20221008あまねく夜に

急に冷えるようになって、毛布を引っ張り出してきた。体調が優れず、心も引っ張られるようで、木曜日も金曜日も仕事を休んだ。期せずして五連休になった私を、同僚は責めないだろう。優しく、干渉のない職場だ。そういうところに救われたり、傷つけられたりする。私が、ワガママだから。

寒い夜は、つまり、感傷に浸りやすい、ということだ。腹まで毛布をかけ、上半身は凛とした空気に投げ出していると、ざわざわと甘い痛みが胸に忍び寄る。胃より上、心臓より下の、心があるかもしれない場所が言葉もなく疼くのだった。

好きな男から連絡を待つ夜。
友人とボソボソ話す夜。
同僚にひどく傷つけられた夜。
別れを切り出した夜。

本当は、そんな思い出なんてないのかもしれない。冷えた指で打つメッセージも、耳だけが熱くなる長電話も、そんなものは、ないのかもしれない。
でも私の胸は疼き、そのときの言いようのない高揚感や寂寞は、確かにあって今も尚追体験してしまうほどに、遍く夜にに重く深く刻まれている。

夫が隣で寝息を立てている。彼の夜にも、そういう夜はあっただろうか。
この気持ちも、私の夜に刻まれただろうか。