中空麻奈(BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部 副会長)

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記事一覧

ユーロ圏のインフレの方向性とECBのアクション

ユーロ圏のディスインフレの勢いは依然として弱い。6月のユーロ圏総合インフレ率は、前年同月比+2.6%から同+2.5%に小幅減速。全体的な物価のトレンドが依然としてディ…

帳尻は合うが財政課題は解消せず

保守党が7月4日に実施される英国の総選挙を前にマニフェストを発表した。公約の多くは様々なメディアでも確認されていたことに限定されていたため、意外性はなかった。三つ…

ぶれないECB、この先の注目点は?

この数週間の経済指標がほぼECBの予想通りであり、ラガルド総裁や他のメンバーの発言が断固としたものになっていることも勘案すると、ECBが6月の理事会会合で中銀預金金利…

なぜか、力強い成長へ。欧州景気

ユーロ圏の第1四半期GDP速報値は、この地域に対する楽観論を裏付ける。前期比0.3%のGDP成長率はコンセンサス予想0.1%を上回り、堅調な足取りでユーロ圏経済が2024年をスタ…

欧州が強く進める環境対策

もしトラが現実になった場合、恐らくかなりの確度で米国はパリ協定から再び脱退していく公算が大きいのであろう。そうした動きを捉えてか、23年10月から12月、世界のESGフ…

イタリアの格付け、春は一安心だが……

イタリアの春の格付け見直しはひとまず、変更なし。堅調な成長環境を見込み(コンセンサス予想でも2024年の成長率は0.6%、2025年同1.1%)、政府の財政目標も概ね達成可能…

世界の中銀総裁を悩ませるインフレ統計

ユーロ圏の総合インフレ率は2月の2.6%から3月には2.4%に低下し、2021年7月以来の低さとなったことからも、ディスインフレ傾向がしっかり定着していることを裏付けている…

英国予算:難題は先送り

ハント財務相が発表した予算にサプライズはなかった。大部分については、メディアで伝えられていた通りで、秋季声明と比べ財政が若干拡大されるといった程度。 選挙が近い…

インフレ基調の鈍化スピードが利下げ時期を決める鍵

ECBの2024年第4四半期の妥結賃金指標がユーロ圏の賃金伸び率のピークアウトを示唆した後で、今後数か月に物価上昇圧力がさらに改善すれば、ECBに「ユーロ圏のインフレ率は2…

欧州の“財政リスク後退”を信じていいか

欧州議会とEU加盟国は気候変動やデジタル化などの分野への公共投資を一定程度容認しつつ、4-7年間で財政赤字を緩やかに削減する目標について合意した、ばかりである。これ…

金融政策変更には労働市場の動向が一つの鍵

消費者物価指数を見る限り、インフレ動向は沈静化しつつある。金融政策の変更のタイミングは早まるのであろうか。おそらくは金融政策委員会(MPC)が気にしているのは、労…

2月以降が問題だ!

金融政策委員会MPCのタカ派メンバーであるジョナサン・ハスケル委員とミーガン・グリーン委員の二人が利上げから据置にシフトすることが想定される中、2月1日の会合で政策…

ECBの利下げは”やはり”4月

向こう数ヶ月間で食品とコア財のディスインフレが急ピッチで進み、欧州の総合インフレ率が徐々に改善する可能性は大きい。特に、電力料金とガス料金は依然として卸売価格ほ…

人のふり見て我がふり直せ

EUでは、域内で事業展開するアパレル事業者に売れ残った服や靴などの衣料品を破棄するのを禁じる法案に大筋合意し、2年後から施行することが決まった。さすがルールメイキ…

ECB会合を読む

ECBが12月14日明日の理事会会合で再び金利の据え置きを決定することはほぼ織り込み済みと思われるが、市場はまだ最新の経済予測とECBのコミュニケーションから、多くのこと…

ドイツの閉塞感とネガティブプレッシャー

2021年12月末に、新たに発足した政権はパンデミック関連の600億ユーロの信用枠を、当時エネルギー・気候基金EKFと呼ばれた基金に移管する決定を下した。これはデジタル化や…

ユーロ圏のインフレの方向性とECBのアクション

ユーロ圏のインフレの方向性とECBのアクション

ユーロ圏のディスインフレの勢いは依然として弱い。6月のユーロ圏総合インフレ率は、前年同月比+2.6%から同+2.5%に小幅減速。全体的な物価のトレンドが依然としてディスインフレ方向であるものの、ユーロ圏の物価圧力が依然として解消されていない。

ECBにとって懸念されるのは、総合インフレ率改善の原動力になったのがエネルギー価格と食品価格の穏やかな低下であったことであり、いずれも国内の需給環境との結

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帳尻は合うが財政課題は解消せず

帳尻は合うが財政課題は解消せず

保守党が7月4日に実施される英国の総選挙を前にマニフェストを発表した。公約の多くは様々なメディアでも確認されていたことに限定されていたため、意外性はなかった。三つの大型減税と1つの支出増がそれだが、下記の通り。

1) 国民保険料の8%から6%への引き下げ、財政コストは103億ポンド
2) 自営業者の国民保険料を廃止、財政コストは26億ポンド
3) 「トリプル・ロック・プラス」制度により、国民年金

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ぶれないECB、この先の注目点は?

ぶれないECB、この先の注目点は?

この数週間の経済指標がほぼECBの予想通りであり、ラガルド総裁や他のメンバーの発言が断固としたものになっていることも勘案すると、ECBが6月の理事会会合で中銀預金金利を25bp引き下げることはほぼ既定路線。既に織り込み済みであるがゆえ、大きな高揚感はない可能性が大きいが、今後をどう読むかは注目したい。

経済活動が勢いを取り戻している上、妥結賃金の伸びが第1四半期に再加速している状況でなぜ利下げを

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なぜか、力強い成長へ。欧州景気

なぜか、力強い成長へ。欧州景気

ユーロ圏の第1四半期GDP速報値は、この地域に対する楽観論を裏付ける。前期比0.3%のGDP成長率はコンセンサス予想0.1%を上回り、堅調な足取りでユーロ圏経済が2024年をスタートさせたことが示唆される。

主要4か国の成長率はいずれも第1四半期にプラスとなったのも大きい。とりわけドイツ経済がプラス成長に転じたことは景況感の懸念材料の払しょくを後押しするものとなると言える。

こうした成長に対し

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欧州が強く進める環境対策

欧州が強く進める環境対策

もしトラが現実になった場合、恐らくかなりの確度で米国はパリ協定から再び脱退していく公算が大きいのであろう。そうした動きを捉えてか、23年10月から12月、世界のESGファンドから四半期で初の純資金流出となったと言えるのではないか。

しかし、欧州は突き進む。私見では欧州のまとまりや統合のためには、すでにグリーンが欠かせないものになっているからで、逆に言えば、これなしには欧州のまとまりや統合には向か

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イタリアの格付け、春は一安心だが……

イタリアの格付け、春は一安心だが……

イタリアの春の格付け見直しはひとまず、変更なし。堅調な成長環境を見込み(コンセンサス予想でも2024年の成長率は0.6%、2025年同1.1%)、政府の財政目標も概ね達成可能なためで、イタリア国債の利回りも昨年秋以降、大幅に低下している。政府の将来的な利払いの拡大圧力も限定的である。

だが、イタリアの場合、格付け機関が慎重スタンスを継続することは考えておくべきだ。三つある。第一に、スーパーボーナ

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世界の中銀総裁を悩ませるインフレ統計

世界の中銀総裁を悩ませるインフレ統計

ユーロ圏の総合インフレ率は2月の2.6%から3月には2.4%に低下し、2021年7月以来の低さとなったことからも、ディスインフレ傾向がしっかり定着していることを裏付けていると言えるであろう。食品価格上昇率、エネルギー価格上昇率、コア・インフレ率のすべてが予想を若干下回り、インフレ圧力は全般的に低下した。また、進展は広範な国に及んでおり、ドイツ、フランス、イタリア、スペインで総合インフレ率がコンセン

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英国予算:難題は先送り

英国予算:難題は先送り

ハント財務相が発表した予算にサプライズはなかった。大部分については、メディアで伝えられていた通りで、秋季声明と比べ財政が若干拡大されるといった程度。

選挙が近いこともあり、限定的だがばらまき財政の様相である。臨時的な財政収入をすべて支出に回し、労働党との差を詰めるために、国民保険料NICを2025年度から2%引き下げると発表した他、燃料税の引き上げを26年度まで1年間先送りした。その代わり、目立

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インフレ基調の鈍化スピードが利下げ時期を決める鍵

インフレ基調の鈍化スピードが利下げ時期を決める鍵

ECBの2024年第4四半期の妥結賃金指標がユーロ圏の賃金伸び率のピークアウトを示唆した後で、今後数か月に物価上昇圧力がさらに改善すれば、ECBに「ユーロ圏のインフレ率は2%に向けた軌道に乗っている」という十分な自信を与え、利下げに道を開くことになるはずだ。ECBはその金融政策の変更に関し、経済指標次第の姿勢を変えておらず、2月の改善の度合いによっては措置を早めるか遅らせるかを判断する可能性が大き

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欧州の“財政リスク後退”を信じていいか

欧州の“財政リスク後退”を信じていいか

欧州議会とEU加盟国は気候変動やデジタル化などの分野への公共投資を一定程度容認しつつ、4-7年間で財政赤字を緩やかに削減する目標について合意した、ばかりである。これ自体は柔軟性を高めるという意味では良いこととして受け止められる。

そもそも、欧州は頑強な財政ルールがあり、それこそが信用の礎になっている。GDP対比で財政赤字が3%を超えない、債務が同60%を超えない、といった水準を遵守しなければなら

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金融政策変更には労働市場の動向が一つの鍵

金融政策変更には労働市場の動向が一つの鍵

消費者物価指数を見る限り、インフレ動向は沈静化しつつある。金融政策の変更のタイミングは早まるのであろうか。おそらくは金融政策委員会(MPC)が気にしているのは、労働市場データに示された労働需給のひっ迫ではなかろうか。

労働力需要がここ数か月鈍化している状況に変わりはない。求人は引き続き減少し、雇用意図の指標や雇用者数の伸びは鈍化している。だが、2月5日に発表されたデータを見ると、労働供給は回復か

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2月以降が問題だ!

2月以降が問題だ!

金融政策委員会MPCのタカ派メンバーであるジョナサン・ハスケル委員とミーガン・グリーン委員の二人が利上げから据置にシフトすることが想定される中、2月1日の会合で政策金利を据え置くのはほぼ見えてきたと言える。しかし、難しいのはその後どうするか、という点である。ハト派的なトーンを打ち出しつつも、利下げを示唆することはしたくない、ように見えるため、そのコントロールは難しそうである。

12月のシグナルに

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ECBの利下げは”やはり”4月

ECBの利下げは”やはり”4月

向こう数ヶ月間で食品とコア財のディスインフレが急ピッチで進み、欧州の総合インフレ率が徐々に改善する可能性は大きい。特に、電力料金とガス料金は依然として卸売価格ほど下落しておらず、今後、卸売価格の下落に追い着く余地が残っていることを考えると、ユーロ圏の総合インフレ率が2024年第3四半期にECBの目標である2%を一時的に下回ると考えられる。BNPパリバの基本シナリオでは、2024年の平均コアインフレ

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人のふり見て我がふり直せ

人のふり見て我がふり直せ

EUでは、域内で事業展開するアパレル事業者に売れ残った服や靴などの衣料品を破棄するのを禁じる法案に大筋合意し、2年後から施行することが決まった。さすがルールメイキングの得意な欧州、という感じだ。極めて正しい。地球環境のためのみならず、そもそも新品のものを破棄するのは無駄だしもったいないのは確かだからだ。

こうした動きは世界中に何らかの影響を与えることになる。欧州での事業展開がない場合でも、アパレ

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ECB会合を読む

ECB会合を読む

ECBが12月14日明日の理事会会合で再び金利の据え置きを決定することはほぼ織り込み済みと思われるが、市場はまだ最新の経済予測とECBのコミュニケーションから、多くのことを読み、かつ消化する必要がある。

市場はすでに利下げが実施されるのではと読み始め、2024年中にはECBは大幅な利下げを実施するのではないかと織り込んでいる。こうした市場の期待や読みに対し、ECBはこれに対抗しようとするか否か。

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ドイツの閉塞感とネガティブプレッシャー

ドイツの閉塞感とネガティブプレッシャー

2021年12月末に、新たに発足した政権はパンデミック関連の600億ユーロの信用枠を、当時エネルギー・気候基金EKFと呼ばれた基金に移管する決定を下した。これはデジタル化や脱炭素化の推進に充てる特別基金であり、後に「気候・変革基金(KTF)」に改称された。だが移管された信用枠は、パンデミックの影響に対処するために当初設立された「経済安定化基金(WSF)」という、別目的の基金をベースとしていた。この

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