中空麻奈(BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部 副会長)

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最近の記事

ドラギでも効果薄?

競争力強化は、日本でもそうだが、欧州でも大きな課題である。その方針を打ち立てるため、マリオ・ドラギ前ECB総裁による報告書、いわゆる「ドラギ報告書」が提出された。2024年4月に発表された欧州単一市場の強化に関する提言書をもとにしたもので、欧州の経済成長ペースが持続的に米国を下回っていることを問題視し、それに対処するために必要な政策行動を示した欧州の競争力強化に関する提言書である。いくつかの大胆な政策提言が含まれている。仮にこうした政策が実行されるのであれば、欧州の状況は大き

    • 不透明感払しょくとはならず。

      フランスの新首相にミシェル・バルニエ元外相が任命されたことで、政治的不透明感は幾分後退するという期待感が醸成され、基本的にはフランスの経済と市場にとって好材料となる、と見られる。 しかし、そう簡単ではないことは、現在フランスの全土で起こっているデモを見れば明らかだ。最大勢力になった左派連合は、首相を同連合から選ばなかったことに抗議しており、収まる様相を見せない。 マクロン大統領がバルニエ氏を選んだことによるインプリケーションは三つ。第一に、年金改革をはじめ、これまで進めて

      • 身内の不満をいかにコントロールするか

        オーバーツーリズムで、スペインの各地で観光客の排斥運動が起きている、のだそうだ。日本でもそれが問題となり、富士山が見えないよう黒い幕を張ったとか、問題があった。どの国でもそうだが、インバウンド期待で観光収入を当て込むものの、観光地での地域住民との問題は相応に起きてしまうことになる。うまく地域住民・身内の不満をコントロールしながら、自国の利益や成長に観光を結びつけられるか、それぞれの政権の腕の見せ所、であろう。 現在、スペインは他のユーロ圏諸国よりも好調な経済状況にある。今年

        • 下振れリスクの高まりで悩み深まるECB

          7月30日に発表されたユーロ圏のGDP速報値は0.3%増で、ECB予想0.4%増を下回った。大した違いはない、と思われるかもしれないが、特にドイツの回復の遅れが大きいことに目を向けると景気が予想以上に弱まるリスクは、実はこの時点で浮き彫りになっていた。 主要4か国のうち成長をけん引しているのはスペインである。前期比成長率は0.8%とコンセンサス予想の0.5%対比でも上振れている。フランスとイタリアの成長率も0.3%、0.2%と堅調。しかし、ドイツの回復は遅れており、緩やかな

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          テイラー・スウィフト効果も利下げの歯止めにならず

          BoEの8月の会合は判断が分かれているが、結局は、MPC内で政策金利を5.00%へ25bp引き下げる決定に十分支持が集まり、8月に利下げがなされると見る。 6月のサービスのインフレ率は、BoEの5月の予想を60bp上回った。これは表面的には、政策金利を直ちに引き下げるにはそぐわない展開であった。しかしながら、BoEは6月の会合でインフレ率が5月の予想を40bp上回ったことについて、一時的にすぎないとした。サービスのバスケットのうち、BoEの6月の会合で不安定なカテゴリーとし

          テイラー・スウィフト効果も利下げの歯止めにならず

          ユーロ圏のインフレの方向性とECBのアクション

          ユーロ圏のディスインフレの勢いは依然として弱い。6月のユーロ圏総合インフレ率は、前年同月比+2.6%から同+2.5%に小幅減速。全体的な物価のトレンドが依然としてディスインフレ方向であるものの、ユーロ圏の物価圧力が依然として解消されていない。 ECBにとって懸念されるのは、総合インフレ率改善の原動力になったのがエネルギー価格と食品価格の穏やかな低下であったことであり、いずれも国内の需給環境との結び付きは弱い。基調的物価圧力は依然として強く、コアインフレ率は前年同月比+2.9

          帳尻は合うが財政課題は解消せず

          保守党が7月4日に実施される英国の総選挙を前にマニフェストを発表した。公約の多くは様々なメディアでも確認されていたことに限定されていたため、意外性はなかった。三つの大型減税と1つの支出増がそれだが、下記の通り。 1) 国民保険料の8%から6%への引き下げ、財政コストは103億ポンド 2) 自営業者の国民保険料を廃止、財政コストは26億ポンド 3) 「トリプル・ロック・プラス」制度により、国民年金受給者向けに新たな年齢関連の税控除を導入、財政コストは24億ポンド 4) 防衛支

          ぶれないECB、この先の注目点は?

          この数週間の経済指標がほぼECBの予想通りであり、ラガルド総裁や他のメンバーの発言が断固としたものになっていることも勘案すると、ECBが6月の理事会会合で中銀預金金利を25bp引き下げることはほぼ既定路線。既に織り込み済みであるがゆえ、大きな高揚感はない可能性が大きいが、今後をどう読むかは注目したい。 経済活動が勢いを取り戻している上、妥結賃金の伸びが第1四半期に再加速している状況でなぜ利下げを実施しなければならないか、というと理由は3つ。第一に、基調的なインフレ率の指標は

          なぜか、力強い成長へ。欧州景気

          ユーロ圏の第1四半期GDP速報値は、この地域に対する楽観論を裏付ける。前期比0.3%のGDP成長率はコンセンサス予想0.1%を上回り、堅調な足取りでユーロ圏経済が2024年をスタートさせたことが示唆される。 主要4か国の成長率はいずれも第1四半期にプラスとなったのも大きい。とりわけドイツ経済がプラス成長に転じたことは景況感の懸念材料の払しょくを後押しするものとなると言える。 こうした成長に対して、概ね予想通りのインフレ率になったことも明るい展望である。前年同月比の総合イン

          欧州が強く進める環境対策

          もしトラが現実になった場合、恐らくかなりの確度で米国はパリ協定から再び脱退していく公算が大きいのであろう。そうした動きを捉えてか、23年10月から12月、世界のESGファンドから四半期で初の純資金流出となったと言えるのではないか。 しかし、欧州は突き進む。私見では欧州のまとまりや統合のためには、すでにグリーンが欠かせないものになっているからで、逆に言えば、これなしには欧州のまとまりや統合には向かえないということではないか。欧州にはエネルギーポートフォリオの問題もあり、戦争が

          イタリアの格付け、春は一安心だが……

          イタリアの春の格付け見直しはひとまず、変更なし。堅調な成長環境を見込み(コンセンサス予想でも2024年の成長率は0.6%、2025年同1.1%)、政府の財政目標も概ね達成可能なためで、イタリア国債の利回りも昨年秋以降、大幅に低下している。政府の将来的な利払いの拡大圧力も限定的である。 だが、イタリアの場合、格付け機関が慎重スタンスを継続することは考えておくべきだ。三つある。第一に、スーパーボーナススキームでのもとで、コストが増えたため、対GDP比で見た債務比率動向が改善して

          世界の中銀総裁を悩ませるインフレ統計

          ユーロ圏の総合インフレ率は2月の2.6%から3月には2.4%に低下し、2021年7月以来の低さとなったことからも、ディスインフレ傾向がしっかり定着していることを裏付けていると言えるであろう。食品価格上昇率、エネルギー価格上昇率、コア・インフレ率のすべてが予想を若干下回り、インフレ圧力は全般的に低下した。また、進展は広範な国に及んでおり、ドイツ、フランス、イタリア、スペインで総合インフレ率がコンセンサス予想を下回った。コア統合消費者物価指数(HICP)上昇率(国レベルではまだ発

          英国予算:難題は先送り

          ハント財務相が発表した予算にサプライズはなかった。大部分については、メディアで伝えられていた通りで、秋季声明と比べ財政が若干拡大されるといった程度。 選挙が近いこともあり、限定的だがばらまき財政の様相である。臨時的な財政収入をすべて支出に回し、労働党との差を詰めるために、国民保険料NICを2025年度から2%引き下げると発表した他、燃料税の引き上げを26年度まで1年間先送りした。その代わり、目立たないように増税策も混ぜてある。26年度から非定住者の税制上の扱いを変更、たばこ

          インフレ基調の鈍化スピードが利下げ時期を決める鍵

          ECBの2024年第4四半期の妥結賃金指標がユーロ圏の賃金伸び率のピークアウトを示唆した後で、今後数か月に物価上昇圧力がさらに改善すれば、ECBに「ユーロ圏のインフレ率は2%に向けた軌道に乗っている」という十分な自信を与え、利下げに道を開くことになるはずだ。ECBはその金融政策の変更に関し、経済指標次第の姿勢を変えておらず、2月の改善の度合いによっては措置を早めるか遅らせるかを判断する可能性が大きかった。 コアインフレ率が3%を割り込めば基調的な圧力がECBスタッフの12月

          インフレ基調の鈍化スピードが利下げ時期を決める鍵

          欧州の“財政リスク後退”を信じていいか

          欧州議会とEU加盟国は気候変動やデジタル化などの分野への公共投資を一定程度容認しつつ、4-7年間で財政赤字を緩やかに削減する目標について合意した、ばかりである。これ自体は柔軟性を高めるという意味では良いこととして受け止められる。 そもそも、欧州は頑強な財政ルールがあり、それこそが信用の礎になっている。GDP対比で財政赤字が3%を超えない、債務が同60%を超えない、といった水準を遵守しなければならないルールになっており、日本のGDP対比で見た債務が260%と比較すれば、欧州の

          金融政策変更には労働市場の動向が一つの鍵

          消費者物価指数を見る限り、インフレ動向は沈静化しつつある。金融政策の変更のタイミングは早まるのであろうか。おそらくは金融政策委員会(MPC)が気にしているのは、労働市場データに示された労働需給のひっ迫ではなかろうか。 労働力需要がここ数か月鈍化している状況に変わりはない。求人は引き続き減少し、雇用意図の指標や雇用者数の伸びは鈍化している。だが、2月5日に発表されたデータを見ると、労働供給は回復から若干逆戻りしているようであり、その分だけでもこれまで考えられていたより、ややひ