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かくかくしかじか。

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エッセイ的なお話たちです。
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#ショートショート

なるほど、そうか

なるほど、そうか

頭の上から、何かが落ちてきた。
それはつむじにフワリと着地したかと思えば、脳内いっぱいに広がる。

「なるほど、そうか」
口からこぼれ落ちたその一言は、確かな感触をもって空中に漂ったかと思うと、次の瞬間には綿あめのような淡い甘さとなって消えていく。

僕はメモを取り出す。
まだ、間に合う。まだその尻尾を舌先にとらえている。
こういうのはスピードが命なのだ。
僕はそいつの尻尾をペン先に引っ掛けて、紙

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さてさて

さてさて

さてさて、はてはて。
言わんとする言葉がみつからない。

さてさて、やれやれ。
今日はこのくらいにしてやるさ。

いやいや、まてまて。
まだまだこれからだと思ってる。

急行が止まらない街

急行が止まらない街

僕が住む街に、急行は止まらない。

各駅停車を待つ僕の目の前を、
急行が空気を引き裂くように走り抜けていく。
空気の裂け目から生み出された風という風が、プラットホームにたたずむ老若男女すべてに、ビンタをくらわし駈けていく。
その荒々しい風の肌触りが、僕の焦燥感を煽っていく。

「僕も急行に乗せてって!」

心の叫びは、過ぎ去った急行の余韻と共に消えて無くなっていく。



僕が住む街に、急行は止

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どっち?

どっち?

人が生きていくにおいて、いつもはひっそりとしているけど、時に露わになる普遍的な問題がある。

それは死だ。

長い人類歴史の中で、権力という権力を極めたツワモノたちがそのすべての力を動員して不老不死を求めたが、その望みが叶えられることはなかった。とりあえず、今のところは数十世紀を生き、権力を維持し続けた者はいない。彼(彼女)らは紆余曲折を繰り返しながら、最終的に死の門をくぐり、決して戻ってくること

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あんこ

あんこ

あんこが好きだ。
だから、和菓子が好きだ。

あんこが好きだ。
だから、あんまんが好きだ。

あんこが好きだ。
だから、お汁粉が出る季節が好きだ。

あんこが好きだ。
その甘い匂いがお婆ちゃんを思い出させるから、僕はあんこが好きだ。

優しい話

優しい話

寒さに震え、痩せ細った体に染みこむ温かなスープみたいな親切心に救われた、あの日。

干からびて、こり固まってしまった笑顔を潤すコップ一杯の水のようなユーモアに救われた、あの日。

そんな日々が、ひだまりのような優しい話となって心を照らす。

僕のあの日、その日、この日から生み出された優しい話が、また誰かのあの日、その日、この日となる、そんな可能性が物語にはあるのだと思う。

無意味に続けられる行列。

無意味に続けられる行列。

なぜか、そこに横たわる、

特に意味ない、しがない、そんな行列。

毎日、毎日、続けられては、なんでか反応に困ってしまう。

それは自然が生み出したものではなく、人によって作り出されたもの。

積み重なり、増えるごとに、いつしかその全体像を失ってしまったような、

特に意味ない、しがない、そんな行列。

固いニンジン【短編】

固いニンジン【短編】

【あらすじ】
 僕が中学1年生の時、4つ離れた兄がカレーを作ってくれた。だけど、そのカレーに入っていたニンジンは固かった。その時の体験から、僕はニンジンはしっかりと柔らかくなるまで煮込むべきだという「信念」を持つようになったという日常的なお話。あと、ちょっとした愛のお話でもある。

カレーを「おいしく」作るために、大事なことはなんだろう。
隠し味に、こっそりハチミツやヨーグルトを入れること?
また

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営業の優しさ

営業の優しさ

営業スマイルとは、よくいったものだ。
時々その笑顔の裏に、お金の匂いがする。
基本的に自己中心的な人間が他人に親切になれるのは、そこに何かしらのインセンティブがある時ではなかろうか。
営業の教科書では、「相手の立場になって考えられたら、もっと儲かります」といっているし、結局はお金のためとはいえ、人のためになることを提案、提供してくれるのだから、接客を受ける側としてはありがたい。

それは、「お金の

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余白を求めてしまう。

余白を求めてしまう。

空気を吸って吐く回数が増えていき、生きている時間が長くなるほどに、人生の余白が段々と失われている、そんな気がする。

余白とは、可能性であり無意識の奥深さ。
余白を埋めていくのは、僕という有限さと浅はかな意識。

若さとは余白の多さであり、年寄りとは余白の少なさのこと。

歳をとりたくないからか、
どうしようもなく、余白を求めてしまう。

ただ求めてしまっている時点で、
すでに余白は意識に侵食され

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歳をとりました。

歳をとりました。

歳をとりました。
僕はもう20代後半です。

21歳の時、20代後半も30代も同じで遠い存在のように感じたものですが、
実際は、人格的な面において、僕は21歳の頃とあんまり変わっていないように思えます。

だけど、今、まさに21歳の子から見ると、僕はとてもおじさんに見えるそうです。
なんでかな、歳をとっている、ただそれだけでたまに冷笑されることもあります。まあ、それは歳だけの問題ではなさそうですが

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歯車2.0

歯車2.0

ぐるぐる、ぐるぐる。
回って、回って、回っている。
様々な意図や衝動をごちゃまぜにして、今日も明日も回り続ける。
そのうち誰かの意図や衝動と別のところで、その歯車は回り続ける。

ぐるぐる、ぐるぐる。
もっと早く、もっと大きく。

ぐるぐる、ぐるぐる。
この回転が、多くの価値を生み出したんだってさ。
その価値によって、狂って押しつぶされる人も生まれたんだけど、
それよりも多くの人が豊かになった。

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