祈りを託していいですか

こんばんは。ご無沙汰してます。お元気ですか。
いつも思い出したようにあなたに書いてばかりでごめんなさい。でも、こういうこと、あなたにしか言えないんですよね。なんて、本当、怒らないで、今日もまた、ゆっくり相槌を打ってくれるだけでいいんです。聞いてくれますか?

もう、あっという間に年末ですね。そろそろ年賀状を書かないといけません。どのくらいの人に書きますか?10枚?20枚?――年賀状って人宛てだから、何人、と数えた方がいいのですかね――それとも、書いてくれた人にだけ書きますか?私は大体、15枚ぐらい、毎年書いています。
夫の分も合わせると大体30枚程度。喪中の人には書けませんから、その時その時で増減はありますね。そうすると、絶対に余るのです。
30枚買わないときは、大体それ以上必要になってしまって、ほしい枚数より多く買わないといけない包装ですからね、余るのですよね。
それに、私、おっちょこちょいなので、毎年1枚2枚は書き損じてしまいます。住所とか、インクジェット面になかなか文字がかけなかったりして。そういうのが、ずっと溜まっていたんです。普通のはがきも余ったりして。
あなたはそうではないですか。余ったり、しませんか。私なんかは、どうもなかなかうまくいかなくて。

もったいないなとは思っていたのですよ。郵便局に持っていけばどうにかなるということも、朧気にはわかっていました。ただ、億劫で。
以前、カウンターにいた局員さんがとても横柄な人で、私が差し出した手紙も、払ったお金も、出してきたおつりも、全部片手でしたから、もう嫌だなと思いました。
それで、調べてみたら、私、知らなかったんですけどれど、世界の子どもへの寄付になるみたいで。書き損じはがきとか、未使用のはがきが、です。
中々、柄にもないことなのですけど、自分のために郵便局にいって横柄な態度をとられるよりは、誰かのためにポストにいれる方がよっぽど簡単だと思いました。
あなたはどちらを選びますか?

それで、今までためていた書き損じはがきや、未使用のはがきをまとめました。それと、使用済みの切手もいいということだったので、いつだかに姉からもらったアナスイのショッパーバッグに詰め込んでいた、これまでもらった手紙をひっくり返しました。
しかし、どうして他に何かしなくちゃいけないことがあるのに、人というのは余分なことに気を取られてしまうのでしょう。私もご多分に漏れず、なつかしい手紙の数々を開いては読み、開いては読み、を繰り返してしまいました。絶対に読まないほうがいい、と思うのに、パンドラの箱だと思うのに、懐かしい便箋を、懐かしい文字を追ってしまうのでした。

中学生時代の担任からもらった別れの手紙、ひどい別れ方をした彼氏からのラブレター、高校時代の親友からもらった呪詛の手紙、三十路の誕生日にもらった夫からの優しい手紙。
そして、文章をきっかけにして出会い、いつしか離れてしまった人たちからの言葉の数々。

笑っちゃいませんか。こんな私にも、関わってくれた人がこんなにもいたこと。
その大半とはもう、連絡もとれないこと。
そのほとんどの人のことを、私は傷つけた記憶があること。

自意識が強すぎるのかもしれません。みんな、私のことなど忘れていることでしょう。それでも、その時々の交歓や感情のぶつかりは、手紙に閉じ込められ、彼らの文字で表され、ここにあるのです。

笑っちゃいませんか。私はそれらを読めば、その時々の心がよみがえるのです。のどが詰まり、鼻の奥がつんと痛み、愛憎相半ばするのです。
もう、10年以上前のことでも、手に取るようにそのときの自分に戻ってしまう。そして、今もまだ、その気持ちを、その心のなりを携えたまま大人になってしまっているのです。彼らがどれだけ私のことを忘れようとも、私には忘れることはできません。

ああ、なんと愚かで、自己愛の強いことでしょう。
そしてまた、懲りずに人を傷つけることもわかっていて、それでも、人に焦がれてしまう。誰かへの愛しさや憎しみを、堪えることができないのです、

一枚一枚読み返しては、切手を切り取っていく。それはまるで儀式のようでした。
彼らに許しを請うような。
自らを許すためのような。

そうして切り取った切手たちは、小さな透明のビニル袋に入れて、書き損じのはがきたちと一緒に茶封筒に包みました。世界の子どもたちとは全く関係もない、ただただ矮小な私の身勝手な祈りを込めて。

笑ってください、こんな恥ずかしい話。ばか真面目に聞いてほしいわけじゃないんです。どうか、心が愚かな私を、笑ってください。それがまた、私の救いになるのですから。

あなたは、誰にどんな手紙を書いたことがありますか。
忘れられない愛しさや、憎しみや、悲しさや、喜びが、ありますか。
恥ずかしくてもいいのです。私も、ゆっくりと相槌を打ちますから、こっそり、教えてください。