中空麻奈(BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部 副会長)

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      日経COMEMOは、様々な分野から厳選した新しい時代のリーダーたちが、社会に思うこと、専門領域の知見などを投稿するサービスです。 【noteで投稿されている方へ】 #COMEMOがついた投稿を日々COMEMOスタッフが巡回し、COMEMOマガジンや日経電子版でご紹介させていただきます。「書けば、つながる」をスローガンに、より多くのビジネスパーソンが発信し、つながり、ビジネスシーンを活性化する世界を創っていきたいと思います。 https://bit.ly/2EbuxaF

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    失業率と求人率に着目せよ!

    欧州の物価がなかなか下がりそうにない、のは労働市場の強さにも影響されている。エネルギー危機下でもユーロ圏の労働需給はひっ迫してきたわけだが、主に三つの要因が見いだせる。 第一に、景気面に関しては財やサービスの力強く底堅い需要が高い求人率と低い失業率のいずれにもつながっていること。第二に、構造面では既に人口動態の変化による労働力不足が労働者の抱え込みにつながることで低迷期に労働市況がより持ち応えやすくなっている可能性があること。第三に、労働力の余剰と不足の分野が異なる雇用のミ

      • 物価のピークアウトは本当か

        欧州の経済成長は、物価がピークアウトした感が出たため、低位でも上方修正に向かっている。物価については、1月のHICPエネルギーの項目が前月比1%低下したこと、家計の基調的な電力・ガス料金が暖冬や再生可能エネルギー源による発電の拡大を追い風に大幅に下落したこと、などが働き、一時期に比べて物価の煮詰まり感がなくなってきたことは確かだ。 とはいえ、インフレ状況はまだ続くと見るべきであろう。 第一に、これら指標に単月で実施したような措置や各国のエネルギーに関する還付打ち切りなどを

        • 既定路線が崩れる可能性も!

          2022年第4四半期のユーロ圏のGDP成長率は前期比+0.1%増となり、▲0.1%減を見込んでいたコンセンサス予想を上回った。絶対的にみると、ユーロ圏経済は依然として弱いものの、引き続き、エネルギー・ショックに対する予想以上の底堅さをみせている。 これらを受けて、2月のECBが50bpの利上げを決定したのもサプライズはなかった。今後の金融政策については、コアインフレ率次第である。インフレ統計が出るまではECBの姿勢が大きく変化すると考えることは難しいため、今のところ3月も5

          • 欧州における景況感と金融政策

            ユーロ圏の経済見通しに対するセンチメントは2023年初めに大いに改善している。これは特にエネルギーに関連して経済活動が深刻かつ長期的に低迷するリスクが高いと思われた2022年半ば以降に比較するとそう言える。欧州が天候面で恵まれ、少なくともこの冬はガス配給制を導入せずに乗り切れる見通しであることだ。さらに、足元のガス貯蔵率は例年のこの時期の標準を大幅に上回っており、今後の多少のリスクなら軽減できるだけのバッファーがあると言える状況だ。また、鉱工業全体もよく持ち堪えている。サプラ

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            神風吹く欧州経済

            ロシア・ウクライナ問題を考えると、地理的要因から欧州経済には最も大きな打撃があると考えるのが普通である。ところが、思った以上に今年暖冬であったこと、ロシアからの一部のパイプラインが継続的に稼働していること、ドイツ・英国の風力発電やフランスの原子力発電が安定したエネルギーを供給していること、また、中国の景況感が戻らなかったことにより中国のエネルギー購入が少なく済んだこと、などがそれぞれ功を奏し、欧州のエネルギー価格は下落してきた。 1月19日午前に発表された11月の国際収支デ

            欧州の決意―サステナブルファイナンス分野でのプレゼンスは譲らない!―

            貿易摩擦を懸念しつつも国境炭素税導入は合意し、23年から企業に報告義務も課す。それだけではない。他にも目白押しで、以下にいくつか紹介したい。 欧州銀行監督機構、欧州保険・企業年金監督機構、欧州証券市場監督機構は、グリーンウオッシング(グリーンボンドのふりをした債券やローンなど)に関する証拠収集の実施を発表した。サステナビリティ関連の金融商品の需要が拡大し規制制度が急速に変化する中で生じた動きである。グリーンウオッシングの主な特徴、要因、リスクをより理解するために情報を収集す

            欧州景気は後退するか?

            欧州景気は第3四半期と比べ失速している。エネルギー動向もあり、欧州の景気悪化は他地域と比較して確度が高いと考えるのも普通の見方である。11月のPMIの確定値は、ユーロ圏のGDPが第4四半期に縮小した過去のパターンと合致するなど、景気が悪化すると考える見方は一般的でもある。 しかし、ユーロ圏経済はエネルギー危機にあえいでいるにもかかわらず、過去2四半期のGDPデータは予想を上回った。これには12月7日に発表されたユーロ圏GDPの上方修正も含まれる(確定値は前四半期比+0.3%

            “Bregret”(英国の後悔)でBrexitの見直しとなるか?

            11月20日付のサンデー・タイムズ紙に英国が欧州連合(EU)との「スイス型の関係」を検討しているという衝撃的な記事が掲載された。どう解釈すべきだろうか。 結論として言えるのは、このようなことが起こる可能性は極めて低いと考えられる。実際、政府はこの案にすぐに冷や水を浴びせたし、そもそも、EUとの関係見直しには、EUへの予算支払い、移動の自由の受け入れ、欧州司法裁判所によるある程度の監督権、というEUからの要求事項を英国が飲む必要があり、それなしに、摩擦のない貿易というスイス型

            COP27の意義:これまでの公約の実行となるか

            11月6日にエジプトにて始まったCOP27は18日に閉幕する。今年の会議の中心テーマは「実行」で、昨年のCOP26 で掲げられた目標を実現するための具体的な行動を確実に進めることが焦点となる。COP26 閉幕時に参加したすべての締約国は「国が決定する貢献(NDC)」を強化し、一段と野心的なものにすることを約束した。 だがこれまでのところ、温室効果ガス主要排出国は軒並みこの公約を実行していない。EUはNDCの野心的な目標を強化する意向を示しており、今COP27が終了して以降、

            まだ引上げモードが続く

            予定通りの75bpの利上げだが、これで預金ファシリティ金利DFRは非公式ながら、中立金利の水準に関するECBの中央値に達することになる。中道派のビルロワドガロー総裁だけでなく、レーン理事など通常はよりハト派的なメンバーの最近の発言を踏まえると、景気抑制的な領域に金利を引き上げることに安定多数が賛成していると思われる。 インフレ傾向は継続している。9月のユーロ圏の総合HICPは速報値で10.0%。その後9.9%に下方修正されたものの、ほぼ二桁。これはピークに近いと考えても不思

            急転直下のイギリス:投資妙味を見逃さない

            9月23日に発表されたいわゆるミニ・バジェットには二つの基本的な問題があった。第一に、その規模。英国の公共財政は年間450億ポンドの資金手当が必要になると同時に、インフレ圧力が一段と強まる可能性が大きくなるものであった。第二に、信頼性の低下。前財務相が公共財政の中期的戦略を示すことができず、さらに独立機関である予算責任局OBRをこのプロセスに関与させなかったことにより、英国の政策に対する信頼性が大きく損なわれた。 こうした問題ある措置につきほぼすべての撤回が発表されたことで

            強い賃金上昇圧力が金融政策にも影響

            ユーロ圏では、経済環境が悪化しているにもかかわらず、賃金上昇圧力は引き続き強くなる可能性が大きい。実質所得の低下とインフレ期待の上昇、労働力不足が融合し、企業には従業員の賃金引き上げを迫る圧力がかかり続けることになろう。 とはいえ、賃金・物価スパイラルが進むばかりではない。これまでの賃金交渉では賃上げよりも一時金支給が選好される傾向が見られる。通常、ECBの妥結賃金データから除外されるものであること、今後景気が減速すると労働市場のひっ迫がやや緩和される可能性が大きいこと、さ

            “タカ派優位”のECB

            ECBは75bpの利上げに踏み切り、インフレに対抗していく姿勢を鮮明にした。 これまでハト派メンバーであるレーン理事やシュナーベル理事は、漸進的な措置を正当化するような発言をしてきた。それをサポートする根拠としては、①不確実性が高いこと、②ユーロ圏の賃金伸び率が抑制されていること、③経済成長の環境は悪化しており、今後数四半期には景気後退に陥る可能性が高いこと、④急激な利上げは周辺国の国債市場の圧力を高めかねないこと、があげられる。 それでも、タカ派が優位であったのは、イン

            イタリアの混迷が欧州全体の信用力にも影響をもたらしかねない

            ムーディーズがイタリアの格付をBaa3で確認した際、アウトルックを安定的からネガティブに引き下げた。ロシアによるウクライナ侵攻がエネルギーを中心にイタリア経済に影響をもたらしていることに加え、政治的な脆弱さが露呈していることを懸念して、である。 折から伝えられている通り、9月25日の総選挙前、中道右派が優位となっている。FI、FdI、同盟による中道右派連合は足元の世論調査では絶対過半数を確保しそうな勢いである。うち、FdIは最多議席を獲得する勢いで、メローニ党首が首相になる

            “焼け石に水?インフレ抑制の動き”

            イングランド銀行は政策金利を1.75%まで引き上げ、金融引き締めを加速している。背景にはもちろん強いインフレ圧力がある。 今後はエネルギー補助政策がインフレ圧力を抑制する方向に働く。政府は4000億ポンドに上るエネルギー還付金を予定しているが、その還付が価格改定として取り扱う可能性があるためだ。国家統計局ONSが価格改定として扱うかどうかは、マニュアルに応じたケースバイケースなのだそうだが、自動的に、例外なく給付されること、小切手等で別途送付する形ではなく、請求額に自動的に

            混迷するイタリア政治

            ドラギ政権が次回予定される選挙まで任期を全うすると想定していたが、首相の辞意を受け、前倒し総選挙が決まった。イタリアはドイツ程でないにせよ、ロシアからのエネルギー供給を受けられずにインフレ圧力が増し、景気の先行きにも懸念が浮上しているのである。そんな中でイタリア政治は流動的となっている。 ドラギ政権は20日の信任投票で形式上、過半数を確保したが、連立政党を含む主要政党(五つ星運動、同盟、フォルツァ・イタリア)が投票を棄権したため、収拾不能な状況に陥り、政権は事実上、崩壊した