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唐仁原昌子
2023年6月25日 19:25
俺がそれに気がついたのは、授業終了まであと10分という頃だった。 片肘をついて、半分居眠りをしながらノートだけは適当に取る。 授業を受けているような顔をして過ごしていた俺は、机上の真っ白なノートを横切る「点」によって目を覚ます。(…蟻?) 午後の授業でぼんやりした頭を、じわじわ覚醒させた動く点は、一匹の小さな蟻だった。 俺のクラスは、校舎の4階にある。 どこから現れたのか全く
2023年6月18日 22:54
それは、よく晴れた6月の終わりのことだった。 元気だったじいちゃんが、本当に何の前触れもなく亡くなった。 ピンピンポクリとは、まさにこのことと大人たちは泣きながらも、大往生だと頷き合っていた。 おかげでかなり久しぶりに、いとこのたっくんこと、タクミくんに会えることとなり、不謹慎かなと思いながらも僕は少し嬉しかった。 そして何より、学校に行かない「正当な理由」を得た気もして、後ろめたさ
2023年6月11日 18:59
ついさっき、怪我をした。数年ぶりの怪我らしい怪我で、あまりに久しぶりに自分の血を見たものだから、必要以上に驚いた。怪我らしい怪我とは言ったものの、実際別に大したものではない。ハサミを使っていたときに、少し手元が狂って左手の指先を切った程度のものだ。止血をするために、右手で切った指の付け根をぎゅっと抑える。ぐっと力が入ったことで、傷口の近くに集まっていた血がわっと盛り上がる。それは
2023年6月4日 23:03
その部屋には、革張りの立派な椅子があった。 見た目どおりどっしり重くて、簡単には動かせないくらいの一人掛けソファーのようなものだ。 長い間、それなりに手入れをされてきたのだと思う。触るとつるつるしていて、ぴかぴかに光沢が出るくらいよく育った革だった。 それは、祖父の家の西側にある、風通しのよい部屋に置かれていて、よく祖父が西陽の眩しさの中まどろんでいるのを見かけた。 夏場は暑いくらい