85. 巧くすることは手段で、結果なんだ｜Moromi Works™️

2023年12月28日 22:31

１｜指導するゴール（目的）は何？

マーチングショウクリエイトや指導を始めてから、20年以上経つ。
これまでに、さまざまな年齢 / 地域 / スタイルのチームに関わることができた。始めた頃から現在に至るまで、大切にしていることがある。

"上手くすることはゴールにしない"
ということだ。
「出来るようにする＝上手くする」は、指導者としては最低限の嗜みでありそれ自体をゴールにしてしまうと、ある一定以上のところにくると伸びなくなる。
上手くなることをゴールにすると、比較対象を外に求めることになるためだ。自分自身が周りと同等程度になると、そこで目標を見失ってしまう。外的動機づけの構造だ。

「外的動機づけ」の反対に「内的動機づけ」がある。
上手くなる動機が手段であると、「内的動機づけ」が成立する。
「上手くなること＝楽しいこと」のように「上手くなることを通して〇〇になりたい」という状態だ。

上達することが自己表現や自己実現の一部といった手段になると、自ずから目標を設定したり、過程を楽しんだりできる状態になりやすい。
そこに「楽しさ」があるからだ。

指導者に、どのような指導アプローチが求められるのか？
本稿では、音楽指導を例に記したい。

２｜楽しさや感覚から観える景色を教える

指導を通して次のようなことを伝えるようにしている。
"音楽のさまざまな楽しさ"
"出来るようになった先にある楽しさ"
つまり「楽しさ」。

出来るようになった時の楽しさのいくつかを例に挙げる。
- 音が合う楽しさ
- アンサンブルが重なる楽しさ
- 音楽の流れを掴む楽しさ
- 動きながらタイミングがハマった楽しさ
- 全体のパフォーマンスがキマった時の爽快感
- 演奏する前に揃うことが感じられる気配を楽しむ感覚
- 全体が同じイメージに向かって推進していく高揚感の中で演奏する感覚的な楽しさ
などさまざまにある。

こうした楽しさは、主に目には見えない部分のことであり、感覚である。
感覚であるため"体験してきた者にしか見えない景色（感覚）"とも言える。
だからこそ、指導者には感覚を感じられるように、逆算しながら様々な指導方法や手段を考えなくてはならない。
このプロセスの精度と瞬発力は、優れた指導者のセンスの一部だろう。

例えば
（１）手拍子
（２）ロングトーン
（３）鼻ボーン
など、その時々の状況に合わせていろいろ思いつく。

大切なことは、目の前のメンバーや雰囲気に合わせたアプローチをすることだ。また、その指導者に"体験してきた者にしか見えない景色（感覚）を感じさせてくれるであろう気配や雰囲気"がメンバーに感じられることも、重要なことあることも、敢えて記しておく。

３｜いろいろな景色を教えたい

音楽の本質的な楽しさはさまざまにある。
- アンサンブルの楽しさ
- 自己イメージ通りに演奏できる楽しさ
- 美しい音楽に触れる楽しさ
それぞれに「楽しさ」の景色は異なる。
いくつかの例を示す。

①アンサンブルの楽しさ

・音がブレンドした時の音色感
・ブレスが同じ方向でハマった時の爽快感
・フレーズをリードする感覚
・終止形を全員で表現するカルタシス感
など

②自己イメージ通りに演奏できる楽しさ

・イメージ通りにフレーズをデザインできた時の充足感
・難しいパッセージを最後まで演奏できた時の達成感
・目指す演奏家のような雰囲気を再現する喜び
など

③美しい音楽に触れる楽しさ

・音楽の構造美（ドミナントモーション）のさまざまなアプローチ
・官能的なフレーズに浸る没入感
・フレーズの呼吸感やアゴーギクの感触
・終止に向けた音楽の高揚感
・予想を外した裏に入る和声的な色彩感
・オーケストレーションの甘美さ
など

こうしたさまざまな、小さな楽しさに気づかせたり、体験させたりすることによって、音楽を感じる感性（dots）が無数につくられる。
dotsが増えれば増えるほどに、音楽の味わいが深くなっていく。

"Connecting the dots" - Steve jobs -

楽しさを体験 / 体感するためには、表現する上での最低限の巧さ（表記通りに演奏し、音符を並べられる）が備わらなければならない。
巧さや上達をとして感じられる楽しさや景色があることを体感させ、分かることで内的動機づけが強化され、自らより熱中していく姿に自然さをもって導けられる指導者でありたい。

それも、
（１）小学生にも分かるような分かりやすさ
（２）指導者の存在が限りなく少ない
さりげなく寄り添うようような指導者でありたい。