の売上となっています。19年からの動きをみてみると、Transaction-basedの割合が増え、金利の稼ぎは13%→6%と半分以下になっています。

更にTransaction-based の売上の内訳を見てみるとオプションが46%と半分近くを占めています。ロビンフッドの最も主力商品はオプションの販売ということになります。また次に多いのが26%のエクイティ(これが株式の販売です)。仮想通貨の割合はかなり少なく3%となっています。

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2019年から2020年の成長率で見てみるとやはり一番伸びているのはエクイティで396%の成長。オプションも296%の伸びです。仮想通貨も182%の成長ですが、Transaction-based revenueに占める割合は3%と前年の4%よりも低くなっています。

ロビンフッドの基本ビジネス:手数料ゼロでカンタンに株の取引ができるアプリ

ロビンフッドは株式や仮想通貨を取引できるプラットフォームをスマホのアプリで作り、誰もが簡単に使えるようにしました。

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それまでの株取引はお金持ちのみが参加できるもので、一般の人々にはハードルが高く参加し辛いものでした。また、それまでの証券口座は最低限デポジットする必要のある金額が設定され、口座の維持に一定の金額が必要であったり、口座開設の際には証券会社の人間も自分が何を聞いているのか分からないような難解な質問を口座開設者していたり、敷居が高いものでした。

ロビンフッドはフィナンスを民主化することをミッションに、新しいテクノロジーを使って多くの人々が金融市場に参加できるようひ、サービスを提供しています。

ロビンフッドのサービスの特徴は①アプリの使い方が簡単であること、②株式をトレードする際に手数料を取らないということ③最低のデポジットが不要でいくらからでも投資できるということです。

その結果若い世代に受け入れられ、米国の18-44歳の国民の50%以上がロビンフッドが何か?を知っているというレポートの結果があるそうです。

ユーザー数の伸び
また、月間のアクティブユーザーは2020年のQ1から急激に上昇し、2021年に入ってさらに多くのユーザーがロビンフッドを利用しています。2021年の3月末時点では、月間アクティブユーザーは1,770万人に到達しました。

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ユーザー数だけでなくARPUも伸びている
ARPU(Average revenue per user)というユーザー毎の平均売上高は、2019年度は$65.7でしたが、2020年には$108.9に伸びています。更に2021年の1月〜3月のARPUは$137に伸びました。ただ単にユーザー数が伸びているだけでなく、ユーザーがアプリを使う頻度が高くなり売上単価が上がっています

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基本のビジネスモデル①:売上の75%がPFOF

ロビンフッドではユーザーは取引手数料を支払わずに株式を売買することができます。ではどのようにロビンフッドは手数料を取らずに売上をあげているのでしょうか。

ロビンフッドでは顧客が入れた注文を機関投資家であるトレーダーに回して、回した注文と引き換えに報酬をトレーダーから受け取っています。PFOF(ペイメント・フォー・オーダー・フロー)と呼ばれるこの報酬は、トレーダーに回した1注文の売りと買いの金額の差(スプレッド)のうちかなり小さい額の報酬ですが、毎月1,770万人のユーザーが入れた各注文に対して報酬がつくため、合計するとかなり大きな額となります。(大体100の注文で17セント支払うそうです)

売り注文の場合のPFOFを下記に図にしました。

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PFOFにおける機関投資家(マーケットメーカー)のメリットは、ロビンフッド上で取引される膨大な注文データを自分たちのトレーディングに活かすことができるということです。例えばボリュームの多い注文が入ればマーケットの価格にも影響が出ます。ある一つの銘柄に莫大な数の注文が集まれば価格は上がっていきます、その情報を基にHFTという超高速取引を自動で行い、市場トレーディングで利益を出すということをやっています。

ロビンフッド売上の75%はこのPFOFから来ています。先ほどの「売上の内訳」に記載しましたが、オプション取引については報酬の額が一番大きく、次にエクイティの取引の報酬が多くなっています。

PFOFには情報開示が必要。怠れば課徴金

PFOFはロビンフッドだけでなく、チャールズシュワブ、TDアメリトレード、Eトレードなどの手数料を取らない証券会社が使う手法で、違法行為ではありません。ただ、SECという証券取引委員会はPFOFの情報について適正な手続きを踏むことや情報の開示を求めます。SECが2015年から2018年後半まで「ロビンフッドは最大の収入源であるPFOFについて、顧客に誤解を招く発言をしたり、情報を省いたりしていた」と指摘し、結果$65mmの課徴金を払いました。

また、ロビンフッドはこの課徴金の支払いに加えて、サービスの中断が監督不備にあたることや投資初心者にリスクの高いオプション取引を容認したと指摘され、$70mmの課徴金を最近支払いました。この指摘に関するやりとりが落ち着いたため、止まっていたIPOの話が前に進んでS-1提出となりました。

基本のビジネスモデル②:売上の19%は金利収入(現金管理システム)

2020年の売上の19%は金利収入によるものでした。この金利収入はロビンフッドが提供するブローカーアカウントに、ユーザーが株式等に投資をするためのお金を預け、アカウントに預けたお金のうち株式等に使われていないものからロビンフッドが金利収入を得るというものです。ユーザーはアカウントに預けたお金をロビンフッドが発行するデビットカードを使って決済に使うこともできます。また全米で75,000のATMでデビットカードを使って現金を下ろすことも可能です。

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(ちゃんとデザインされた見た目。)

基本のビジネスモデル③:金融教育

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ロビンフッドは「誰もが金融市場の参加者として受け入れられるべき」というミッションに則り、投資のハードルを下げるだけでなく一般の人々の金融リテラシーを上げることにも、取り組んでいます。

人々が長期的にお金を増やせるように金融教育に関するツールを提供しています。Robinhood Snacksというメディアはビジネスに関するニュースをダイジェストで届ける機能を持ち、記事はもちろん音声やビデオのフォーマットでも配信されていて、3,200万の人が購読しています。

他にも金融リテラシーを上げるための記事やバロンズ、ロイター、ウォール・ストリートジャーナルなどの有料の記事を無料で読めるニュースフィードも配信しています。

①リスクファクター:PFOFにはらむリスク

PFOFは使い方によってはユーザーの利益になる一方で、利益相反の原因になる注文方法であるとされ、イギリスやカナダでは禁止されている行為です。

米国ではまだ禁止されていませんが、将来その可能性もあります。米国金融サービス委員会は、今年の3月にPFOFを利益相反の原因となる可能性があり禁止する議論を始めました。もし、米国でPFOFが禁止になれば、売上の75%をTransactional-based revenueで稼いでいるロビンフッドの売上にも大きな影響が出ることは言うまでもありません。ただ、PFOFは前述のとおりチャールズシュワブ、TDアメリトレード、Eトレードなどの他の大手ネット証券も使っている手法であり、米国政府PFOFを禁止すると、他の証券会社にも影響が出るため、ロビンフッドのみを目の敵にしてPFOFを禁止するということは出来ず、簡単に禁止できるものでもありません。ただし、ロビンフッドという存在はSECとしてはこれまで色々な問題を起こしてきた目の上のコブのような存在です。

PFOFの議論が続いている中で今回のIPOとなり、ロビンフッドとSECのPFOFに対する意見や動きは今後注目すべきポイントです。

当然そのような状況のPFOFを主力のビジネスモデルにしているロビンフッドのビジネスはリスクを孕んでいると言えると思います。

②リスクファクター:多数の訴訟の存在

ロビンフッドはS-1のリスクファクターに「We are involved in numerous litigation matters」(多数の訴訟に巻き込まれている)と記載せざるを得ないほど、多くの人から訴訟を起こされています。昨年からでも4件の訴訟がニュースになっています。

1. システムダウン関連
2020年3月新型コロナの影響で株式市場が暴落した直後にダウ平均株価が2009年以来の大きな戻しの記録更新をした際に、ロビンフッドにも注文が殺到しシステムがダウン。株価が上がっている局面でロビンフッドのアプリでトレーディングが出来なかったユーザーが集団訴訟を起こしました。

2. 20歳のロビンフッダーが自殺。家族がロビンフッドを訴訟。
20歳のユーザーにリスクの高いオプション取引を許可し、誤って多額の損失をアプリに表示してショックを受けた同ユーザーがショックのあまり自殺してしまったという事件が起きました。ユーザーの家族がロビンフッドをに対して訴訟を起こしています。

3. PFOFの情報公開関連
2020年12月に、ロビンフッドが顧客の注文をマーケットメーカーなどに回して支払いを受けていた事実を開示していなかったとして、カリフォルニア州で集団訴訟を提起。

4. ゲームストップ株関連
2021年1月に猛烈な買いで急騰していたゲームストップ株の取引を制限したことを受け、これに納得しない投資家が28日、ロビンフッドを相手取った訴訟を相次いで起こした。

このように色々な出来事が訴訟に発展しています。裁判や和解金や課徴金の支払いに莫大な時間とコストがかかる可能性があり、今後も注目する必要があると思います。

既存の投資家

DTS Global、Index Ventures、New Enterprise Associates、Ribbit Capitalが5%以上の株式を保有している法人です。

また、クランチベースによるとセコイアやアンドリーセン・ホロウィッツなどのトップティアVCも過去にロビンフッドに投資しています。

ポイント(感想)

ロビンフッドの目指す世界観やミッションは素晴らしいものだと思います。また自分でもプロダクトを使って気に入っているため、自分も若干ロビンフッドのファンである部分は正直あります。足元の業績(2021年1月-3月)も2020年の伸びを超えて調子が良いですし、IPO自体は注目されているので、当日は売出し価格からの伸びは期待できるかもしれません。(つまりはロビンフッドのIPOアクセスで売り出しのタイミングでは入っても良いかも)ただ、IPO後にどうかと問われると、今後の規制変更によるリスク増大の可能性があるため、中・長期的には米国政府によるPFOF規制強化の方針が更に濃く出てくるまで静観すべきではないかなと思います。

投資は個人の判断でお願いします。本分析は株式の購入を勧めるものではなく、ビジネスの分析を趣旨としています。


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