急行が止まらない街
僕が住む街に、急行は止まらない。
各駅停車を待つ僕の目の前を、
急行が空気を引き裂くように走り抜けていく。
空気の裂け目から生み出された風という風が、プラットホームにたたずむ老若男女すべてに、ビンタをくらわし駈けていく。
その荒々しい風の肌触りが、僕の焦燥感を煽っていく。
「僕も急行に乗せてって!」
心の叫びは、過ぎ去った急行の余韻と共に消えて無くなっていく。
*
僕が住む街に、急行は止まらない。
それでも僕は急行が大好きだ。たまたま偶然、帰りに急行に乗れた時は、その幸運に心から感謝する。
急行が駅を飛ばしていく走っていく度に、僕は心の内でスタンディングオベーションを繰り返す。
その拍手の拍子にあわせるように、急行は刻一刻と僕の街に近づいく。
しかし、急行にのることは時にリスクでもある。
仮に、前の駅で降りそびれたとしよう。
そうなると僕は電車の窓から見える見慣れた風景が徐々に流れさっていくのを空しく眺めるしかなくなるからだ。
「僕はこの駅で降りたいんです!」
心の叫びは、離れゆく僕の街と共にだんだんと小さくなっていく。
それでも僕が住む街に、急行は止まらない。
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