Letter to ME

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記事

悲しみなんて自分ひとりで癒すものさ

友人の中でもわりかし親密な友人の誕生日があったことをうっかり忘れていて、急いでメッセージだけを送った。私はもうすでに三十路の洗礼を受けて身体がボロボロです、と文字を打って、なんだか本当にその通りすぎてちょっと悲しくなってしまったので送るのを少し思いとどまった。
最近は病院ばっかりかかっていて、毎朝昼晩と薬を飲んでいる。食前と食後。しかも塗り薬もあるし、歯科にもかかっているので今日は麻酔を打ったので

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理解の及ばぬ天啓

この時間になると決まって隣家が少し騒がしい。
ドアを開けたり閉めたり、家具を動かしたり、歩き回ってみたり。本当にそんなことをしているのかは知らないが、ドタドタ、ガタガタ、何かしら音を立てている。

何度か見かけた隣家も、私たちと同じような若いカップルだった。夫婦かもしれないが、特筆することのない二人だった。
その前の入居者は私たちよりも先に入居していて、夫婦と子供の3人ぐらいだったようだけど、冬の

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あせも

小さなころからあせもがよくできる子どもだった。背中がいつもかゆくて、汗をかくたびにかゆくて、お風呂に入るとよくしみた。母には、お風呂にしっかりはいればあせもはよくなるんだ、と言われて、もともとお風呂が嫌いだったから、お風呂につかるという行為がもっと憎々しく思えた。お風呂につかるとまた汗をかいて、また背中がかゆい。いい加減にしろ、と思いながら、扇風機にあたっていた。寝汗もすごいから、といって、私が寝

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春などこなくていい

洗濯物を干していると、先日まではすぐに足先が氷のように冷えていたのに今はもうその億劫さがない。南向きの物干し場は、一日中よく日が当たる。雲一つない。快晴の陽を浴びていると、汗すらにじむような気がする。じわり、と、内臓の裏の方が暑さを感じで、それが、にじむ感じ。きっともっと暖かくなったら、その暑さは本当に汗として私の分泌腺から表面に現れる。そういうことが、ひどく恐ろしくて、春は嫌いだ。汗をかく前の、

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使えない錬金術

朝、起きることができない。
朝、起きて、洗濯ができない。
少し早く起きて、洗濯をして干さないと洗濯物がたまる一方だ。
そのことを理解した上で、朝、起きることができない。
朝、起きることができないときは、仕事から帰ってきて夕飯を作る間に洗濯機を回し、作り終えるころには洗い終わっているから、カゴに詰めてコインランドリーに持っていく。二日でたまった二人分の洗濯物はわりと重いが、自分ひとりで運ぶので鍵を閉

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僅かな祈り

高校の同級生が亡くなったのだそうだ。こんな文章を書いておきながら、私にとっても、この文章だけの情報しかない。理解も、この文章だけを理解している。そんな感じだ。そんな感じの関係の、同級生だった。
就業時間中にメッセージアプリに通知がともり、見ると社会人になってから顔を合わせてたまに話をする高校の同級生からで、文面は、また、別の同級生から、そのまた別の同級生が亡くなった旨のメッセージが来たので転送する

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逃亡者

数年前まで同じ課の同じグループで同じ仕事をしていた先輩と後輩と三人で焼肉を食べに行った。このメンバーでは大体半年に一回ぐらいのペースで、お肉を食べる会をやっていて、毎度おいしそうなお店を後輩が見つけてくるので私も先輩も二つ返事で決定する。
今日のお店も大変においしくて、牛タンは冷蔵庫に入れないで保存するらしく、そのためなのか分厚いのに柔らかく、三人で革命だとわいわい騒ぎながら食した。
今、三人とも

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ぶどう色の夜

午後7時、会社を出た。駐車場が離れているので、暗い敷地内を歩いていると少し離れたところできゃあきゃあと子どもが騒いでいる。こんな時間に、と思ったら、会社近くの市営プールで水泳教室を終えたらしい子どもたちと、迎えの母親が歩いてきた。会社とプールを隔てるような道を横切って走っていく。会社の反対側には公園があって、そっちに走るようだ。母親はさして必死になるでもなく、「もう帰るよ、そこまでいかないで」と声

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煩悶ぐらいさせてくれ

いつも心から煩悶している。何を、と言われるととくにない。ないのだけど、いつも心から煩悶しているのだ。その内容を書きとめる言葉を、道筋を、私は持たない。持たないからこそ、煩悶している。
私の身近な人には伝わらない煩悶。別に、身近な人に限ってではない、赤の他人にだって、別に伝わらないのだ。だって、私が煩悶しているだけだから。

仕事を休んであっという間に二か月が経った。といって、その二か月に自分の憂鬱

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半永久的に続く孤独

朝、走っていく男子中学生とすれ違った。白い半そでのカッターシャツの左胸を一生懸命おさえながら「おはようございます」と言い放ち、走っていく。どうして左胸をおさえているのか、彼が近づいてきてみると、左胸のポケットに入っている生徒手帳が落ちないようにしているのがわかった。彼の体が弾むたびに、生徒手帳も弾んでいる。おはよう、と返す前に彼は走って行ってしまった。いまどき、スポーツ刈りにしている中学生だった。

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