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香り出す夏の匂い

汗をかいた胸元

シャツの襟首をはたはたとゆすれば

潜り込む涼やかな空気と

漏れて香り立つすんとした汗の匂い

夏が身体から染み出してくる

雨なんて降ってないのに全身びしょ濡れ

なんだったらむしろ冷たい球体の恩恵に

賜りたいが頭の上から降り注ぐは強烈な日差し

夏空は今日も今日とて目が覚めるほどの青

魚のように泳ぎただよう雲の輪郭を

際立たせる眩いばかりの陽の光

息を吸うのも辛いから

海の中にでもいるかのようだ

身体は渇いて

心は必死で

脈打つ鼓動はばっくんばっくん

生きてるのが精一杯の体たらく

ここは海の底ではなくて

地上でただいまもっとも

涼やかさからはかけ離れた時間帯

灼熱の時間帯

蝉時雨により麻痺る聴覚

煮えたった青い世界をよたよたとよろめき

歩く僕は半魚人のようだ

求める涼やかさは

この地上からは消えてしまったかのように

あらゆるものが熱せられていた

干からびて乾物にされたら堪らないから

倒れるわけにはいかない

濃い緑の葉っぱをもさもさと茂らせた木の下に

ちょうどいい日陰があり

急いで避難してへたり込んだ

熱い風が時折申し訳なさそうに

吹き抜けていくがないよりはマシだ

汗で濡れた身体にはそのくらいがちょうどいい

枝葉の隙間からキラキラ漏れる日差しが

木の下にいるからなのか少し優しく感じられた

蝉の声を聞く心にも余裕が生まれて

ようやく浸れる夏の昼下がり

汗で濡れた身体が冷えたからかくしゃみを一つ

僕の身体から染み出した

夏が少しずつ落ち着いてきた

今しばらくはここにいよう

日陰からみる日向の世界

眩しくて荒ぶる凶暴な夏が

すぐそこに広がっている

夏が笑っている

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