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ヘヴィ・メタルとコンプレックス

明けましておめでとうございます。
非常に重苦しい年明けになりましたが、なんとか前を向いていきましょう。今年もよろしくお願いいたします。

で、正月なんでやっぱり小中のツレと飲みに行ったりするわけじゃないですか。で、オマエはあのパイセンに告った揉んだ地獄に堕ちろだの、なんであの日あの時あの場所であの子に告らなかったんだだの、ええ年したオッサンが何十年も昔の話を肴に安酒をあおるわけですよ。相変わらずなボクらを地でいくわけですよ。で、そんなよもやま話の最中、ふと言われた言葉があってね。

「オマエ、相変わらずネチャ手やなあ!」

ネチャ手。そう、僕は子供のころからずっと、手のひらがスパイダーマン並みにネチャネチャだ。手汗がすごいんだよね。別に、他の場所はそんなに汗をかくわけじゃないんだけど、なぜか手だけ。それが昔、すごいコンプレックスだったんだよね。なにが、汗をとめないでじゃ。BE MY BABY じゃないんよ。

なんだ、そんなことかと思うかもしれないけど、手汗がひどいって結構大変なんだよ。例えば、友達とゲームをするにもコントローラーがベチャベチャで気まずい。ハイタッチをするのも恥ずかしい。スマホがギトギト。ギターの弦はすぐ錆びる。

今でも覚えているんだけど、理科の実験でプラスとマイナスの間に僕の手を挟んだら電流が流れたからね。翌日からクラスでピカチュウ呼ばわりされて、問題を当てられてもピカー!の一言ですべて乗り切っていたものだ。それはまだいいんだけど、彼女ができてはじめて手をつなぐときには、手のひらを本当に全面アロンアルファ・コーティングしてやろうかと思うくらい悩み苦しんだものだ。

そんなコンプレックス。誰にでもあると思うんだよね。触れられたくないし、なくなればいいと心底願うような自分の中の劣等感。でも僕は今ではね、それも自分の大事な個性だと思っているんだ。別に嫌じゃなくなったんだ。そう、ヘヴィ・メタルのおかげでね。

東京に住んでいたとき、僕はメタルの来日公演に足繁く通っていた。で、やっぱりライブのあとには、邪魔にならない程度にアーティストと何かしら話をして、感謝を伝えたいというのが人情じゃないですか。でもね、海外はたいてい、お辞儀じゃなくて握手から始まる文化なんですよ。つまり僕は、気持ちの悪いネチャネチャから出会いを始めなきゃいけない。

嫌だったねぇ…全裸に鉄兜でクロロホルム嗅がされながら弓矢で打たれる方がよっぽどマシだと思ったことさえある。それでも、千載一遇のチャンスだから、清水の舞台から飛び降りるつもりで行くわけだよ。

誰にも嫌がられなかったよね。

一人でも嫌がられていたら、もう行けなかったと思うよ。でもね、メタルの人たちは誰一人として嫌がらなかったんだ。

あれはたぶん、ELUVEITIE のクリゲルさんだったと思うんだけど、「スウェッティでごめんね!」って言ったら、「ライブなんだから汗かいてて当たり前だよ!ガハハ!」って笑い飛ばしてくれたんだ。救われたよねぇ…。

結局、そういうメタルの人の寛容さって、自分たちもコンプレックスを抱えていたり、抱えた過去があったからこそなんだろうと思うんだ。

例えば、最近ジョー・リン・ターナーは病気で頭髪を失いカツラであることをカミング・アウトしたし、LITURGY のハンター・ハント・ヘンドリックスはトランスジェンダーであることをカミング・アウトして名前もラヴェンナに変えた。

今飛ぶ鳥を落とす勢いのマスコア・バンド PUPIL SLICERのケイティも、かつてはいじめ、引きこもり、自閉症に悩んでいて、だからこそ 「わたしは、誰もがその出自、愛する人、外見などで差別されるべきではないと思っているの。いつの日か、今のような悪い状況ではない、より良い世界になることを願っているわ」と弊誌のインタビューに語ってくれた。

メタルが盛んな印象のある欧州でさえ、"メタルはみんなと違う人たちと同義語になっている" なんて記事も出ているくらいでね。つまり、メタル世界には、アウトローで、何かしらのコンプレックスをかかえていて、疎外される痛みを知っているからこそ、優しくなれる…そんな人が多いんだろうな。

実際さ、FEAR FACTORY のディノなんてどっちかっていうと精肉工場で、コレステロールの塊やけどメッチャカッコええやん。DRAGONFORCE のハーマンだってオフでは完全に細ロッチの中岡やけど、ステージではめっちゃイケメンやん。これね、見せ算だったらディノ見せハーマンの眼が∞で対消滅するくらい強烈な個性でインパクトだよ。みんながもう、そのコンプレックスに憧れて、見たくなってる。そうやって彼らは、コンプレックスをポジティブな個性に変えている。

そもそも、メタル・ゴッドとして長年王座に君臨するあのロブ・ハルフォード御大だって、スンッとハゲてきてゲイと猫好きをカミング・アウトなされたけど、むしろそのありのままを尊敬されていていまだにカッコいい。

そうなんだよね。メタルの世界では、ルッキズムよりも才能がいつでも先行するし、抱えていた違いとかコンプレックスも前向きな個性に変えていけるんだ。そんな土壌がここ30年くらいで培われてきたんだよ。だから大丈夫。短小でも包茎でも早漏でも、例えDTだとしてもきっとメタルとYES!高須クリニックは君を優しく抱きしめてくれるさ。


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