交信開始

「それうまい?」

「ん、落ち着く…………」
グラスに入ったホットレモンウォーターをゆっくりと飲みながらルナは目を閉じて身体がじんわりと温まっていくのを感じた。
フィスィは木の椅子に座るルナの太ももの上でまた丸まって座っている。まだ眠いのか目を細めてのんびりとしているのだ。

「ふう…………温まる」
グラスに入ったレモンウォーターを半分くらい飲むと、それをテーブルの上に置く。
ルナは首を左右に動かしてポキ、ポキと音を鳴らした。
朝の柔軟体操もまだしていない。いきなりリンが来たので、色んなルーティンが置き去りだ。

「なあ、まだー?」
リンが椅子に座りながら、上半身を左右に揺らしながら待ちくたびれた様子でいた。
そんなこととはお構いなしにルナは、フィスィを木の椅子に乗せ、朝のルーティンの柔軟体操を始めた。

「うるさいなあ…………ちょっと待ってな…………朝のストレッチしたいの」
ルナはかなり身体が柔らかい。
一つ一つ、丁寧にストレッチをしていくルナ。
ルナはリンと背丈がほとんど変わらない少女だ。
リンと同じくよく動き、よく外へ出かける。
リンは待っている間、窓から見える青い空と海を眺めていた。海の上にある青い空の中に何羽かかもめが飛んでいるのが見える。

「ふう…………んじゃ、やるか」
ルナはそう言うと、ヘアゴムで、後ろ髪を括り出した。
近くにあった白いシャツを羽織ると、また木の椅子に座り出す。
股をやや開いて、左右の手の甲をそれぞれ左右の膝の上に乗せる。そして顎を引いて背筋を伸ばし、そのままゆっくりと深呼吸をし出した。

「うむ。待っておったぞ」
リンがわざとらしくそう言うと、向かいに座るルナが交信を始めるところを眺めていた。
ルナはしばらく何回か深呼吸を繰り返していた。繰り返していくうちにルナの体の周りから何やら白い煙のようなものが出てきた。
正確にはこれはいつもただよっている気、やエネルギーと呼ばれるものなのだが、ルナが集中し出すと、それがさらに明確に露わになっていくのだ。
リンは大きな眼を開けたまま、ルナの肩の上から立ち昇っていく湯気のような、蒸気のような、その白い煙を不思議そうに眺めていた。

「うん…………一番近いとこ、でいいよね?」

「おん!…………見つかった?」

「待って…………うん…………なんか大きい岩…………ああ、うちの家の真後ろの丘あるでしょ?あそこの丘を登った先にある岩だこれ」

「あー!あそこな」

「…………の、岩とその隣に生えてる大きな木の根元だね」

「ふむふむ」

「深さおよそ…………5m」

「ごぉ!?」

「うん…………だいぶ深いねこれ…………しかも根が太くてかなり掘るの大変…………あ、待って」
ルナはそう言うと目を閉じたまま、何かを探るように黙り出した。
リンも同じく静かに黙ったまま向かいのリンを眺めていた。
石だ。
目当てのラパール石ならいいのだが。
リンはそう思っていた。どこのネットで探しても見当たらない石だ。今一番欲しいのはその石。でもそれ以外でも役に立つ石は多い。
リンはルナが見つけた石なら必ず意味があると思っていたので、どんな石でも必ず掘り当てようと決めていた。

「うん…………これラパールじゃない」

「お…………おけ」
若干ショックだったが、仕方ない。
リンはそのままルナの交信内容に集中した。

「ええっとね…………なんか黄色くて…………結構でっかい…………クリスタルに近いかも」

「あ、イエロークリスタル?」

「多分それよ…………とっても透明度が高い…………しかも一つじゃない…………一つは岩の下…………もう一つは木の根っこの下ね…………しかもこれ掘るの超大変だと思う」

「まじかぁ…………でもすげーな、だってイエロークリスタルって滅多になかった気がする」

「そうなんだ……うーん、根っこの下の方がでかいね…………それもかなり…………ふぅ」
ルナはそう言い終わると、目を開けた。
深呼吸を繰り返すと、やがて肩の力をより落として、ラクな姿勢に戻る。手前にあるレモンウォーターのグラスを掴むと、またそれをゆっくりと飲みだした。

「よし!…………行こう!ルナ!」

「もう行くの?」

「あたり前だろ!今しかないだろ!」

「私おなか減ったぁー」
ルナは頬を膨らませて騒ぎ出すリンを止める。
腹が減っては動けない。
まずは朝食だ。



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