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メタル・シーンは健全なのか??

そもそも、"健全" とは何なのだろうか?

辞書には

1 身心が正常に働き、健康であること。また、そのさま。
2 考え方や行動が偏らず調和がとれていること。また、そのさま

民明書房館

と記されている。

あと、よくアニメや漫画 (ハーレム系) で見聞きするのが、「健全な男子なら縞パンのラッキー・スケベには勃起するはずだ。勃起してもいたしかたがない。また、そのさま」 の "健全" であろう。

なので、身心が正常に働き、健康で、考え方や行動が偏らず、調和がとれていて、バイアグラの必要がないそのさまが健全だと考えて差し支えがないだろう。

80年代というメタル・バブルの時代が過ぎ、長い間、メタルのシーンは不健全だとされてきた。

70年代、80年代から幅を効かせる大御所、大スターたちが、今だにフェスの大トリを務め、集客の多くを担い、最も聴かれている…つまり、大物頼りで後続が育っていない進歩のない過疎ったシーンだと言われてきたわけだよ。

たしかに、10年ほど前まではそうした側面があったのかもしれない。今の日本のような人口ピラミッドにも思えたメタル・シーンは、偏っていて、バイアグラも必要だ。不健全だと言われてもしかたがなかった。でもね、ここ10年ほどでそうした体質は、実はかなり改善されているんだ。

その証明となったのが、2023年の Spotify ストリーミング・ランキングだろう。昨年リリースされたメタル・アルバムで最も再生された作品。それは、SLEEP TOKEN の "Take Me Back to Eden" だったんだ。

これはすごいことだよ。だって、去年は史上最大のメタル・バンド METALLICA が新譜を出しているんだから。もちろん、Spotify ユーザーの60%が18〜35歳の若年層であることに留意する必要はあるけど、METALLICA の "72 Seasons" が昨年2億2700万再生であったのに対して、SLEEP TOKEN のまだ3枚目のアルバム "Take Me Back to Eden" は3億5700万再生。つまり、SLEEP TOKEN の方が、METALLICA よりリリースが1月遅かったにもかかわらず、1億回以上多く再生されているわけだ。

ただし、巨大なウェンブリー・アリーナで開催されたヘッドライン・ライヴが10分で完売し、Metal Hammer の表紙を飾った SLEEP TOKEN のアルバムが最も再生されたアルバムであることにもはや驚きはない。重要なのは、METALLICA を破ってトップを取った彼らが、まだバイアグラが必要な年齢ではないだけでなく、メタルの常識を破り、メタルをはるかに多様で境界を超えたものに進化させたバンドである点だろう。まあ、スリープという古来の神に仕える謎のカルト覆面秘密結社集団だから、実際の年齢は10万30歳くらいかもしれないけど…

つまりメタルのリスナー自体も、古式ゆかしいジャンルの門番的ゲートキーパーより、寛容で好奇心にあふれたゲートオープナーが増えているということなんだ。逆にいえば、メタル以外のリスナーも SLEEP TOKEN を聴いているということ。メタル世界への入り口にもなっているんだよね。

他にも "新作が多く聴かれましたリスト" の上位には、IN FLAMES や CANNIBAL CORPSE といった30年プレイヤーの大物たちと並んで、SPIRITBOX や CODE ORANGE, TOMB MOLD に JESUS PIECE, SVALBARD といったモダン=多様な新鋭メタル・バンドたちが登場する。

さらに、そうした両極のバンドたちに混ざって、AVENGED SEVENFOLD や BARONESS, PERIPHERY, AUGUST BURNS RED といった中堅の名前もしっかり絡んでくる。日本が誇る BABYMETAL だって入っている。調和がとれて偏っていないこの状況、まさに健全以外の何者でもないでしょ?!

とはいえ、"バンドのディスコグラフィー全体で聴かれましたリスト" はやっぱり METALLICA, SLIPKNOT, KORN, MEGADETH, LAMB OF GOD, MOTLEY CRUE, PANTERA, SCORPIONS といった大御所や何年もヘッドライナーを務めてきたバンドたち、大スターがまだまだ強い (もちろん、彼らが健在であることは幸せなことだし、作品数を考えれば当然だけど)。それでも、10年前と比較して、相当に光明が見えてきたのはたしか。

とりあえずは一安心だよ。だってメタル・ファンには卒業がないからね。いつか杖をついて、オムツをして、バイアグラを10錠くらい飲んで、嫁がどこの誰だかわからなくなってもやっぱりメタルを見続け、聴き続けたいんだよ、僕は。

だから文字通り、メタルを "エデンに戻して" くれるような未来のバンドたちが現れたことがうれしくてしかたがないし、声を大にして宣伝したいんだ。Marunouchi Muzik Magazine では SLEEP TOKEN の特集記事を掲載しています!!ってね。


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