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Letter to ME

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自分へ送る日々の備忘録(その2)
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#エッセイ

20221008あまねく夜に

急に冷えるようになって、毛布を引っ張り出してきた。体調が優れず、心も引っ張られるようで、木曜日も金曜日も仕事を休んだ。期せずして五連休になった私を、同僚は責めないだろう。優しく、干渉のない職場だ。そういうところに救われたり、傷つけられたりする。私が、ワガママだから。

寒い夜は、つまり、感傷に浸りやすい、ということだ。腹まで毛布をかけ、上半身は凛とした空気に投げ出していると、ざわざわと甘い痛みが胸

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Battle for your life―LADY GAGA CHROMATICA BALL TOKYO 9.3.2022

Battle for your life―LADY GAGA CHROMATICA BALL TOKYO 9.3.2022

今でも、夢を見ていたのではないか、と思っている。

2022年9月3日、埼玉の西武ベルーナドームでレディー・ガガの来日公演に参加してきた。参戦、という方が正しいのか、そもそも来日公演なのか、来日コンサートなのか、どういう言い方もしっくりこないが、とにかく、8年ぶりの来日と聞き、思い切ってチケットの抽選に申し込んだのは4月だった。当選したときは、本当に9月が来るのか信じられなかった。そして本当にガガ

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いつか思い出になる

もうすぐ8月が終わってしまう。何をするでもなく、暑かったな、という印象だけで今年の夏も終わると思う。
職場のクーラーが壊れている。設備課に問い合わせると、壊れてません、という。では設定温度を下げてくれないか、というと、28度と決まっています、という。プリンターもパソコンも、その他電子機器も、人間以上に熱を吐き出していて、私たちの事務所はいつも30度をこえていると思う。あきれてため息をつくと、後輩が

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祈りを託していいですか

こんばんは。ご無沙汰してます。お元気ですか。
いつも思い出したようにあなたに書いてばかりでごめんなさい。でも、こういうこと、あなたにしか言えないんですよね。なんて、本当、怒らないで、今日もまた、ゆっくり相槌を打ってくれるだけでいいんです。聞いてくれますか?

もう、あっという間に年末ですね。そろそろ年賀状を書かないといけません。どのくらいの人に書きますか?10枚?20枚?――年賀状って人宛てだから

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性格の悪い人

性格が悪いので、自分が嫌いな人が褒められたり庇われたりするのがあまり好きでない。というか私が嫌いな人はみんなからも嫌われて欲しいと思っている。私の性格が悪いから、というか人間、みんな、口に出さないだけで嫌いな人が虐げられても心が痛まない人はわりといると思っている。こういうところが性格悪いというかいつまでも上辺だけの明るさを引きずっている原因だと思う。

同じ課の、担当は違う男が苦手だ。まず歩く時の

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心の丁寧さ

夫が起き上る衣擦れの音で目が覚めた。外からは相変わらず雨の音がしていても、厚い雲の向こうではちゃんと太陽が出ているらしくほんのり明るい。朝だな、とだけ思ってまた瞼を閉じる。夫が階段を下りていく音がする。静かに、ゆっくり、少し湿った足の裏をそっと階段につける音。平日中々起きないのになぜか休日だけはさっと起きる彼は、私を無理に起こすことはしない。私も、小学生の頃は5時とか6時に目が覚めていたんだけどな

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窓越しに逝く春

今年は窓越しに春が終わっていく。社屋の裏には地元で桜が有名な公園がある。
晩冬から、桜はいつ咲くか、などと話していたのに、気づけばもうほとんど緑がかった木ばかりになっていた。いつもなら、家族と一緒に見ていたはずの桜だったが、今年は世の情勢とそれ以上に自分の心に余裕がないために、気づけなかった。毎夜、とぼとぼと公園を横切って駐車場へ行くまでの道すがら桜の木を認識していたはずだったが、夜桜とは言えない

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透明の光に包まれて

朝、遮光カーテンを引いていても明るくなる部屋で、私は目を覚まし直感的に「無理だな」と思い、まだいびきをかいて眠っている夫を頼りない声で起こした。
今日は仕事休みます。私のかすれた声をきいて、夫は静かに起き上がりこちらの顔をのぞきこんでわかったよ、とそれはそれは優しい声で言った。一日休むの?職場に電話しておこうか。私が言うよりも先に、彼は察するものがあったのか、願うとおりのことを言葉にしてくれたので

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悲しみなんて自分ひとりで癒すものさ

友人の中でもわりかし親密な友人の誕生日があったことをうっかり忘れていて、急いでメッセージだけを送った。私はもうすでに三十路の洗礼を受けて身体がボロボロです、と文字を打って、なんだか本当にその通りすぎてちょっと悲しくなってしまったので送るのを少し思いとどまった。
最近は病院ばっかりかかっていて、毎朝昼晩と薬を飲んでいる。食前と食後。しかも塗り薬もあるし、歯科にもかかっているので今日は麻酔を打ったので

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理解の及ばぬ天啓

この時間になると決まって隣家が少し騒がしい。
ドアを開けたり閉めたり、家具を動かしたり、歩き回ってみたり。本当にそんなことをしているのかは知らないが、ドタドタ、ガタガタ、何かしら音を立てている。

何度か見かけた隣家も、私たちと同じような若いカップルだった。夫婦かもしれないが、特筆することのない二人だった。
その前の入居者は私たちよりも先に入居していて、夫婦と子供の3人ぐらいだったようだけど、冬の

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あせも

小さなころからあせもがよくできる子どもだった。背中がいつもかゆくて、汗をかくたびにかゆくて、お風呂に入るとよくしみた。母には、お風呂にしっかりはいればあせもはよくなるんだ、と言われて、もともとお風呂が嫌いだったから、お風呂につかるという行為がもっと憎々しく思えた。お風呂につかるとまた汗をかいて、また背中がかゆい。いい加減にしろ、と思いながら、扇風機にあたっていた。寝汗もすごいから、といって、私が寝

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春などこなくていい

洗濯物を干していると、先日まではすぐに足先が氷のように冷えていたのに今はもうその億劫さがない。南向きの物干し場は、一日中よく日が当たる。雲一つない。快晴の陽を浴びていると、汗すらにじむような気がする。じわり、と、内臓の裏の方が暑さを感じで、それが、にじむ感じ。きっともっと暖かくなったら、その暑さは本当に汗として私の分泌腺から表面に現れる。そういうことが、ひどく恐ろしくて、春は嫌いだ。汗をかく前の、

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使えない錬金術

朝、起きることができない。
朝、起きて、洗濯ができない。
少し早く起きて、洗濯をして干さないと洗濯物がたまる一方だ。
そのことを理解した上で、朝、起きることができない。
朝、起きることができないときは、仕事から帰ってきて夕飯を作る間に洗濯機を回し、作り終えるころには洗い終わっているから、カゴに詰めてコインランドリーに持っていく。二日でたまった二人分の洗濯物はわりと重いが、自分ひとりで運ぶので鍵を閉

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僅かな祈り

高校の同級生が亡くなったのだそうだ。こんな文章を書いておきながら、私にとっても、この文章だけの情報しかない。理解も、この文章だけを理解している。そんな感じだ。そんな感じの関係の、同級生だった。
就業時間中にメッセージアプリに通知がともり、見ると社会人になってから顔を合わせてたまに話をする高校の同級生からで、文面は、また、別の同級生から、そのまた別の同級生が亡くなった旨のメッセージが来たので転送する

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