【BL二次小説】 喫茶チャリダー⑤
荒「出来たぜェ」
新開の目の前に出されたのは、山盛りのカルボナーラにたっぷり野菜スープだ。
新「うわぁ!旨そう!いただきます!」
バクバクとがっつく新開。
新「旨いよ靖友ー!オレ幸せー!」
荒「そりゃ良かったナ」
口いっぱいに頬張り喜んでいる新開を眺めながら、荒北は説明する。
荒「ちゃんとよく見ろ。そのパスタ、マカロニみてェに中が空洞なんだぜ」
新「え?あ、ホントだ」
荒「その分、ソースが絡み易いんだ」
新「へー。モグモグ」
荒「ちょうどイタリアのいいパスタとチーズが手に入ってナ。オイ、ちゃんと野菜も食え」
世話を焼く荒北に、新開が言った。
新「なぁ靖友。一生オレのメシ作ってくんない?」
荒「……そんなセリフは女に言ってやれ」
新「ちぇっ。つれないなぁ、おめさんは」
新開は何事も無かったかのようにパスタを食べ続けた。
泉田達のテーブルがどよめく。
泉「聞いたか?今新開さん、荒北さんにプロポーズしたぞ」
黒「ソッコーでフられてたな」
葦「え?冗談だよね?今の」
泉「新開さんでもフられることあるんだなぁ」
黒「つーか、荒北さんが落ちなさ過ぎなんだろ」
葦「えー?冗談じゃないの?ホントなの?」
ゴシップで盛り上がる3人組は、今後二人の関係がどうなるのか観察しよう、ということに決めた。
コロン。
閉店時刻になり、外の看板を下げてclose札を掛け、店内に戻ってきた荒北。
壁の写真を眺めている新開。
荒「帰んなくていいのか?」
新開はそれには答えず、写真の話をする。
新「これホント、時系列に並んでてすごい解り易いよな。高校ん時のから最近のまでズラリと。みんなの歴史だ」
荒「まだまだ現役の奴が多いからなァ。もっと写真増えるぜ」
荒北は新開の隣に立って、一緒に写真を眺める。
荒「ホラ、オメーと福ちゃんの来月のレース用にここ空けてあんだ」
スペースの空いている壁を指差す荒北。
来月の日付と大会名の書いた札だけ既に貼ってある。
新「これ、すごくモチベーション上がるんだぜ。ここの壁に写真飾るために絶対表彰台に立つんだ、って。寿一といつも言ってるんだ」
荒「お役に立ててなによりだぜ」
新「ありがとうな、靖友」
新開は荒北を見つめて礼を言う。
荒「礼の言葉より、写真の方がオレぁ嬉しいんだヨ」
荒北は顔を赤らめ、そっぽを向く。
新開は一番奥のソファ席に行き、飾ってあるギターを手に取った。
新「ね、歌ってよ靖友。オレの好きないつものやつ」
荒「またかよ」
荒北は溜め息をつきながら、新開からギターを受け取る。
新「ライブとかすればいいのに」
荒「人集めるほど上手くねんだ」
新「上手いと思うけどなぁ。オレは好きだよ、おめさんの歌声」
~ボロン。
ギターを弾き始める荒北。
新開の好きなやつというのは、エリッグ・グラプトンのチェンジ・ザ・ワールドという曲だった。
“もしも世界を変えられるなら
君の心の太陽になりたい
君を照らし導ける存在になりたい”
という内容の歌である。
荒北も、この歌が好きだった。
── 歌い終わると、新開はクッションを抱き締めたままソファで眠っていた。
荒「寝てるし」
荒北はギターを片付けた。
新開の側に寄って、寝顔を眺める。
手を伸ばして新開の赤毛をそっとかき上げ、顔を近付けた。
新開の唇に、自分の唇を3秒ほど押し付ける。
唇を離し、暫く見つめる。
荒「……」
ハァ、と溜め息をついて首を横に振った。
荒「おっとヤベェ。こんなとこ誰かに見られ……!!」
ギョッとする荒北。
窓の外で目をまん丸にして固まっている人物と目が合ったのだ。
荒「福ちゃ……!!」
心臓が口から飛び出そうになる荒北。
福ちゃんだ!!
福ちゃんに見られた!!
福富はそのまま入口に周り、ドアを開けた。
カランコロン。
荒北は青ざめて固まったまま福富を凝視している。
福「新開を迎えにきた。ちっとも帰って来ないからきっとここだろうと」
荒「そ、そう……」
滝のように冷や汗が流れる荒北。
福「起きろ新開。帰るぞ」
新開の肩を揺する福富。
新「ん……寿一……あと5分……」
寝ぼける新開。
福富は新開の肩を抱え、引き摺っていく。
二人の後ろ姿を固まったまま目で追う荒北。
ピタッ。
福富が足を止めた。
福「荒北」
荒「ハ、ハイ!」
気をつけの姿勢で返事する荒北。
福「……オレは何も見なかった」
荒「福ちゃんマジ天使ィィ!!」
荒北は二人が出て行くまでずっと土下座していた ──。
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